第35話 料理ブログ
ある仕事の無い昼下がり、私は小野さんに頼まれたこともあって、ノートの残りにレシピを書き出した。
肉じゃが、焼き豚、秋刀魚のハンバーグ……普段いくつかは感覚で作っているのでいざレシピを書こうとすると戸惑ってしまうものもかなりある、キムチ鍋やチーズリゾットぐらいならレシピ無しでも作れないだろうか?
それでも小野さんが「私みたいに料理作る人はともかく、やらない人はだいたいもわからないから」というので書き出してみる。
さすがに一日では終わらないで、小野さんに「まだよ」と言いながら、ちょこちょこと書き出す。小野さんにしか見せないとはいえ、少しは見栄えも考えないといけない、ちょっとだけ絵を描こうか、そんなことを考えているとどんどん遅くなってしまうけれど、幸い小野さんも「いつでもいいですよ」と言っているからお言葉に甘えようと思っている。
品数のあまり少ないものだけれど、それでもなんとか書き終えて、私は書き出して二週間ほど経ってついにカバンにノートを入れて行くことになった。
ノートの題は「レシピ集」だ。黄色いひよこのノートは役目が決まってどこか誇らしげに見える。
「はい、これ」
昼休憩の時間、いつも通り美味しそうに私のおかずのエビチリを食べている小野さんに私はノートを手渡した。
「あっ!覚えていて下さったんですね、ありがとうございます」
小野さんは「レシピ集」の黄色いひよこが書かれたノートを嬉しそうに受け取った。
眼を輝かせてページをめくる小野さんを、私は若いころのテストのように緊張して眺めていた。なんでだろう、これはテストではないし、小野さんは人を悪く言ったりする人ではない、それなのに……。あぁそんなに見ないで欲しい、私の冷蔵庫の中身やお財布事情が知られているみたい。
「あ」
ふと、小野さんのページをめくる手が止まった。
「この梅チャーハン」
あそこのページは確か、後半書くものもなくなってきて普段残りで作っている料理を書いたところだった。……もっと若者が好きそうな、高価な料理を書くべきだったかしら、あぁ恥ずかしい。
「あぁ、それね、いつものお昼だから冷蔵庫の残りでテキトーに作ったの、あんまりその……」
気にしないで、と言いかけた私は小野さんの意外な声に、その大きさにではなく驚くことになった、
「これ、食べたことない、作ってみようかな……そっかチャーハンに塩入れないで梅干しね、へぇ。やってみようかな。
てか大平さん、これ自分にしか見せないのもったいないっすよ?アメブロ知ってます?やってみればいいのに、料理ブログ」
私の料理を楽しみにしている人がいるのはわかる、夫とか子供とか。それでも私の料理を見たい人がいる?この平凡な食卓を、そんなこと、今まで考えもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます