#126(18日目・夜・コノハ3)
「総員! 攻撃は極力ひかえろ! ギリギリまで攻撃を受け続けるのだ!!」
対ゴブリンロード戦。しかし、これをボス戦と呼んでいいのだろうか?
自警団は、前衛がボスに張り付き、ひたすら攻撃を受けつづける。そして受けたダメージを魔法で回復していく。
EDの人たちは…、すこし離れて様子をうかがっている感じだ。
「あの…、これは何をしているのでしょう…」
MPを使い切り後方に下がってきた人に、意を決して聞いてみる。
「あぁ、あれはボスの"ドロップ獲得権"をえるために…。…。」
説明によると、ボスが落とすアイテムを獲得する権利(獲得権)を確保するために必要なことらしい。
自警団は安定してボスを倒すために、人数を用意して、時間をかけて確実に倒す作戦をとっている。しかしEDの人たちは回復魔法に頼らない全員フルアタッカーの構成できた。獲得権は様々な条件によって決まるが基本的にはMVP、つまり一番活躍した人に贈られる。このまま両軍が同時に攻撃すると、瞬間火力に勝るEDの人たちが余ダメージ量によって獲得権をえてしまう。
その対策としてとった行動が「あえて攻撃をしないでダメージを受け続ける作戦」だ。獲得権は"与えたダメージ"だけでなく"受けたダメージ"も考慮される。つまり、相手の火力以上にダメージを受けていれば、ダメージ量が低くてもタンカーとしての活躍により獲得権をえられるわけだ。
対してEDの人たちは、フルアタック構成にあたってボスからのダメージを自警団に押し付ける作戦をとってきた。つまり自警団が攻撃していないと、ボスからの攻撃を全て自分たちが受けることになってしまう。そうなれば回復が追いつかずに押し負ける。だからEDの人たちは攻撃できずにいるのだ。
「団長、そろそろ交代を」
「よし! 前衛を入れ替えろ。1順したら仕掛ける!!」
「交代だ! 各自回復に勤めよ!!」
しかしゲームの仕様で、装備の耐久値や蓄積ダメージが発生し、徐々に最大体力が減ってしまう。したがってダメージを受け続けるのにも限界がある。これに対して自警団は人員を入れ替える事で対応している。
最初の前衛が入れ替わるタイミングで、様子を見ていたEDの人たちが、ついに動き出した。
「あぁ~、いい加減、見てるのも飽きちゃったな~」
「つか、自警団って、本当に質、ひっくいな~」
「その装備で、どんだけ手間かけるんだよ? 俺たちが有効活用してやるから、その装備くれない?」
「煽りにのせられるな! 充分にダメージを受けるまで、決して攻撃をしかけるな!!」
喝を入れる団長。一応、作戦は順調に進んでいるように思えるが…、それに対してEDの人たちの表情が余裕すぎて…、薄気味悪い。
「手本を見せてやるよ! ほらよ!!」
「な!? やめろバカもん!!」
EDの1人がボスに攻撃したことにより、ボスはその人を追いかけ…、有効な攻撃を受けたことでボスの<眷属召喚>が発動し、その場に大量のゴブリンが残される。
「あぁ~ば~よ~、とっつぁ~ん」
「ふざけるな! すぐに取り巻きを対処しろ!!」
<眷属召喚>であらわれたゴブリンの攻撃対象は親であるボスが再度攻撃を受けるまでフリー状態、つまり通常通り近くにいるプレイヤーを無作為に襲う。EDの人は逃げ回っているので、この場合は殆どのゴブリンが近くにいた自警団を襲う。
「くそ! せこい嫌がらせをしやがって!!」
「団長! このままでは!?」
大量にゴブリンがあらわれ、陣形は見る見るうちに崩壊していく。いまさらゴブリンに後れを取る自警団ではないが、蓄積ダメージもあるのでこれ以上悠長に構えていては、前衛の体力が減りすぎてボスの攻撃で即死する危険域に入ってしまう。それに、そうなれば回復班も役目を失ってしまう。魔法班は殆ど無傷で残っているが、魔法使いだけでボスをどうにかできるものでは無い。
気づけば事態は絶望的な状況に追い込まれていた。
「えぇい、やむをえん! ロードに攻撃せよ! 相手よりも早くボスの体力を削り切れ!!」
「「「おぉ!!」」」
ついに自警団がボスに打って出る。装備は安定重視ではあるが、背水の陣で無茶な攻勢をしかけるようだ。
そして団員の注目がボスへ集まる。
その一部始終を、部外者の私は傍観する。
そう、傍観していた私は気づいてしまった。まるで近所を散歩するような気軽な足取りで、彼らがすぐ近くまで迫っていたことに。
「やぁ、こんな大勢だと、周囲魔法は使いにくいでしょ? だから、いらないよね?」
「へぇ?」
最初にEDの人たちが狙ったのは魔法班。彼らの仕事は召喚された眷属を一掃することであり、誤射の危険を考慮してボスへは直接攻撃しない事になっている。
「ばか! そいつらEDだ!! 逃げ…、ぐは!?」
「は~ぃ、自分も注意しましょうね~」
「え! ウソ? なんで貴方たちが!?」
「PKにPKする理由、聞く?」
「やめ、私は…、ヒッ!?」
魔法班に入っていたミーファさんもあっけなくキルされてしまった。魔法班の人たちが、次々と光になって消えていく…。
「くそ! 前衛、EDが動いた! こっちを対処してくれ!!」
「なっ!? こっちだってそんな余裕は!!」
見る見るうちに団員が消えていく。
あっけない。あの人たち、あんなに弱かったんだ…。
「者共! 落ち着け!! 全員! この場を放棄して撤退! 全力で王都に帰還せよ!!」
「「「えっ!?」」」
団長の判断は早かった。負けを悟るなり全力逃走。一目散に走りだす団長に、一同が呆気にとられる。
しかし、団長の判断は、あるいみ間違っていなかった。指名手配の条件はキルだけではない。キルした現場を目撃したプレイヤーが"生きたまま"対応したNPCのところまでたどり着く必要がある。つまり、誰かが生きて王都まで逃げ帰らないと指名手配できないのだ。
それに、たまにアニメだと指揮官が責任をとって最後まで現場に残ろうとするが、実際には指揮官は最後まで絶対に死なせてはならない。その場の戦闘もそうだが、事後処理や最高戦力である指揮官の装備ロストは後々にまで悪影響が出るからだ。
「は~ぃ、ここは通行止めで~す」
「通りたい人は、死んで魂だけになってね」
「なっ! そんなバカな!!?」
新たにあらわれた3人が団長の行く手を阻む。この分だと他の場所にもEDの人たちが潜んでいるだろう。
最初から、EDの人たちの目的はコレだったのだ。少数で挑んだのも、瞬間火力を重視したからではなく…、"自警団を全員キルするため”だったのだ。
無駄に豪華な装備に身を包んだプレイヤーが、驚くほど呆気なく光になって消える。
いくら装備やレベルが高くても、ボス用に特化した後衛が対人特化の攻撃に耐えられるはずもない。
こうして、自警団対EDの戦いは…、自警団が全滅。私も含めて、全員キルされて終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます