第2話

目が醒めると、俺は元の世界の俺に戻っていた。

1日近く夢を見ている様に感じていたが、時計を見ると21時30分、1時間くらいしか寝ていなかった様だ。



「やっぱり夢だったんだな。」



心の声が漏れる、そう感じた途端に涙が溢れだした。

俺の初恋の相手、牧村はこの世界ではもういない。でも俺は、何を考えたのか夢の中での牧村との約束を守る事にした。



俺はスマホを取り、3か月以上まえのLINEの履歴から牧村を見つけた。



最後に送っていたメッセージの既読のマークが俺の心を締め付けた。

この時の牧村はどんな気持ちだったんだろう。


そんな事を考えながら、俺は過去のメッセージを遡って見ながら、牧村との思い出を振り返っていた。


いくつか遡って見てみると、俺はある1つのメッセージに、自分の目を疑った。



"あたしらももう、23歳だよね。弘樹はさぁ7年前の約束覚えてる?"


話しの流れ的には、同窓会とかそう言った類の約束だと、その時の俺は思っていたみたいだが、そのあとの"あたしの勘違いかも"というという牧村の言葉も今となっては気になる。


7年前。そう、俺が牧村と夢の中でした約束なんじゃないのか? もし、そうだとしたらあれは夢じゃなかったんじゃないだろうか?


俺は既読の付くはずのないメッセージに返信した。


"7年前の約束だけど、覚えてる、気が付けなくてごめん。今からでも約束を守りたいんだけど。"


当たり前だけど、メッセージに既読は付かなかった。

でも、この時俺が覚えてると返信出来ていたら、どんな返事が返って来たんだろう?


そしたら牧村は、自殺にまで追い込まれる事はなかったんじゃ無いだろうか。


そう思った俺にふと考えが過った。

今後も夢の中で何か約束をするかもしれない、その片鱗を今から見つけられはしないだろうか?


俺は、アルバムを引っ張りだし、おかしなところはないかを探そうと思った。


アルバムを開くと、4人で高校の修学旅行を回った時の写真が出てきた。


当時の俺は恥ずかしがっていたのか、写真では佐々木と宮田を挟む感じで俺は写っている。


そういえば、あの頃は佐々木の方がよく話していた気がするな。



牧村に彼氏が出来た疑惑がでて、ショックを受けて休んだ事もあったっけ、その頃牧村になんか避けられてた事もあって、そのせいで俺は告白はしなかったのだが。



結局は彼氏は出来てなかったみたいだったけど、実際はどうだったんだろうな……。



ピッ



メッセージ!? まさか。



"まだ起きてる? 3日後確定だから、会社とか休みとっとけよ? 多分頭真っ白になってその辺気が回ってないだろうから、一応連絡しとくわ"


良かれと思っての宮田のメッセージだったが俺に再度現実を突きつけた。




休みか……明日会社に言うか。




気付けば時計の表示は23時を回っていた。

明日も仕事が早いから寝よう、、、はぁ、仕事が手に付く気がしないな。


俺はそのまま眠りについた。



──あれ?またこの感覚だ。


朝、牧村が丁度制服に着替えるタイミングに来たみたいだった。


牧村の下着姿か、3年前のキャンプ以来な気がするなぁ、牧村はあんまり胸は大きくないけど、綺麗なボディラインしてるんだよな。でも今話しかけたら怒られるだろうな。


牧村が家を出るタイミングを見計らい声をかけた。


(おーい牧村、きこえる?)


(弘樹? また来たの? もうでてこないかと思ってたよ)


(まぁ俺も未来で目覚めちゃったから、もうこれないと思ってた)


「おっはよー由美!」

佐々木が牧村を叩いた。


「おはようみのり! どうしたの? 今日は早いじゃん!」


佐々木はいつもは学校にはギリギリ来ていたから、牧村と一緒に登校するのは俺もあんまり見たことがなかった。


「なんか早起きしちゃってさー、そのまま出てきたのだよ!」


「みのりが早起きとか、雪でもふるんじゃない?」


「まだ春だし降ってもOK! ところでさ、由美最近弘樹とはどうなの?」


「えー? 何にもないよ?」


「嘘だぁ? 結構仲よさそうじゃない? 」


「そんなことないよ!」

(ないのかよ!仲良くしてくれよ!)


「そっか! 好きならみのりに任せなさい! くっつけちゃる!」


「またまたぁ〜 本当に何にも無いんだって!」

(おいおい〜くっつけてもらえよ)


「それじゃ、みのりは職員室寄ってから教室いくから、またあとでねー」


「はーい、またあとで……もう、みのりは本当に、」


(で? さっきから超うるさいんですけど?)


(すまん、すまん)


(あたしと仲良くしたいんだったら過去のあんたに言えばいいでしょ?)


(はい、ごもっともです。)


(それで? 天の声弘樹君は未来に帰ってから告白はしたの?)


(はい! LINEは入れさせていただきました!)


(おっ? それで、あたしはなんて?)


(それが、牧村から返事が来る前に寝てしまい、今に至るわけで……)

 もちろん、本当の事は言えない。言えるはずがなかった。


(なんで告白までに3か月もかかってんのよ? 帰ったらすぐにって言ったのに)


(いやいや、こっちは3か月たってても、俺は3、4時間しか経ってないんだよ!)


(え? そうなの? まぁ、それならあたしが忙しいか、悩んでいるかね)


(悩むなよ!サクッとOKしてくれよ)


(未来のあたしがOKするとも限らないけどね)


(告らせといてひでぇ……)


(あと、テスト近いから今日は授業中は黙っててね!)


 そうやって俺は黙らされてしまった。

 でも牧村は、こっちの俺とはメールしてるみたいだし、今は仲がよさそうだ。


 そういえばこの時期の辺りかな、結構牧村と仲良くなって、告白をしよう考えてた時期だった気がするな。


 正直俺は、夢から覚めなくていいんだけどな。


(ねぇねぇ、未来の弘樹くん?)


(はいはい? どうしました?)


(あんたさ? 高校時代はあたしに告白はしてないんだよね?)


(はい、してませんです)


(このメッセージ、告白する感じじゃない? ……どうゆう事? )


牧村は俺から来たメッセージを見せた。


"今日放課後空いてる? 大事な話があるんだけど"


俺のメッセージにはそう書いてあった。


(いやぁこれは、確かこの時は、告白しようとして失敗したと思う)


(失敗? それ振られたって事?)


(うーん、たしか牧村来てくれなかったんじゃないかな?)


(あたしが? じゃあ、あたしが過去を変えて、バッチリ直接振ってあげる!)


(えー? 振るのかよ、可愛そうな俺。でもさ、これでおまえが行ったら歴史が変わるな。)

 この夢で、未来を何かしらで変える事が出来るかもしれない。そしたら……


(天の声弘樹くんはその場で居なくなっちゃうかもね?)

 そういうと、牧村はこっちの俺にメッセージを返した。


 "いいよ。17時駅前の公園で待ってて"


 (今のメール、俺のときも来たと思うんだけどなぁ)



──昼休み


(牧村? あれ? おまえどこいくんだ?)


(今日は委員会の話ししながらご飯食べるの)


(なるほど。それであの日のお昼いなかったわけね、てっきりメールの件で17時まで俺と話さない気かと思ってたよ)


(そんなわけないじゃん!)


 そういえばこの昼休み俺は、牧村がいなかったから、宮田と佐々木に告白すると意気込んで居たんだよな〜でも結局牧村は来なくて、宮田からは絶対両思いとか言われてたんだけどな。


──午後の授業の俺は明らかにそわそわしていた。


(牧村、なんかこっちの俺がそわそわ感出てるな)


(あはは、落ち着きないよね)


(ちゃんと、行ってやってくれよな? )


(もちろん、未来を変えるから!)


授業が終わり、こっちの俺はすぐに帰った。

もちろん、告白する為に家で準備しているのだ。


(まだ、1時間以上あるけど牧村はどうするんだ? )


(あたしはまだ、委員会の仕事があるのよ)


(なるほど、それで17時だったのか! はぁそれにしても俺まで緊張して来たわ)


 すると教室にだれかが入ってきた。


(まさかここで、牧村は攫われたんじゃ……)


「由美! まだいたんだ?」


 佐々木かよー、びっくりさせるなよな。


「みのり〜あたし、委員会の仕事がおわらなくてさぁ」


「ねぇ由美、その仕事が終わったらカフェいかない?」


(おまえまさか、カフェに行って来なかったんじゃねぇだろうな?)


「ごめんみのり、終わったら予定があるんだよ。」

(よーしよしよし、よく言った!)


「弘樹のところでしょ?」

 急に佐々木の声のトーンがかわる。


「そうだけど? だから今日は……」

「弘樹と付き合うの?」

「まだ、告白するつもりとは限らないし、、」


 佐々木はため息をついた様に

「昼休みに聞いたけど、弘樹は由美に告るみたいだよ。」


(えっ? 佐々木なに言っちゃってんの?)


「……」


「ねぇ、それで、付き合うの? 由美、弘樹とはそんなんじゃないって言ってたよね?」


「みのりには関係ないよ」


「もちろん、告白……断るよね?」


「だからみのりには関係ないって……」


「関係なくない! みのりは弘樹が好きなの。 これで、断るよね? 由美はみのりを応援してくれるよね?」

(えっ? ちょっと待って?)


「みのり……」


「わかった、由美が言えないならみのりが断ってきてあげるから」


(牧村、断るよな? な?)


「わかった、そう……して。」


(牧村?なんで? 歴史を変えるって言ってただろ?)


「うん、みのりがうまく伝えとく!」

佐々木は嬉しそうにそういうと走ってどこかに行ってしまった。


(なぁ、牧村? せめて自分で行ってくれよ)


(うるさい。 もう、ほっといてよ)


(牧村、それじゃあさ、おまえ、なんで泣いてんだよ。)


牧村は、それから俺に返事をする事は無かった。


本当に、これは俺の夢なんだろうか?

あの時、牧村から会う場所を指定されたのに来なかった事。なぜか佐々木からきた連絡で断られ、牧村には好きなひとが居て彼氏になりそうな話をされた事など、長年の疑問が晴れた気がした。


正直俺は、過ぎた事なので、この時過去の俺が振られてようがどうでもよかった。

ただ、結局、俺の記憶と変わらない内容になった事で、すこしでも現実を変化させられ無かった事が辛かった。


佐々木が去った後の涙と、家での涙は、多分みのりや俺たちとの関係を考えたものだったのだろう。ただ、もしかしたら牧村は俺のことを好きだったんじゃないかとさえ考えてしまった。


(俺はさ、本当に牧村が好きなんだ。 それだけはわかっていて欲しい)


泣いていた牧村にそう告げると、今回もまた、牧村が寝ると同時に俺も落ちてしまった。

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