第2話 イベント
また、新しい一年が始まると思っていた春休みに無理矢理ゲームの様な世界に引き摺り込まれて普通の世界から外れてしまった。
神楽 蓮 北凰高校2年。
中身は同じでも外見は全く変わったと言うより変えてしまった。
優等生でもなく普通の女子高生だったのに。
いきなり告げられた一言で両親は大騒ぎし私は親戚に預けられ、その間に父と母は離婚して音信不通になり生きているのかさえ分からない。
暫くの間、捨てられたと言う実感さえなく。
何もかも嫌になり外見を180度変えてしまったのに親戚の叔母さんは何も言わなかったのは死なれるよりはマシだと思ったのかもしれないけど。
私にはそんな勇気はない。
学校に行ってもあれ程仲の良かったクラスメイトや先生ですら腫れ物を触るような感じで。
私の事を預かってもらっている叔母さんには心の片隅で悪いと思いながらも素直になれずに夜遊びではないけれど時々海沿いの街を歩きたくなる。
ここら辺は首都があった場所らしいけれど私が産まれた時には既にこの景色だった。
水面に水上都市の灯りが写り込んでとても綺麗だと思うけれどただそれだけのこと。
アナザーゲートと呼ばれているVRMMO作成および制御ができるフリーソフトによって新しいVRMMOがいくつも構築されたという事も知っているけどそれが普通で。
少なからず興味があってクラスメイトに誘われてやってみたけれどハマるようなことはなかった。
仮想現実の世界に飽き足らず『現実の世界でも』というコンセプトで付けるだけでリアルなケモミミが発売され爆発的なヒットになり商魂たくましいと言うか人の欲望って凄いと思う。
どうせなら仮想現実ではなく現実で異世界に召喚されたほうが現状を少しは受け入れられたかもしれない。
夜に制服姿で歩いていると何度と無くナンパイベントが発生することがあるけれどこちらが強気に出ると大抵の場合は撃退できたのに今回は違った。
「強気なところが良いじゃん」
「そうそう、遊びに行こうよ」
本当に男ってバカだと思うけれど今はどうやって切り抜けるかが再優先事項で。
異世界をテーマにしたライトノベルなら無双の主人公が颯爽と現れ助けてくれるか巻き込まれ体質の主人公が飛び出してきてフルボッコにされるかが定番だと思うけれど後者だったらしい。
建物の影に連れ込まれそうになり顔を出したのはメガネを掛けた男の人で頼りなさそうな冴えない彼の顔を知っていた。
時々利用するカフェ『マ・オ』の店長さんだ。
カフェで働いている時と同じ爽やかな感じの格好をしていてトートバックを肩から掛けていてお店とは逆の方向から現れたので出掛けていたのかもしれない。
強引なナンパしてきた男二人にフルボッコにされちゃうじゃんなんて思った瞬間に一陣の風が吹いたと思ったら店長さんに腕を捕まれ走り出していた。
とても不思議な感覚で走っているというよりは風になったような。
気がつくと息も上がっていなくて『気をつけて帰るんだよ』と言う言葉を残して店長さんが手をヒラヒラさせている背中が見えて自分でも驚くような事を口走っていた。
「このまま女の子を放置するなんて酷くないですか?」
自業自得で怖い思いをしたところを助けてくれた人に言って良い言葉ではない。
でも人の良さそうなこの人なら何かを変えてくれそうな気がしたのは確かで。
自分勝手なことは百も承知だけど両親に捨てられてから初めて誰かに頼ろうとしている事に自己嫌悪になり逃げ出そうとしたのにポンポンと優しい手が頭に触れて温かいモノが頬を伝い。
訳も分からず泣き出してしまったのにそばに居てくれて。
泣き止んでから叔母さんには友達の家にいるから心配しないでと嘘をついて一晩だけの約束で店長さんの所に泊めてもらうことになった。
彼の家は煉瓦造りの大きな倉庫の様な建物の一角にあるカフェの2階らしくお店の横の階段を上がっていくけれどこんな場所に階段なんてあっただろうか。
部屋は広めのワンルームでバスタオルと真新しいTシャツを渡されて適当に使っていいからと店長さんは来た時とは別の階段を降りていってしまった。
遠慮なくシャワーを浴びてベッドに体を投げ出すと男の人の匂いがするかと思ったのにお日様の香りがしていつの間にか眠りに落ちた。
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