第27回目の改善政策 2

 宇宙人が『あおり運転』や『危険運転』を独自に取り締まると言い出した。

 内容を聞くと、かなり危ない運転をした人物だけを、取り締まる政策らしい。


 レオ吉くんは、この政策を止められない事をなげいていたが、これは心配のしすぎだろう。僕は、非常に良い政策に思える。



 福竹アナウンサーがさらに政策の内容を掘り下げる。


「具体的には、どのような状態を『危険運転』、『あおり運転』として判断するのでしょうか? 何か基準となるものはありますか?」


「明確な意思を持って、危険な事をしようとすると『危険運転』と見なされるネ。『あおり運転』は、相手に対して、進行を妨害をしようとすると違反者として取り締まるヨ」


「なるほど。ちなみにドライバーが意図していない。つまり、気がついていない、無自覚むじかくの危険な運転に対しては、この違反は適用されるのでしょうか?」


「そういった無意識の場合は、まず警告を出すネ。その警告を無視して運転を続けると、違反者として取り締まるヨ」


「わかりました。これは事故が減りそうですね」


「かなり減ると思うネ」


 今回の改善政策は、かなり良さそうだ。この内容なら、宇宙人にドンドン取り締まって欲しい。



 次に福竹アナウンサーは、刑期など、罪の重さに関する話題を振った。


「取り締まる基準は、何となく分ったのですが、懲役とかはどうなるんでしょうか?」


「懲役に関しては、広く意見を集めて、ソレを参考にしたヨ」


「なるほど。様々なケースが考えられるので、具体的な例を出すのは難しいかもしれませんが、どのくらいの罪になるんでしょうか?」


「この国の法律に当てはめると、『死刑』か『無期懲役むきちょうえき』ネ」


 宇宙人はとんでもない事を言い出した。



「ゲホッ、ゲホッ」


 突然の宇宙人の発言に、甘酒を飲んでいた姉ちゃんが咳き込んだ。へんな場所に甘酒を入れてしまったらしい。

 姉ちゃんの背中をさすりながら、僕は横目でテレビを見る。


 ある程度の罪の厳罰化を求める声はあるが、さすがに死刑や無期懲役はやり過ぎだろう。福竹アナウンサーも同じ事を考えたようで、必死に何とかしようとする。


「えっ、いくらなんでもそれは重すぎでしょう」


「そんなことは無いネ。インターネットから『危険運転』の情報を集めたケド、こんな意見が大半を占めていたヨ」


 宇宙人がテロップを出すと、そこにはこんなコメントが書かれていた。


『これは酷すぎる、こんなヤツは死ね!』

『一生、刑務所に入れるべき。一般社会に二度と出すな、また事件を起こすぞ』

『絶対に許すな! 殺せ! 殺してしまえ!』


 おそらく動画サイトのコメントか、トゥイッターか、巨大掲示板あたりから収集した物だろう。たしかにネットの意見をそのまま集約すると『死刑』か『無期懲役』になりそうだ。



 姉ちゃんの咳が治まり、僕に向って、ちょっと愚痴のような言葉を漏らす。


「レオ吉くんじゃ止められなかったようね」


「そうだね。さすがに『死刑』とかはやり過ぎだよね」


チーフ宇宙人はまだ、本音とまえの区別があまり分っていないから、インターネットでの発言と、人が街角で発言する内容が、同じだと思っているのよね。

 一部の人間は、ネットと変わらず『死刑』を訴えるかもしれないけれど、実際に対面式でアンケートを取ると、だいぶ結果は変わってくるはずなんだけど……」


 確かにネットの書き込みと、テレビ番組でよくやる街灯インタビューでは、答える内容はだいぶ違ってくるだろう。もし、街角で口頭こうとうで答えるアンケートを取っていたら、『生涯しょうがい免許剥奪めんきょはくだつ』くらいの軽めの刑罰で収まっていたかもしれない。



 この後、何度も福竹アナウンサーは減刑を訴えるが、宇宙人は一切、この意見を受け入れなかった。


 その様子を見ていた姉ちゃんが、開き直ったかのように言う。


「私、免許を持っているけど、ペーパードライバーで運転をする機会もないし、『死刑』でも、まあいいかな」


 確かに我が家にはマイカーが無いが、それで良いんだろうか……

 やはり、レオ吉くんに人類の未来をゆだねるしか無さそうだ。



 一通り、福竹アナウンサーの抗議が終わると、宇宙人はこんな事を言い出した。


「地球の運転支援システムにも、『緊急時、衝突回避ブレーキ』や『道路からのはみ出し警告システム』があるじゃナイ?」


「ええ、ありますね。事故を完璧に防ぐ事は出来ませんが、ある程度の効果はあると思います」


「そこでワレワレも『危険運転』や『あおり運転』を制御する装置を用意したネ。コレを付けると、『危険運転』や『あおり運転』が起きなくなるヨ。罪を犯せないので、捕まる事も無いネ」


「それは素晴らしいですが、大がかりな装置になると思うので、かなり改造が必要になりそうですね」


「そんな必要は無いネ。コレを付けるだけだヨ」


 そう言って宇宙人は何かを取り出す。それはハンドルカバーと、アクセルとブレーキペダルのカバー、それにシフトノブのカバーのようだ。

 素材は皮で出来ているように柔らかそうだが、質感は金属のように見える。全く未知の物体で出来ていた。


「これはカバーですよね? これを付けただけで、大丈夫なんでしょうか?」


 不思議な顔で質問をする福竹アナウンサー。


「デハ、駐車場に準備してあるから、試してみるネ」


 宇宙人と福竹アナウンサーはエレベーターに乗り込み、明石市立天文科学館の駐車場へと向った。

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