第27話 砂漠

俺達は今、エルフの村から出てアクアシティを目指し歩いていた。


「ねぇソウタ」

「なんだ?」

「暑い」

「もう!言わないでくださいよ!」


訂正しよう。俺達は今、砂漠の中を歩いています。


メイが敬語に戻っているのは「やっぱり敬語の方が話しやすいので敬語でもいいですか?」と言われたからだ。それに、俺とセリスもメイには敬語の方が似合う!と意見があったので了承したのだ。


「我慢してくれ」

「もう無理!暑い!喉かわいたー!」

「大きな声を出すと余計暑くなりますよー」

「そうだぞ、それにそんなに暑いならそのコート脱げよ」

「いーやー!」


俺とメイは元々涼しい服装なんだが、セリスが着ている黒のコートは見ているだけで暑い。コートさえ脱げば短パンと白シャツなので絶対にマシになるはずなのに、何故か脱がないのだ。


「なんで脱がないんだよ」

「ソウタのエッチ...」

「俺は上着を脱げって言ってるだけだろ」

「バカ!変態!」

「セリスさんもソウタさんも少し落ち着いてください!」


この暑い中言い争うとマジでヤバイ。無駄に体力を消耗してしまう。


だがセリスは頑なにコートを脱ごうとしない。それにイラついたソウタは強行手段に出てしまった。


「おら!脱げよ!」

「いーーーーーやーーーーー!!!!!!」

「何してるんですか!?セリスさんから離れてください!!」


セリスの着ているコートを脱がし始めたのだ。そして必死に抵抗するセリスと、頑張ってセリスからソウタを引き剥がそうとするメイ。それを砂漠のど真ん中で行っているのだ。傍から見たらただのバカ達である。


数分後、セリスとメイの抵抗は虚しく終わり、ソウタにコートを取られたのだった。


「ほら!これで涼しいだ...ろ...?」

「うぅ〜、だから脱ぎたくなかっのにぃ〜」

「ソウタさんのデリカシー無し!」


なんとセリスのシャツが汗で透けていて下着が見えていたのだ。それに、普段はコートで見えない白くて細い腕と足が見える。それに透けたシャツの下の下着の下から微妙に見える胸に目がいってしまった。


それを見たソウタは固まってしまった。


「.....ソウタ?」


とセリスに名前を呼ばれてようやく意識を取り戻した。


「その、ごめん」

「.....謝るならコート返して」

「嫌だ」

「.....変態」

「誤解だ。俺の上着を貸してやるからそれを着てくれ」

「.....わかった」


そして俺は服を貸し、コートを預かった。服を貸したおかげで少しだけ暑さがマシになった。それはセリスも同じようで、さきほどより顔色がよくなった。


「その服って暑くないんですか?」

「これか?通気性がいいから風が吹くと涼しいぞ」

「そうなんですね」


そんなことを普通に話しているが、セリスはずっと下を見ながら俺とメイの後ろを歩いている。


理由はさきほどのことだろう。コートを無理やり脱がし、下着まで見られたのだからしょうがないことなのだが、それはソウタの善意でやられたことだとわかったので、少し気まずいのだ。


「こういう時って、なんて言ってやればいいんだ?」


そんな質問をメイにしてみると、


「自分で考えてください!このデリカシー無し!」


と言われ、セリスの方へ行ってしまった。


その頃セリスはというと、


「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた」


と誰にも聞こえないような声でずっと言っていた。


そしてセリスに近付いたメイは、セリスさん超怖いです!!と内心叫びながらも話しかけた。


「せ、セリスさーん?大丈夫ですかー?」


するとセリスが止まり、動かなくなった。そんなセリスに驚いていると、笑い声が聞こえた。それも、セリスの方から。


「ふふっ、私の胸、見られちゃった、ふふふっ」

「だ、大丈夫ですよ!ソウタさんはセリスさんに見とれていましたよ!」

「...本当?」

「はい!ばっちり胸を見てたのを見ました!」

「...ふふっ、こんなに小さいんだ、と思って見てたんだ、ふふふっ」

「違いますよ!あーもーどうしたらいいの!」


セリスがダークサイドに落ちそうなのを必死に止めようとするが、心にできた傷は予想以上に深かったみたいだ。ちなみに今は体育座りをしている。


そして、もう無理だ!と頭を抱えているメイ。傍から見たら世界が滅亡でもするのか?と聞きたい状況だ。


そしてようやくソウタがセリスの元へやってきた。


今まで一人で拗ねていたのだ。セリスと同じく体育座りで。


「おい、セリス」

「.....」

「おいってば」

「.....」

「セリスってば!」

「.....なに?」

「っ!?」


肩を揺らしながら名前を呼ぶとようやく返事をした。その目は泣きすぎて赤く腫れていた。


いつもは大声上げて泣くくせに、こういう時に静かに泣いてんじゃねぇよ!


「セリス、さっは本当にごめん。やりすぎた」

「.....うん」

「その、そんなに脱ぐのが嫌だとは思わなかったんだ」

「.....うん」

「だから、セリスが許してくれるならなんでもする!だからもう、泣かないでくれ」

「...私、泣いてないよ?」

「え?」


セリスは首を傾げながらそんなことを言った。


「え?だって、目が腫れてるぞ?」

「えっ本当!?たぶん砂が目に入った時に擦っちゃったからだ...」

「な、なんだよぉ」


俺は腰が抜けたように倒れた。そんな俺を見てセリスとメイは笑っている。


でも、よかった。本気で泣いたんじゃなくて。


そんなことを思っていると俺のスキルである敵探知に反応がでた。それも、真下からだ!


みんなも敵が真下から来ていることに気付いたようで、その場から急いで離れた。


「何か来ていますね」

「そうみたいだな」


するとさっきまで俺達がいた場所から勢いよくワームみたいなモンスターが飛び出した。


「なぁーんだ、ワームか」

「期待ハズレですねぇ」


セリスとメイが二人ともモンスターを見てガッカリしている。


「なんでそんなに落ち込んでいるんだ?」

「ワームって超がつくほど弱いモンスターなの」

「それはもう一瞬で倒せるぐらいですよ」


なるほど、それで二人ともガッカリしていたのか。


「いや、おかしいだろ!?なんで落ち込む必要があるんだよ!」

「だって、せっかくソウタにいいところ見せれると思ったんだもん!」

「私もです!」


何故か二人に責められたんだが...まぁいいか。


「じゃぁ倒してくれ」

「うん!」「はい!」


俺が呆れながら言うと二人とも元気よく返事をし、ワームを瞬殺した。


「私達強いでしょ!」


ねぇー!と二人仲良くしていて微笑ましいんだが...


「確かに強いな、でもお前ら怖ぇよ!」


笑顔でモンスターを狩る見た目女の子と女性とか恐怖でしかない。でも二人はきょとーんとしている。なにが怖いのか分かっていないみたいだった。


「まぁいい、それより早くこの砂漠を出よう。暑くて死にそうだ」

「そうだね」

「そうですね、私もそろそろ限界です」


そして俺達は砂漠を抜けるために急いで歩いた。だが三時間ぐらい歩き続けても砂漠を出ることは出来なかった。


「この世界の砂漠に関する情報って何かないのか?」

「うーん?私は知らないですねぇ」

「あ!」


何か思い出したような声を出したセリス。でも何故か言おうとしない。


「おい、何か思い出したなら早く教えてくれ」

「えーっとね、怒らない?」

「あ?なんで怒るんだよ」

「えーっとね、師匠から言われてたんだけどね、たぶん、この砂漠はワームに案内してもらわないとでれないの〜、なんて」

「.....」


なるほど、だから怒るかどうか聞いてきたのか。


実は、さきほどから出てくるワームを全て駆除しているのはセリスであったのだ。だから怒られるとおもったのだろう。


「そんな事で怒らねぇよ」

「そうですよ!セリスさんのおかげでここから脱出する方法がわかったんですから!」

「うぅ〜ありがとね」


セリスはみんなが優しすぎて感動している。そしてちょうどよくワームが目の前に現れた。


「さぁ、こいつに案内してもらおうぜ」

「「おぉー!」」


そしてワームに近付いたその直後、ワームから光線が飛び出した。


「ッ!?聖壁ッ!」


俺はなんとか聖壁を発動させ、みんなを守った。


「おい!俺達を案内してくれるんじゃないのか!?」

『お前達は我が同胞をたくさん殺しただろう?なぜそんな奴を案内させねばならん』


理解は出来る。だがしかし、諦めるわけにはいかない。


「悪かったよ。俺らは暑さで参ってたんだ、だから許してくれ。それに、」

『それに?』

「これ以上俺らがここにいてもいいのか?」

『どういうことだ?』


よしっ、話しにノッてきたぞ!


だが、もちろんそんなことは顔には出さない。


「俺らがこれ以上ここにいれば、お前らの同胞は全て死ぬぞ?」

『ふはははは、冗談も大概にしておけよ、人間』

「はぁ、ならしょうがないな。本当にしょうがない」


そして俺は全力の威圧を目の前にいるワームに発動させた。


『こ、これは、!』

「これは冗談じゃない。早く案内しないと、ここにいるワーム全てを殺すぞ?」

『ふ、ふざけるな!そんなこと、今の人間にできるはずが...!』

「なら見せてやるよ。天撃ッ」


ドォォォンと砂漠に鳴り響いた。その瞬間少し離れた場所に大きな穴があき、大量のワームの残骸が砂とともに空から降ってきた。


「な?言っただろ?」

『くっ!よかろう、案内してやる。ただし条件がある』

「おいおい、立場がわかってないのか?」

『あぁ、わかっている。だから約束してほしい。貴様達を案内すれば我が同胞を殺さないと』

「そんなことならいいぞ」

『ならば、我の上に乗れ』


そう言ってワームが頭を地面に着け、乗りやすいようにしてくれた。


「案外乗り心地いいな」

「鬼だ」

「鬼がいます」

『まさかこんな外道を案内せねばならん日が来るとわな』


そんなことを言われながらも砂漠を抜けた。


『もう二度と来るなよ』


そう言ってワームは帰っていった。その後みんなに、


「ソウタってあんなにひどいことする人だったんだね...」

「私、ソウタさんのこと見損ないました...」

「なんでそんなに言われなきゃいけないんだよ...」


と、みんなから軽蔑の目で見られ続け、拗ねたソウタをみんなが慰めるのはまた別の話。

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