宇宙寺 2

 テレビでプレアデス如来にょらいが放送された次の日、ヤン太がこう言った。


「今日の放課後、あの宇宙人の仏像を見に行こうぜ」


「宇宙人の仏像ってなに?」


 ミサキはあの番組を見てなかったようだ。するとヤン太がスマフォで例の仏像を見せる。


「これだよ、これ。そっくりだろ?」


「本当、そっくりね。これどこにあるの?」


「それがうちの街にあるみたいなんだ」


 そういって、お寺の地図をみんなに見せた。

 ジミ子がメガネをくいっと上げながら言う。


「近いわね、駅から15分くらいかしら?」


「そうだな、そのくらいだろうな」


 ヤン太が返事を返していると、キングが驚きの声を上げた。


「うぉ、なんだこのお寺、通販だらけじゃねーか」


 どうやらスマフォで例のお寺の事を検索したようだ。

 そして、その検索結果は通販ページがほとんどを占めているらしい。

 お寺としてはどうかと思うが、お金の匂いを嗅ぎつけたのか、ジミ子が興味を持った。


「ちょっと面白いわね、行ってみましょう」


 こうして放課後に例のお寺に行くこととなる。



 放課後、スマフォの地図を片手に例のお寺の前に来た。


 テレビを通して、商売っ気がかなりあるお寺に映ったが、現実はもっと酷い。

 入り口の門の所に、『先日、テレビで特集されました』『今、話題のプレアデス如来!』と力強い文字で書かれていた。テレビ放送されたのは昨日だが、もう看板が用意してある。


 こういった看板は観光地なら問題は無いが、お寺の入り口にあるのはどうなのだろうか?

 ちなみにテレビで放送した事で、けっこうな人で境内けいだいにぎわっている。


「こ、ここで間違いがなさそうね」


 驚いた様子でミサキが言う。


「ああ、そうだな。入ってみるか……」


 ヤン太が少しあきれながら、僕らはお寺の中へと進む。



 お寺の門をくぐり抜けると、落ち着いた風景が広がる。

 掃除された石畳の道。うっそうと茂る森の木々。

 至って普通のお寺の中を歩く。


 しばらく行くと『プレアデス如来さまの仏堂ぶつどうはこちら』と、矢印が出てきたので、僕らは順路通りに進む。

 そして僕らはプレアデス如来と対面した。


 プレアデス如来は思ったよりも大きかった、座った状態で3メートル以上、台座を含めると5メートルほどありそうだ。


「でかいわね」


 ミサキがぽつりとつぶやく。確かにでかい。


 仏像は右手は上に向き、左手はこちらに差し出すような形をしており、いわゆる一般的な仏像の形をしている。

 ただ、顔は例の宇宙人そのもので、テレビで見たときは違和感を覚えたが、こうして実物を目にすると、意外にも、これはこれで合っている気がしてきた。



 ここで僕はもう一つ、普通のお寺と違う点に気がついた。

 仏像など美術品はふつうは写真撮影が禁止されている場所が多い。

 だけど、仏像の横の注意書きには、こんな事が書かれている。


『写真撮影してください、インスゥタ映えする絵が撮れます。トゥイッターでガンガンつぶやきましょう!』


 ここで禁止どころか推奨している。僕らの前の参拝者は、この看板の指示に従い写真を撮っていた。

 このお寺は、どうなっているのだろうか……


 前のグループの撮影が終わると、僕らの番となった。

 お賽銭箱に小銭を入れると、手を合わせて祈る。

 ご利益りやくがあるとは思えないが、それでも真面目にお祈りを済ますと、ヤン太がこう言った。


「とりえあずウチらも写真を撮ろうぜ」


 珍しい仏像を前に僕らも写真を撮る。そしてすぐにトゥイッターでつぶやいた。

 するとキングのトゥイートに反応が返ってきた。


『おもしろいですね』

『今度俺も行こうかな』

『ここに行けばキングさんに会えるかな……』

『それなら俺も行くわ』

『じゃあ、オレも』


 と、フォロワー達の会話が賑わっている。


「こうやって参拝者さんぱいしゃを増やしているのね」


 ジミ子が関心をする。

 なるほど、ここの住職はかなりやり手のようだ。



 プレアデス如来への参拝を済まし、僕らは順路に従って帰ろうとする。

 すると、当然のようにお守りなどが売っている物販ゾーンへと導かれた。

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