第30話初のダンジョンと4

 空気が振動するようなうめき声と凄まじい威圧感を感じ思わず後ずさってしまう。だがここで逃げたらまた失う。震える手を握りしめ剣を構える。背中に壁を感じ急いで壁に手をつき魔力を流す。


「「サンドニードル」!!」


 特級魔法並みに魔力を込めたいくつもの土の棘を壁から生やした瞬間ケロべロスがこちらに飛んでくる。この攻撃が防げなかったら俺は死ぬ。全神経を魔力に集中する。


「ガァアアアアア!?」


 ケロべロスはあと数センチで俺に届き距離まで足を延ばすがその体はいくつもの棘に刺さり立ち止まる。俺は冷汗をかき歯を食いしばりながら全力でケロべロスと対峙する。


「「ファイアーストーム」!!」


 ケロべロスに至近距離から魔法を叩き込み反対の壁まで吹き飛ばす。が、俺も至近距離で大技を使った為その爆風で腕は焼け服がボロボロになる。だが治している暇などない。すぐに次の攻撃に備え魔力を練る。


 ケロべロスはいきなり吹き飛ばされた事に驚き警戒し中々近寄ってこなくなった。「サンドニードル」は恐らくもう効かないだろう。いくら魔物でも学習する。次は棘を破壊してから攻撃してくる。そうしたら一瞬で殺される。せめて皆が起きて逃げるまでの時間を作らなければ。


 そう思ったとき自分で自分がおかしくなる。他人の為に何故ここまでしているのだろう。先日であったばかりの人たちなのに。まぁいい。俺はきっと馬鹿なんだ。そう思うと体の力が抜け頭が冷静に働くようになる。これなら戦える。まだ俺にできることはある。


「「ウォーターウェーブ」「アイスゼロ」」


 大量の水を発生させそれを凍らせる。部屋の半分の地面が一気に凍り移動しずらくなる。これでしばらくは時間が稼げるはず。だがもう俺の魔力も残り少なく、あとは剣で戦うしかない。


 ケロべロスはいきなり地面が凍ったことに戸惑うが、それが滑ることを確認すると壁を蹴り天井を使ってこちらに飛んでくる。


「そんな犬いるかよ!?」


 俺は「ブースト」を使い壁を蹴り天井に逃げケロべロスの攻撃を躱す。相手の方が素早いが俺は「ブースト」のおかげで多少空中でも移動可能だ。


 そこからは空中戦になり何度もケロべロスが飛んできては躱しを繰り返していたがだんだん魔力がなくなってくる。このままではすぐに追いつかれ殺される。だったらこちらから仕掛けるしかない。


 空中でケロべロスを躱した瞬間を狙い体を斬り落とそうと剣を振るう。


 だがそれを読んでいたのか尻尾に防がれ俺は氷の地面に叩きつられてしまう。地面に当たる瞬間頭を打ち意識が朦朧とする。ケロべロスはそこを狙い上か飛んできて俺を踏みつぶそうと足を突き出す。


 その瞬間は凄く長く感じたのを覚えている走馬灯というやつだろう。地球の生活からこっちの家族、アニの街、旅をしてからの事、色々フラッシュバックし涙が零れる。ここで終わるにはあまりにも悔いの残る人生だった。まだ何もできてない。何も救えてないのに……。


 ケロべロスが迫り俺を踏みつけようとした瞬間、爆発音と共にケロべロスの足が斬り落とされ体が吹き飛んでいく。


「おい、見ろよケロべロスの奴ボロボロだぜ?チャールズの奴無茶したんだな」

「そうね。子供にあんなに頑張らせて大人として恥ずかしいわ」

「ん。もう許さない。絶対倒す」

「ああ、許さない。俺たちはAランクの「血の誓い」だ。チャールズが一人で頑張ってくれたんだ。俺たちがやらずにどうするんだ!行くぞ!!」

「「「おう!!」」」


 「サンドドーム」がから四人が出てきてケロバロスを睨みつける。どうやら何とか時間稼ぎは成功したようだ。


「アグネス。何秒だ?」

「ん。20秒」

「了解。じゃあ行くわよ」

「ああ、もうヘマはしない」

 

 四人が俺の横まで来るとアンドレアとイーサンは走り出しアグネスは詠唱を開始、ウェンディは弓を構え放つ。


「「インパクトレインショット!クイック!」」


 ウェンディは凄まじい速度で魔法の矢を作っては放ち雨のような矢がケロべロスを襲う。ケロべロスは尻尾でガードするがその矢の多さと衝撃に耐えられずいくつも体に突き刺さる。


「「シールドバッシュ」!!」


 イーサンはケロべロスの足に盾を叩きつけその体制を崩させる。


「神剣流奥義「絶剣」」


 アンドレアが剣を構えたと思った瞬間すでにケロべロスの前足が斬り落とされ、二人は左右に飛ぶ。


「ん。できた「アイスガシャワー」


 10個の巨大な尖った氷塊がドリルのように回転しながらケロべロスに向けて放たれる。凄まじい正確さと魔力操作だ。俺にはあれは真似できない、一つで限界だろう。


 ケロべロスは慌てて回避を図るが、その先にイーサンがいて「シールドバッシュ」で元の位置に戻され、そして氷塊に次々に当たり体の大半を削られる。


「終わりだ。神剣流奥義「絶剣」!!」


 ボロボロのケロべロスが倒れ頭が下がったところで再びアンドレアが剣を構え、そして次の瞬間ケロべロスの最後の頭が斬り落とされる。


 轟音と共に倒れたケロべロスはそのまま再生することなく沈黙した。


 四人は歓声を上げ喜び俺は倒れながら安堵する。四人はすぐに俺のそばに駆けつけてきてくれ心配する。


「大丈夫かチャールズ?」

「ごめん、なんか、動けない」

「ん。魔力の使いすぎ。無茶しすぎ」

「本当よ。でも助かったわ。チャールズがあそこまでケロべロスを追い詰めなかったらやばかったかも」

「本当だぜ。助かった。お前は命の恩人だ」

「ありがとうチャールズ。君がいてよかった」


 四人から賛辞の声を掛けられなんだか照れ臭くなるが体が動かない為顔を隠せない。そんな俺を見て四人は微笑みイーサンが俺を背負ってダンジョンの最深部まで向かう。


「でかいな……」

「ああ、こんなでかいの見たことねぇや」

「これだけで一生遊んで暮らせる金額になるわよ」

「ん。凄すぎ」


 最深部にあった魔石は小屋くらいの大きさがあり、蒼く輝いていた。イーサンはそれに手をかざすと魔法の袋にしまい振り向く。


「さ、これでクエスト完了だな」

 

 再び歓声が上がり、俺たちは一日休んでからダンジョンを後にする。


 こうして俺の初のダンジョンアタックは幕を閉じた。

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