第7回目の改善政策

 第7回の改善政策の発表の日。

 正午になり、いつもの通り番組が始まった。



「第7回目の改善政策です、よろしくお願いします」


「ヨロシクネ」


 福竹アナウンサーと宇宙人が挨拶をする。


「さて、今週はどういった内容の政策なのでしょうか?」


「今週は政策はやらないネ、お休みダヨ。ただ重要な事を決めたいと思うヨ」


「重要な事とは一体なんでしょう……」


 お休み、と宣言しているのに、福竹アナウンサーがあからさまに警戒をしている。

 この宇宙人は油断をすると何をするか分からない。



「実はネ、この間、国連総会に出席した時にネ」


「ええ、出てましたね」


「『国旗は無いのですか?』と、問いただされたのネ」


「そういえば見たことないですね、無いんですか?」


「ワレワレの文化には無いのよネ、だから今日、ココで決めようと思うのネ」


 これは、公共の電波の無駄遣いだ。

 まあ、でも変な政策をやられるよりは全然ましだ。安心して見てられる。


 それにテレビ番組のほとんどは電波の無駄遣いと言って良い。

 このくらいだったら許されるだろう。



 福竹アナウンサーは宇宙人に疑問をぶつける。


「でも放送中に決まりますかね? こういった図案は結構時間が掛かると思いますよ」


「ソコデ、ある程度は図案を描いてきたネ。アンケートを取って多数決で決めるネ」


「なるほど、それならすぐに決まりそうですね」


「マズはこれネ」


 宇宙人はそう言って1枚目のテロップを出した。


 そこにはプレアデス星団と、天文台が描かれている。

 プレアデス星団は宇宙人の母星、天文台は地球人を表しているのかもしれない。


 これはなかなか良い図案なのではないだろうか。



 福竹アナウンサーが宇宙人に詳しい話を聞き出す。


「これはプレアデス星団と天文台ですよね」


「ソウダネ、プレアデス星団はこの国では『すばる』と呼ばれているよネ」


「そうですね」


「この天文台は、『すばる天文台』と言うじゃナイ、ワレワレのシンボルとしてふさわしくないかネ?」


「ええ、まあ、そうかもしれません」


 福竹アナウンサーが微妙な返事を返す。

 天文台は地球人とかは…… 僕の勘違いだったようだ。宇宙人はあまり深い意味は考えていなかったようだ。



 宇宙人は福竹アナウンサーの反応などお構いなしに話を進める。2枚目のテロップを出した。


 そこには五線譜と音符が書いてある。

 僕は音符が読めないが、なんの曲が書かれているのか想像はできた。


 宇宙人は説明しようとする


「この惑星では、ワレワレの星団の名前の曲を出しているネ。谷村新可たにむらしんかという歌手が『すば……』」


 さえぎるように福竹アナウンサーが割り込んだ。


「そのシンボルは辞めましょう」


「ドウシテ?」


「もし使うとなると、膨大なお金を取られますよ」


「エッ、ソレナラ辞めておこうカナ……」


 福竹アナウンサーは宇宙人を止める事に成功した。

 たしかに、あの団体なら譜面だけでも間違いなく使用料を請求しただろう。



 少しふさぎこんだ宇宙人は3枚目のテロップを出した。


 そこには、ある自動車会社のエンブレムがあった。


 宇宙人が説明をする前に福竹アナウンサーが止めに入る。


「これ、大丈夫ですか? 許可取っていますか?」


「プレアデス星団のシンボルだから問題ないネ、アレンジもしているヨ」


「アレンジですか? 私には違いがわからないんですが……」


「ワレワレの母星を描いたヨ」


「本当ですか、どこに有ります?」


「ここネ」


 宇宙人はある一カ所を指さすが、そこには何も見えない。

 それは間近に居る福竹アナウンサーも同じようだ。


「何も見えませんが」


「縮尺に忠実に描いたヨ、チョット肉眼では見えないかもネ」


「駄目ですそれは、オリジナルと変わらないじゃないですか」


「ソウカネ、じゃあ次ネ」



 宇宙人は4枚目のテロップを出した。


 そこには指を指しだした男性と、それ合わせるように手を差し出すフラッドウッズ・モンスターの姿があった。


 この絵は美術の教科書で見た事があった。

 もちろんそこにはフラッドウッズ・モンスターなどは描かれていなかったが……


 その絵に福竹アナウンサーはツッコミを入れる。


「これはミケランジェロの『アダムの創造』じゃないですか」


「イイヤ、宇宙人を崇めてる宗教がアルみたいデネ。それを参考にワレワレが改善したのヨ」


「ああ、ええと、そちらですか。あれは架空の宗教で、宇宙人など居なくてですね」


「ココに居るじゃナイ」


「ええ、そうなんですよね、困ったな。どう説明しようか……」


 福竹アナウンサーが苦悶の表情を浮かべている。

 あの絵は、おそらくパロディ宗教の『空飛ぶスパゲッティモソスター教』のイラストから取ってきたものだろう。


『空飛ぶスパゲッティモソスター教』は架空の宇宙人を神として崇めているという設定で、全くの冗談なのだが。ここに居ないはずの宇宙人が実在してしまって、話がややこしくなっている。


 福竹アナウンサーが長々と説明をして、


「あれは人類創世に関わる絵画です。あなた方は人類創世に関わっていないので使用してはいけません」


 と無理矢理、宇宙人を納得させた。



 何とか宇宙人の説得を終えると、もう放送時間ギリギリだ。


「今日はここまでです、また来週」


「マタネー」


 アンケートを取らずに番組は終了してしまった。



 後日、宇宙人の国旗はプレアデス星団とすばる天文台を描いたものに決定する。


 理由は著作権団体がうるさかった為と、自動車会社から許可が下りなかった為と、『アダムの創造』を所持しているシスティーナ礼拝堂からクレームが入った事によるらしい。


 アンケートなど取る必要は無かったようだ。

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