第38話ドラゴンスレイヤーと


 何故こんなことになってしまったのか。そんなことは考えても分からないだろう。分かるのはこの男は確実に俺よりも強いという事だけだ。


 そして悪の元凶である王達が見ている。まず結界破壊魔法は使わない。あまりこちらの手の内を見せるわけにはいかないからな。だが手加減して勝てる相手じゃない。


「どうした?こないのか?」


 元帥は余裕を振りまきこちらの様子をうかがっている。できればここで殺しておきたい男だ。だがそんなことをすれば周りの兵に俺が殺されてしまうだろう。なら相手を無力化してこの場を収めることが一番だ。それが出来れば、だが。


「だけど、だけどやられるのもごめんだ」


 俺足に貯めた魔力を一気に使い「サンドニードル」を使い、次々に尖った土を元帥目掛け生やしていく。


「ぬん!!」


 元帥はそれを籠手で全て粉々にしていく。これを破壊する筋力とそれでもなお壊れないあの籠手はふつうではないな。


 俺は元帥が「サンドニードル」を壊している隙に「ブースト」を使いその破片に隠れながら元帥の背後をとる。


「ぬ!?」

「……は?」


 俺が元帥の背中に剣を振るううと、彼は後ろを見ないでそれを籠手で受け止める。後ろに目があるのかこいついは?俺は一旦距離をとる。


「ふむ。スピード、無詠唱魔法、攻撃の間合い。どれをとっても一流のそれと比べても引けを取らないレベルだ。見事見事。これは楽しめそうだな」


 脳金男の俺への評価はなかなかいいようだ。まぁあまり嬉しくはないが。さっさと勝負を決めてしまわないと長引けばそれだけ手の内を晒すことになる。俺は巨大な「ファイアーボール」を作るとそれを投げつける。


 元帥はそれを「マジックシールド」で殴り破壊するが、その爆風で砂塵が舞い辺りが見えなくなる。


「上か!?」


 元帥が俺に気づいた時には俺は手に魔力を溜め「ファイアーストーム」を叩きつける。


 元帥はそれでもよけようとはせずマジックシールドでそれを殴りつける。結界内には砂塵と炎が激しく舞い上がり温度が一瞬のうちに上昇した。


「ぬん!!」


 彼は見事にそれを防ぎきるがそこまでは想定内だ。化け物なのは初めから分かっている。王級魔法を殴り消す事も人間業じゃないが想像は出来た。俺は再び砂塵に紛れ後ろから彼に剣を振るう。


「ぬ!?」

「チッ」


 今度は防がれはしなかったが皮一枚しか斬れず、そのまま剣と籠手の激しいぶつかり合いが始まった。二人の攻撃で砂埃は吹き飛び周りから二人の様子が見えるようになった。


「ふふふ。楽しい。楽しいぞチャールズ!我をここまで楽しませたことのあるやつはそうはいない!誇りに思うがいい!」

「全然、嬉しく、ない!!」


 俺は後ろに飛びながら「アイスシャワー」を放つが全て元帥に叩き落される。動体視力に運動能力、そして攻防力どれをとっても人間業ではなかった。


「ふふふ。次はどう来るんかね?」


 元帥は余裕の表情を見せるが俺にはもう残り魔力が少なくなっていた。だが最後の仕掛けがまだ残っている。


「ん?」


 元帥がそれに気が付いた瞬間俺は剣を握りしめ駆け出す。先ほど「ファイアーストーム」を放った後砂塵に紛れ元帥の頭上に大きな「アイスロック」を放っていた。そして俺が下から攻撃することによって気をそらしていた。元帥は始まってから全く動いていない。それを逆手に取った攻撃だ。


 上から氷の塊、横から俺が元帥目掛け突進していく。流石に元帥の顔から余裕がなくなるだろうと思ったが、彼はニヤリと笑うと片手で氷の塊を粉々に壊し、そして俺の剣を片手で受け止める。


「中々いいアイディアだった。我は満足だ」


 そういい元帥が足を振るった瞬間俺の意識は途切れた。


「ん……」


 気が付くとどこかの部屋のベッドに横たわっていた。部屋には誰もおらずここがどこだかすらわからない。


「ぬ?目が覚めたか?」


 そこに現れたのは俺をぶっ飛ばした元帥だった。


「……何か用?」

「がっはっは!嫌われたか?まぁいい。お主に報酬を聞きに来たのだ」

「?渡しに来たじゃなくて?」

「うむ。ドラゴン退治の報酬はすでに渡した通り金だ。だが我と戦ってくれた報酬がまだ渡していないだろう」


 どうやら元帥と戦った報酬を貰えるようだ。まぁじゃないと俺はただ見世物にされてぶっ飛ばされただけだからな。


「で?なにくれるの?」

「それを聞きに来たのだ。何が欲しい?」


 いざ何が欲しいと聞かれると困る。特にほしいものはない。武器や防具は揃っている。お金も数年暮らしても有り余るほどは持っている。その時一つの考えが浮かんだ。


「王都の神官長と合わせてほしい」

「ぬ?神官長?そんなことでいいのか?」

「うん。普通に教会に行っただけでは会えないでしょ?」

「まぁ、な。まぁ分かった。そんなことでいいならお安い御用だ。明日にでも時間を作ってもらうように頼んでみよう」

「分かった」


 話が終わったと思ったら元帥は俺の顔をじっと見つめたまま動こうとしない。なんだか嫌な予感がする。


「それとだな。お主我の部下にならないか?宮廷魔導士でもいい。この国に使てみないか?」

「ありえない。断る」

「ぬ!?何故だ?少しくらい考えてみてもいいではないか?」

「断る。何を言われても断るよ。俺は国に仕える気はない。俺は冒険者だから」

「く、冒険者か。そう言われると強制は出来ないな」


 王もそうだったがやはりギルドの存在は大きいらしい。俺を守るために冒険者ギルドに入れてくれた両親には感謝しなくちゃな。


「そうだそれともう一つ。ドラゴンが王都の冒険者ギルドに届いた。恐らくギルドが買い取りそれを王も国が買い取る流れになると思うが。なのでギルドに顔を出しておくといいドラゴンスレイヤーよ」

「ドラゴンスレイヤー?」

「ああ。この国ではドラゴンを狩ったものをドラゴンスレイヤーというのだよ。最年少ドラゴンスレイヤーよ」


 なんか変な称号を貰ってしまったが今の話で一つ思い出したことがある。


「ねぇなんで伯爵はドラゴン狩りなんてしにいってたの?」

「ああ、あれは、まぁ儀式みたいなものだ」

「儀式?」

「ああ、この国ではドラゴンを狩ったものはドラゴンスレイヤーと呼ばれる。そしてそれは貴族であったとしてもだ。ブクブク伯爵は最近落ちぶれてきていてな。それを挽回するためにドラゴン狩りを行ったのだ。まぁここだけの話誰も期待なんかしていなかったがな」


 大声で笑いながら元帥はそれだけ言うと部屋から出ていった。俺は歯を食いしばり怒りで頭に血がのっぼっていた。


 ただの名誉挽回の為にフェラールの街はほろびそうになったのか?たかが貴族の権力の為に、見栄の為に。ふざけるな!そんなことが許されていいわけがない!


 俺は怒りで震えながらもその言葉を出すことが出来なかった。ここはこの国の中心である王城の中だ。誰かに聞かれでもしたら大変だ。


 俺はベッドから立ち上がり城の出口へと歩き出す。城の中は迷路のようになっていて中々出口が分からなかったが通りすがったメイドに道を聞き外に出ることが出来た。


 この短時間で色々なことがあった。ドラゴン退治に貴族の横暴を目の当たりにし、元凶の王に会い元帥と決闘をした。


 これだけでも貴族の身勝手さがわかる。やはりこの国は腐っている。ふざけている。


 城を出ると道行く人に聞き王都冒険者ギルドを見つける。地方とは違い外見も内装もかなり立派で大きかった。中に入ると屈強な男たちが酒場で楽しそうに酒を酌み交わしていた。


「ガッハッハッハ!ああ?なんだこのガキ。ここはガキの来るところじゃねーよ!」

「ハハハ!全くだ!かえってママのおっぱいでも吸ってな!」


 テンプレというのだろうか。俺を見つけた酔っぱらった冒険者がわざわざこちらまで来て絡んできた。彼らを無視して俺はカウンターまで行こうとするとフードを掴まれて無理やり止められる。


「おい!無視すんじゃねーよガキ!」

「ああ?触んな。殺すぞ?」

「ヒッ!?」


 俺は殺気を隠さず男を睨みつけると男はとっさにその手を離す。俺は今最高に機嫌が悪い。もしこいつらが殴りかかってでも来たら殺していたところだ。


「おい!何が気にビビってんだよ!」

「……いや。あのガキとは関わらない方がいい。ただもんじゃねぇよあの目は」


 そんな言葉が聞こえたが無視してカウンターにたどり着くと受付嬢に話しかけるが、彼女も俺の目を見ると「ヒッ」と小さく悲鳴をあげながらも咳ばらいをし何とか話しかけてくれる。


「ぼ、冒険者ギルドにようこそ。な、何の御用ですか?」


 俺は黙ってギルドカードを見せると受付嬢はそれを見て驚きもう一度俺の顔を見直す。


「で、では君が「最年少ドラゴンスレイヤー」!?」

「何だって!?」


 受付嬢が驚き大きな声でそう叫ぶとギルド中がざわつき一気に俺に注目する。どうやらドラゴンを倒した噂は広まっていたようだ。

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