第16回目の改善政策 2
宇宙人が月面に『動物ノ王国』を建国すると言う。
しかも住人は動物らしい。
前からこの宇宙人は言動が変だったが、とうとうおかしくなってしまったのだろうか?
頭を抱えている福竹アナウンサーに、宇宙人はいつものように声を掛ける。
「どうしたのカネ? 頭でも痛いのカネ?」
「いや、まあ大丈夫です。いつも通りと言えばいつも通りなのかもしれません。
ええと『動物ノ王国』の住人は、例の『ムツロゴウ動物王国』の動物たちでしょうか?」
「違うネ、前にペットの殺処分を禁止したでショ」
「ええ、しましたね」
「それでネ、結構な数のペットをワレワレが引き取ってネ」
「なるほど、月面上に動物の保護施設を作るわけですね?」
「イイヤ、『動物ノ王国』ダヨ、保護施設では無いネ」
宇宙人は保護施設ではなく、あくまで国だと言い放つ。
福竹アナウンサーは面倒くさくなったようだ。
「あっ、そうですね。もう王国で良いです」
あっさりと国の樹立を認めてしまう。
そして『動物ノ王国』に対しての質問を開始する。
「憲法とかはどうするんです?」
「トリアエズ、イギリスと同じ憲法でスタートする予定ネ」
「となると、女王か国王はいるんですか?」
「国王は居るヨ、王国だから当然ネ」
「国王の権限はどうなんです?
「あくまで国王は国の代表としての象徴ネ。全て議会で決めるネ」
「議会というと国会ですかね」
「ソウネ、国会議員のようなシステムを作るネ」
ここまでの話しを聞くと、あくまで動物は人と同じ扱いをするらしい。
普通に考えれば、動物に国の運用などは無理だ。
しかし宇宙人はこの間、動物の知能の上がる薬を作っていた。
もしあれが人間に近い知能を得られる薬ならば、国家の運用も可能なのかもしれない。
ここで福竹アナウンサーは、ある事が気になったようだ。
「国王が居るという話しでしたが、どなたがやるのか決まっているのでしょうか?」
「モチロン、決まっているヨ」
「やはり犬か猫から進化した方ですかね?」
「イヤ、動物たちを束ねる王だからネ。犬や猫ではないヨ。誰だと思うネ?」
「……それはもしかして百獣の王、ライオンですか?」
「……良く分かったネ。その通りだヨ」
宇宙人は
福竹アナウンサーがあきれていたら、宇宙人が思わぬ発言をする。
「実は、今日、挨拶するために国王をこの場所に呼んでいてネ」
「ええっ、その方、ライオンなんですよね?」
「ソウネ、ライオンだネ」
「危なくないでしょうか?」
「大丈夫だヨ、知能は人間並だからネ」
「いや、でも、怖いですね」
「平気だヨ、デハ、入ってきて『レオ
宇宙人はそういって、ライオンらしき名前を呼ぶ。
福竹アナウンサーは完全にへっぴり腰になっていて、いつでも逃げ出せる体勢をとっていた。
しばらくすると、画面に入って来たのはライオンではなく、スーツ姿の女性だった。その女性は少し大柄で、ギクシャクと歩きながらの中央まで進むと、こちら側に体を向けた。
顔がアップになると、その女性は普通でない事が分かる。耳と鼻がほんの少しライオンぽい。
耳は動物のように尖っていて毛が生えている。鼻の頭は少し黒っぽく、猫などを
だがライオンとしての特徴はそのくらいだろう、体つきは完全に人間で、遠目から見ると普通の女性の人間にしか見えない。
『レオ吉くん』と呼ばれた国王は、カメラのこちらに深々と礼をする。
そして、あいさつをしてきた。
「はっ、はっ、はっ、はじめまして、レ、レオ吉です。
こ、このたび、動物ノ王国の国王に任命されましゅた」
初めの肝心なあいさつで噛んだ。しかも盛大に。
国王なのにコレはどうかと思ったが、レオ吉くんは生まれながらの王ではなく、急に任命させられた国王なのだろう。
いきなり『テレビに出て挨拶しろ』と言われたら、あがってしまって、ろれつが回らなくてもしょうがないかもしれない。
挙動不審のレオ吉くんに対して、画面の中から小さな声が聞こえてきた。
「レオ吉くん、おちついて。練習どおりやればいいからね」
テレビのスタッフの声のように聞こえるが、長年、暮らしている僕には分かる。あれは姉ちゃんの声だ。
「は、はいっ。このたび月面に国を構える事になりました。
わたくしの国では、国民は、いわゆる動物だけでして、なるべく人様に迷惑をかけずやっていこうと思っております」
落ち着きを取り戻したのか、少し滑らかにしゃべり始めた。
姉ちゃんの声で落ち着きを取り戻したのかもしれない。
そう思っていたら、また姉ちゃんの声が聞こえてくる。
「レオ吉くん、姿勢が猫背になってるよ。ちゃんと伸ばして、全国放送だからね」
「ぜ、ぜんこく放送で、ですね。はい、がんばります」
テレビの流れを無視して、姉ちゃんの問いかけに答えてしまう。
そして『全国放送』という余計な一言で、また変な意識をしてしまったらしい。
「え、えーと、なんでしたっけ、あ、あの、これからよろしくお願いします」
そういって、また深々とお辞儀をした。
福竹アナウンサーと周りのスタッフが、フォローの意味も込めて盛大な拍手を送る。
……しばらくしてもレオ吉くんは、お辞儀をしたまま動かない。
やがて姉ちゃんが画面に入ってきて、手を引いてどこかへと連れて行った。
福竹アナウンサーは話題を切り替えるように言う。
「ええと、アンケートの方、よろしくお願いします」
そして例の入力画面が現れた。
動物たちが自分たちの為の国を作り、それを運営する。
今回の政策は良いんじゃないだろうか?
僕は「今週の政策は『よかった』」「宇宙人を『支持する』」に投票した。
やがてアンケートの結果が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 96%
悪かった 4%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 72%
支持できない 28%』
しかし『動物ノ王国』は大変そうだ。
レオ吉くんは国王としてやっていけるのだろうか……
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