第25話夕日とクエストと

 秋になり森が紅葉し本当なら綺麗な光景になった。だが俺には何も感じない。今日も剣を振るう。


 勉強も大分進み魔法陣については大体理解してきた。洞窟の周りにはいくつもの魔法陣が描かれは消され、その痕跡がいたるところに見られるようになっていた。


 なんでこんなに何も感じないのだろう。だがまぁいい、その方が気楽でいい。最近はボーっと風景を眺めることもあった。この世界は美しいのかもしれない。車などない為空気が綺麗だ。いつだって夜になれば世界は星に包まれる。


 魔法についても大分理解した。「王級魔法」についても大分扱えるようになったが「神級魔法」についてはまだ使ったことがないので分からない。理由は使うと地形が変化してしまうし、魔力が圧倒的に足らない気がするからだ。だが今まで経験した中で魔法は使いどころだという事を理解した。いくら強い力を持っていても上手く使えなければ意味がない。俺はできるだけ「魔力操作」の訓練をした。


 少しずつ紅葉した葉が落ちていき森が寂しくなり始めた頃俺の感覚が戻ってきた気がした。特に何かがあったわけではない。少し気持ちが落ち着いてきたのかもしれない。


 そう感じた日の夕焼けはとても綺麗だった。世界がオレンジに染まり気が付けば涙が流れていた。

 

 俺の前世は最悪だった。世界を恨んだ。そして今回は初めは幸せだった。だがそのすべてが崩れてしまった。国を恨み世界を恨んだ。だがそれは違う気がしてきた。世界はただそこに存在するだけだ。そして国とは人々の集合体でしかない。悪いのは人間だ。


 いや、人間だって全てが悪いわけではない。いい人たちだって沢山いた。俺はそれに気づかなかったんだ。いや、当たり前のように近くに居すぎて分からなかったのかもしれない。


 一人になってみて色々なことが分かった気がする。自分を見つめ直して様々なことに気づいた気がした。


 今まで起きたトラブルは全部本当に助けられなかったのかと自分を責めた。だが俺は神じゃないんだ。人間にはできる事の限界がある。もちろんだからって自分を完全には許せない。だからもう助けられる命はできるだけ助けたいと思う。もう知らない人だからって悲しい顔は見たくない。弱い自分はもううんざりだ。できることはしていこう。


 もっと個人を見よう、一人一人をしっかり見て受け入れていこう。まずはそこからかもしれない。


 流れた涙を拭きながらもう一度自分を見直す。ただ流れて生きていてはだめだ。まずはしっかり前に進もう。しっかり歩こう。答えはその先にしかないだろうから。


 しばらくすると雪が降り始めた。さすがに「魔の山脈」は北に位置するため積雪量が多いようだ。だが日課の素振りは続ける。父さんとした約束だから。


 洞窟の入り口が見えないほど雪は積もるが魔法で辺り一面の雪を溶かし「土魔法」でぬかるんだ地面を固める。今日も剣を振るう。ただ真っ直ぐ振り下ろす。もう何も失わないように。誰かを守れるように。


 素振りを終えると魔法陣のおかげで暖かい洞窟内へ逃げ込み魔法で作ったお風呂に入る。「土魔法」で土台を作り「火魔法」と「水魔法」の混合魔法でお湯を造る。ゆっくりと降り注ぐ雪を眺めながら入るお風呂はいいものだった。


 次第に雪が解けてきて辺りに花が咲き誇り始めた頃、風に乗り遠くから女性の悲鳴が聞こえた。急いで崖からブーストを使い飛び降り岩場を飛び声の下方向へ駆ける。


 遠くから誰かとフォレストベアー4匹が戦っているのがわかる。「ブースト」を使い一気に距離を詰め「アイスシャワー」を放ちフォレストベアーの後頭部に突き刺し、もう一体に「ファイヤーアロー」を肩口に打ち込み腕を燃やす。


「チャールズ!?」

「え?ジル?あ、後ろ!!」


 そこにいたのは「赤き龍」のパーティの皆だった。ジルは俺の登場に驚き固まってしまい後ろからの攻撃に反応できずにいた、がそれをジャックが受け止めアミとシャーロットが魔法と弓を放ち一匹を仕留める。


「ジル!!集中!!」

「全く手のかかるリーダーね」


 そして最後の一匹を4人がきっちりと決め倒しきる。相変わらずこのパーティの連携は見事だ。


「チャールズ!!」

「へ?」


 フォレストベアーを倒し一息つくと、いきなりアミとシャーロットが抱き着いてくる。いきなりの事だったので俺は固まり捕まってしまうと二人は顔を何度もこすりつけてくる。


「なによぉ!どこに行ってたのよ。心配したのよー!」

「本当よ。いきなり居なくなるんだから……」


 二人の顔は見えなかったがすすり泣く声が聞こえた。


「全くだぜ。どこ行ってたんだよ。すごい心配したんだぜ?」

「ギルドの受付嬢覚えてるか?お前がいなくなってピーピー泣いて大変だったんだぜ?」


 ギルドの受付嬢?心配した?何の話か全く分からなかったが、話を聞いて分かった。そう言えば俺は街をでてすでに一年が経っていたんだ。そして気が付けば俺は10歳になっていた。


「全く。忘れてたなんて許さない!!こっちがどれだけ心配したと思ってるのよ!!決めた!!誕生日パーティーを開くわよ!!」

「「「「は?」」」」

「は?って何よ。チャールズは一年も自分の誕生日も忘れてどっか行ってたのよ?なら誕生日会をしたきゃ!もちろん説教もね!」

「あら、それはいい案ね。たっぷり説教してあげる」

「ははははは!!残念だったなチャールズ。そう言うことだ。もう逃がさないぞ?」

「そうだぜ!意地でも仲間になってもらうからな!!」


 仲間になる気はないが彼らの笑顔を見ていたら俺の心は少し軽くなったような気がした。フードを深く被り直し彼らと共に街に行く。


「そっか。山に籠ってたのか」

「凄いね。私だったら寂しくて死んじゃいそう」

「というか生き抜いたことが凄いぜ。まぁチャールズならそう簡単に魔物にやられないと思うけど」

「だね。だけど寂しくなかった?悩みがあるなら聞くわよ?」

「大丈夫だよ。もう前へ進めたから」

「「「「へ?」」」」


 四人は俺が話したことに驚き、そして嬉しそうな顔をしてくれる。それからこの一年間彼らがどんなクエストをしていたのかという話で盛り上がった。彼らは無理に俺の過去や悩みを聞いてこないことがとてもありがたかった。


「チャールズ君ーー!!会いたかったよーー!!」


 5人で久々にクエストに行こうという話になりギルドを訪れると受付嬢の、名前は知らないがいきなり抱きしめてきた。


「うう~寂しかったよ~!どこ行ってたのよ~」

「あ、え?えっと……山?」

「山?まぁどこでもいいわ!こんなに大きくなって!そしてやっぱり可愛いわ!!」

「んーと、お姉さん名前なんて言うの?」

「え?私?サティアって言うのよ!よろしくね!名前覚えてくれたって事は結婚する?」

「結婚はしない。意味わかんないし。何となく聞いただけ」

「おお!チャールズじゃえぇか!ちょうどよかった!ちょっと来てくれ!」


 階段からギルマスが現れて俺達は二階に上がる。


「チャールズ。特級魔法が使えるって本当か?もちろんギルマスとして秘密は守る」

「うん。使えるよ」

「そうか……。末恐ろしい子だな。兎に角助かった。ここから南にある小さな町にこの冬降水量が少なくてな。「水魔法の特級魔法」で雨を降らせてほしいんだ」

「雨を?分かった」

「助かる。じゃあ早速明日から向かってくれ」


 「赤き狼」は俺の護衛を、そして俺は町に雨を降らせに行くことになった。


「「特級魔法」かぁ初めて見るな!楽しみ!!」

「本当よ!普通見れないわよ!」

「というかチャールズ君!魔法教えて!」

「そうだぜ!俺達ももっと強くなりたい!」


 俺はそれを了承し馬車で移動中彼らに魔法の基礎から教えることにした。そこで初めて両親の魔法の教え方が上手だったことがわかる。「魔力操作」も碌に彼らは出来なかった。貴族の出でもこの程度の教えとは驚きだがそれ以上に両親の魔法の知識に驚く。本当に俺はいい両親に恵まれていたようだ。


「じゃあ行くよ?」

「お、お願いします」


 4人と村人が数人見守る中俺はあえて詠唱をする。


「我が魔力よ、我の声に従え、空よ、我の声を聞け……」


 詠唱を開始すると先ほどまで晴天だった空が見る見るうちに曇っていき、いつの間にか俺たちの真上には積乱雲ができていた。俺の後ろでは皆が真剣に空を見つめたたずを飲んで見守っていた。


「…………そして空よ、わが力を示せ!!シャイニングレイン!!」

「おお!!奇跡じゃ!!」

「雨が!雨が降りおったぞ!!」

「すげぇ」

「本当。凄いわ……」


 辺りに雨が降り注ぎ空には大きな虹が出来ていた。村人たちははしゃぎ、「赤き狼」の四人は雨が降り止むまでそれをただ見つめていた。


「「「ありがとうございました!」」」


 クエスト達成のサインを貰い街に帰る。「ありがとうございました」か、あんなに村人の人たちが喜んでくれて良かった。


「魔法って凄いんだな……」

「本当ねー。私もあんな魔法を使えるようになりたいわ」

「そうだな。しかしチャールズの護衛だけでこんないいお金がもらえるなんて」

「そりゃそうよ。ギルドからの直接依頼なんだから。それに「特級魔法」を扱える人間なんてAランク以上じゃないといないわよ」


 俺は冒険者になって初めて人助けをした気がした。この国が腐っているわけではない。いい人たちも沢山いる。それを俺は改めて実感した。

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