大航宇宙時代 3

 マイナス9176億円という莫大な借金を背負って、このゲームの2週目が始まった。


「どうすんだ? こんなゲーム」


 ヤン太があきれた様子で聞いてくる。


「うーん。とりあえず、一番近い惑星に行きましょうか。話はそこからよ」


 メニュー画面から『宇宙へ』を選択し、再び宇宙に向おうとすると、ゲームのナビゲーターのロボットから、こんなメッセージが表示された。


『宇宙船が無ければ宇宙に出られまセン。宇宙船を作ってから、このメニューを実行して下サイ』



「はぁ?! 宇宙船なら8700億もの大金と、37分もの時間をかけて作ったでしょ!」


 ジミ子が切れ気味に言うと、キングがこんな説明をしてくれた。


「『大航海時世だいこうかいじせい』だと、失われた船とお宝は『沈没船の引き上げ』というコマンドで回収しないと手元に戻ってこないんだ。おそらく初めの宇宙船は、初代の『ジミコ』と共に、宇宙の彼方にあって、回収しないとダメなんじゃないかな?」


「でも初代の宇宙船は、けっこう遠くまで行ったわよ。下手に回収しようとすると、また寿命が尽きるんじゃない?」


 ジミ子の言う事はもっともだ。ヤン太が苦笑いをしながら、こう言った。


「ミイラ取りがミイラになるってヤツか、それだと回収しに行かない方が良いな。まあ、回収するにせよ、どのみち新しく宇宙船は作らなきゃいけないけど」


「はぁ、そうね。また莫大な借金だわ」


 ジミ子はため息交じりに『宇宙造船所』へと行き、再び『宇宙船の建造』のボタンを押す。



 新たな宇宙船を作ると、次のメッセージが表示された。


『ただいま宇宙船を建造中デス。14分ほどお待ち下さい』


 このメッセージを見て、ミサキが声を上げた。


「あれ? だいぶ早くなってるわよね?」


「もしかして2船目だから、製造時間が短くなっているのかな?」


 僕なりの推理を言ってみると、キングも似たような意見を言う。


「そうだな。ある程度はランダムかもしれないが、建造スキルが上がったと考えるのが普通だろうな」


「まあ、それでも時間はかかるわね。とりあえず、ちょっと放置しておきましょう」


 僕らはスマフォとは別なゲームをまた始めた。



 しばらくすると「ティロン、ティロン」と音がなり、僕らはジミ子のスマフォを覗く。

 すると宇宙船が出来上がっていた。そして所持金がマイナス1兆2876億円となっている。


 ジミ子がこの所持金をみて言う。


「あれ? 3700億くらいで出来ているわ。安いわね」


「そうだね。一隻目が8700億だから、だいぶ安くなっているね」


 僕も安くなったと言ってしまったが、それでも3700億円もの大金が掛かっている。このゲームをやっていると、金銭感覚がおかしくなりそうだ。


「宇宙船も出来た事だし。じゃあ、また宇宙にいきましょうか」


 ジミ子がスマフォ操作をして、ようやく未知の惑星をめざす。



 メニューから『宇宙へ』を選択すると、再び4つの候補地が現われた。


Proximaプロキシマ b』

Rossロス 128 b』

『TOI-700 d』

『K2-18b』


「どれが一番近いのかしら?」


 ジミ子がそう言うと、ミサキが珍しく良いアイデアを言う。


「実在する惑星なら、調べてみれば分るんじゃないの?」


「じゃあ、俺が調べて見るぜ」


 キングが調べると、あっさりと距離が分る。



「『Proxima b』が4.3光年、『Ross 128 b』が16光年、『TOI-700 d』が100光年、『K2-18b』が124光年らしいぜ。近い順に並んでるみたいだ」


 僕が『初代ジミコ』の足跡そくせきを思い出しながら言う。


「たしか16光年先の『Ross 128 b』が142年かかるって言われたよね」


 するとミサキがこんな質問をする。


「一番遠い124光年先の『K2-18b』を選んでいたら、どれくらい時間が必要なの?」


 ジミ子が電卓を叩いて言った。


「単純に計算すると1100年掛かるわね、ゲームの時間だと1100分で、18時間20分掛かるわ……」


 途方もない時間を待たされる事になる。まあ、到着する前に、キャラクターの寿命の方が尽きてしまうだろう。



「じゃあ、『Proximaプロキシマ b』に向けて出発するわよ」


 ジミ子が選択肢を選ぶと、こんなメッセージが現われた。


『到着まで28分かかりマス。しばらくお待ち下さい』


 ヤン太がこれを見て言う。


「おっ、行けそうな数字が出て来たな」


「そうね。かなり近いわね。じゃあまた放っておきましょう」


 普通のゲームだと28分も待たされる事はないが、これでも短いと感じてしまうほど、僕らの感覚はおかしくなっていた。



 30分近く他の事をやっていると、「ティロン、ティロン」と音が鳴った。


「やっと着いたわね。さっそくどんな惑星だか見てみましょう」


『Proxima b』は、惑星の4割ほどを占める、青い大きな湖をもった星だった。

 緑はほとんど無いらしく、残りの6割は、黒ずんだ大地が広がる。


 ミサキが目を輝かせながら言う。


「どんな異星人がいるのかしら?」


「ええと、『貿易』を選択すれば現われるわよね」


 ジミ子が『貿易』を選択すると、宇宙人のイラストが表示される。

 ただ、それは非常にガッカリさせられる物だった。


「フリー素材の『いらすとどころ』のイラストかよ……」


 ヤン太が弱々しく言い放つ。


「そうだね。無料のイラストを使うにしろ、もっとどうにかしてほしかったね」


 画面には、のほほんとした、クレヨンで描かれてた老人の絵が表示されている。一応、肌色は青色に変わっているが、それ意外は地球のどこにでも居る『お婆さん』にしか見えない。



「まあ、この際、宇宙人の姿はどうだっていいわ。お金よお金! ここで利益を上げなきゃならないわ」


 所持金は、借金の利子がちょっと付いて、1兆3142億円。もうどうにもならない気もするが、ジミ子はまだやる気らしい。


 未知の惑星の宇宙人に話しかけると、こんなメッセージが流れてきた。


『┴◇┌│┌◇┤┼├』


「……何これ?」


 意味不明の暗号に固まるジミ子。

 このメッセージについて、ナビゲーターのロボットが解説してくれた。


『翻訳機が必要です。開発して装備して下サイ』


「この惑星で『開発』ってコマンド、使える?」


 僕がジミ子に聞くと、こう答える。


「……使えないわね。『使用不可』になってるわ」


「それだと『開発』は地球で行なう必要があるんじゃないか?」


 キングがゲーム的な解釈かいしゃくを言う。確かに特定のコマンドは、拠点となる場所でしか使えない場合が多い。


「……じゃあ、地球に戻るわよ」


 ジミ子は再び進路を地球に取る。これで再び28分を放置しなければならない。



 再び放置していると、10分もかからずスマフォから音がなる。


「何かしら?」


 ジミ子が確認すると、こんなメッセージが表示されていた。


『放射能などの有害な宇宙線の影響で、寿命が大きく減りまシタ。ジミコ・2世さんの寿命が尽きまシタ。享年きょうねん59歳デス』


 キャラクターの名前が『ジミコ・3世』にかわり、再び地球からのスタートだ。


「あー、宇宙船は持っているのかしら?」


 ジミ子が確認のため『宇宙へ』を選択する。


『宇宙船が無ければ宇宙に出られまセン。宇宙船を作ってから、このメニューを実行して下サイ』


 当初の予想どおり、ジミ子の宇宙船は無くなっていた。再び宇宙船の建造からやり直しだ。

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