第27話初のダンジョンと1

「へぇ、綺麗な歌を歌うんだな」

「あ……」


 馬車に乗りダンジョンを目指す道中俺は母さんが歌っていた歌を口ずさんでいたが。・、イーサンに指摘されやめる。別に恥ずかしかったわけではない。恥ずかしかったわけではないんだ。


 道中は特に何事もなく進み昼前にはダンジョンまでたどり着くことが出来た。ダンジョンの前には冒険者が待ち構えダンジョンからあふれ出る魔物を駆除する係を担っていた。


「お疲れさまです「血の誓い」の皆様。チャールズ君。すでに何組かの冒険者がこのダンジョンにアタックしてみましたが最低でも10階層以上、魔物のランクはCランクまで確認されてます」

「あれ?サティアさん何でここに?」

「キャー!チャールズ君が名前を呼んでくれた!!」

「……」

「ご、ごめんそんな顔で見ないで!おほん!私はギルド職員としてこのダンジョンから魔物があふれ出ないかチェックしているのです!というのは建前で、チャールズ君が心配だったの!!ちゃんとご飯食べてきた?体調悪くない?あ、お弁当も作ってきたんだ!これ食べてね!それからそれから」

「ありがとう。でも大丈夫だよ。俺は一人じゃないし、それにまだ生きてやることがあるからね」

「生きてやること?も、もしかして私と結婚!?」

「あ、それはない」


 肩を落とすサティアを無視して笑っているイーサン達「血の誓い」と共にダンジョンの中に入る。


「意外と中は明るいし暖かいだろ?ダンジョンの中は人間が入ってきやすいようにダンジョンが明るくしてるんだよ」


 ダンジョンの中の暖かさや広さ、そして明るさに驚いている俺にジャックが話しかけてくる。地球の深海魚のようなものか、餌をおびき寄せるために自ら光を放っている。そう考えると少し不気味に感じてきた。


「ん。魔物」

「戦闘準備!!」


 アグネスがつぶやいた後10秒後に奥からゴブリン達が姿を現す。が、数秒というわずかな時間で彼らはその全てを倒してみせる。さすがAランク冒険者だ。


「言い忘れたが、チャールズはあまり戦闘に参加しなくていい。できるだけ魔力を温存してくれ」

「わかった。アグネス、なんで魔物が来たって分かったの?」

「ん。魔力の揺らぎ」


 どうやら魔力を電波のように張りめぐらせ物が動くとそれが波となってわかるらしい。一人で旅してる俺には最適な魔力の使い方だ。


「ねぇ。それどうやるの?それ教えてよ」

「アグネス様」

「は?」

「アグネス様って呼んでくれたらいい」

「は?アグネスさーまー」

「ん。棒読み。もう一回」

「アグネス……サマ」

「何でカタコト?ちゃんと」

「ちっ、アグネス様」

「ふんすっ!うむ!教えてしんぜよう」


 アグネスはない胸を張り威張りながら教えてくれる。普段子ども扱いされている反動から来てるのかもしれない。全く面倒な奴だ。


 その後はアグネスと僕が順番に魔力を張り巡らせ魔物を検知するという流れになる。戦闘は全て彼らに任せたが全て瞬殺していった。本当に僕が必要だったのか、と疑問に思ってしまうほど彼らの戦闘は完璧で掠り傷一つ負わずに階を進んでいく。


「よし、ここで少し休憩しよう」


 10階層まで降りてきた俺たちはダンジョン内の広い空間で昼休憩をすることにした。


「うぉ!?チャールズの弁当ハート柄じゃねぇか!」

「ギャハハハハ!サティアの奴いい趣味してんな!!」


 俺がサティアに渡された弁当を開くとそこには何で着色したかわからないがハート柄の模様が描かれた食材が並んでいた。「血の誓い」の皆も自分たちの食糧を魔法の袋から取り出し食べ始める。俺は少し気恥ずかしかったがそれをありがたく頂くことにした。


「へぇ。聞いてた話と大分違うな」

「聞いてた話?」

「ああ、俺たちはチャールズは暗くて全く話さない奴だと聞いていた。一時期行方不明になったことも聞いてる。その原因もね」


 イーサンが言う原因とはゴブリンの集落の事だろう。恐らく皆はそれが俺の失踪の原因だと思っているのだろう。まぁあながち間違いじゃないが。


「それにさっき「生きてやることがある」って言ってたな。それについて聞いても?」

「……」

「あーまぁ言いたくないならいい。だが生きる目的があるのはいいことだからな」

「そうね。世の中理不尽の塊だけど、だけど皆その中でい強く生きていくしかないからね」

「俺たちも初めゴブリンの集落で女性たちを助けたことがあってよ。あん時は辛かったぜ。3日は飯が食えなかった」

「ん。辛い記憶。でも私たちはそれでも前に進めた」

「ああ、Sランク冒険者になるって夢があったからな。チャールズも色々辛かっただろうが、自分の中に目標があるならそれにしがみついて真っ直ぐ生きた方がいいぜ?答えってのはいつでも自分の中にあるもんだ。遠回りをしたっていい。それがお前に必要な時間だから。だけど自分の中にある答えと異なることをすると人間一気に脆くなるもんだ。だから自分の心には常に正直でいてやれ。それが強くなる一番の近道だ」

「ん。イーサンなんか説教するおじさんみたい」

「ああ?確かにな。俺も年をくったかな……」


 それから彼らがこれまでどんなクエストをこなしてきたか、という話になり俺は黙ってそれを聞いていた。何度も死にそうになっては仲間に救われ何度も倒れそうになっては仲間に助けられ彼らはここまでこれたという。


「お前もこれから俺たちみたいな仲間に出会えるといいな」

「そうね。信頼できる人が一人でもいると人生変わるものよ」

「ああ、力がみなぎるっていうかよ、信じられてるって、信頼されてるってそれだけで力になるからな」

「ん。仲間は大事」


 俺は小さな町でのおじさんの言葉を思い出していた。「人を愛せ、そうすればその分返ってくる」。この人達は仲間を愛し、そして愛されているのかもしれない。俺にもいつか……。


「さ、説教臭い昔話はこの辺で終わりにしよう。俺たちはまだ人生語って酒に溺れるほど年はくっちゃいない」

「ああ、一気にこのダンジョンんを攻略してやろうぜ。俺たちはAランクの「血の誓い」だ」

「そうね。語るのはおばあちゃんになってからで十分」

「ん。今は目の前の目標に向かって走るだけ」

「さ、行こうぜチャールズ。最深部まで」


 彼らはそう言うと素早く準備し立ち上がる。なんだかその光景が俺の目には強く焼き付いてる。この人達は自分達にまっすぐに生きている。だからか、俺の目には彼らがかっこよく映った。


 その後も順調にダンジョンを進んでいったがだんだん魔物の数は増え、そして魔物のランクも上がっていき俺は先頭に参加せざるおえなくなった。だが彼らは俺に合わせ連携をとってくれとても戦いやすく進んでいく。次第に皆掠り傷を負うようになったが、すぐさま治し進んでいく。


「クッソ!一体何回まであるんだこのダンジョンは!?」

「見つかってからそんなに時間は経ってないはず。それなのにこの大きさは」

「ああ、かなりでかいのがあるな」

「ん。そしてかなりでかいのがいる」


 彼らの話によるとダンジョンはその最深部にある魔石の大きさで深さが決まるらしい。ダンジョンの核となる魔石からエネルギーを食らいダンジョンは存在する。そしてその分魔石の魔力に惹かれた魔物が集まる。ダンジョンが多きければ大きい程その最深部にいる魔物も強く大きいらしい。


「しまった!!皆下がれ!!」


 イーサンが突然叫び全員が下がろうとしたが突然背後に壁ができ皆その場に閉じ込められてしまう。


「ん。結界魔法トラップ。こんなのがあるなんて」

「ああ、これまでトラップがなかったから油断してた」


 ダンジョンにはトラップがある。槍が飛んできたり落とし穴だったり、そして今回のように結界魔法だったり。なぜこのような物ができるかは不明だが、ダンジョンではよくある事らしい。

 

 そして俺たちが結界魔法に捕まっている間に魔物が奥から次々と出てきた。


「これじゃあこの結界から出られたころには辺りは魔物で覆いつくされちまうな」

「しょうがないから皆の魔力を一気に使ってここから出るしかなさそうね」

「ん。これは上級結界以上。相当強く攻撃しないと壊れない」

「ち、そのあとにこの魔物の群れとの乱闘かよ。結構きついな」


 魔物は次々に現れその数はすでに20を超えていた。そして奥からは際限なくゆっくりとCランク以上の魔物が現れていく。


「じゃあ一気に皆最大火力で行くぞ?「待って、俺がやる」ああ?」


 このくらいの結界なら数分で壊せるだろう。多少時間はかかるが皆の魔力を温存した方が得策だ。


 俺は壁際まで行き魔力を下へ遡らせるように流す。そして知恵の輪を解くように一つ一つの魔力を紐解いていく。


「ど、どうなってる?結界の魔力が歪んできた?」

「いや、弱まってんだ。こんなの見たことないぞ?」

「わ、私も知らないわよこんな魔法。聞いたこともない」

「ん。一体チャールズは何をしてるの……?」

「皆、戦闘準備して。行くよ?」


 魔力が歪み強く結界の壁を握りしめると大きなガラスが割れた音がして結界が壊れる。綺麗なガラスの破片のような半透明な光の欠片が降り続ける中皆は口を開け固まり、魔物も音に驚き固まる。だが俺は剣を構え片手に魔力を貯める。


「アイスガロック」


 俺の伸長以上の氷の塊を作り敵の飛ばし数体の魔物を一気に潰していく。


「い、行くぞ!戦闘開始だ!!」


 イーサンたちは俺の攻撃にハッとし戦闘を開始する。敵の数はすでに50以上。それから乱闘が始まった。


「はぁはぁ、な、何体殺った?」

「はぁ。30はいったな」

「私は25くらいかしら」

「ん。30」

「俺は数えてない」

「はぁつまり100以上出て来たってわけか。さすがに疲れたな」

「でもチャールズがは結界を破壊してくれなかったら魔力不足になってかなりやばかったわよ」

「そうだチャールズ!なんだあれ!あんなの見たことないぞ?」

「ん。私も知らない。私のらない知識」


 俺は結界魔法について教えたがアグネスを含め皆理解できないようだった。まぁあれは感覚的なものだから実践しないと難しい。


 俺たちは魔力不足になり今日はそこで後退しながら休むことにした。

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