第百二十八話 緑色の襲撃者

アズライト国王計画は諦めた。

まあ元々、アズライトに自我があるように見えなかったとしても、僕の代わりに国王として認めてもらえたかどうかは微妙だったから良いんだけどね。


でも、アズライトの一般常識をマルモ先生に教わるのと、ノーミードを使って、寒空の中、中庭でレベルアップするのはここ数日続けていた。

それに、僕のマナが回復する度に、魔法やスキルを思い付く限り追加していった。

国王にするのは断念したけど、せっかくだから強くなってもらう。

本人もやれる事が増えるのは楽しいらしく、前日に追加した魔法やスキルを朝食前に試すのが日課になっている。


「マスター。このクレイエールンというスキルはなかなか難しいのです。うっかり気をぬくと、グロテスクな物体が手の上に出来上がって、気絶しそうになるです」


先代王が使えたという超レアスキルを追加したみた。

掌に収まるサイズなら思い描いたものを何でも具現化できるという、とても強力な能力だけど、頭の中で形をしっかりとイメージ出来ないと、出現した物は形が崩れたり、中身だけの物だったりと、制御が難しいスキルだった。


今のアズライトの手の上にも、ぐちゃぐちゃな何かが乗っていた。

何を想像すればあれが出来上がるのか。

人工精霊の頭の中がどうなっているのかを垣間見たような気がする。


「マスターマスター。アズはマスターの羽魔法が使ってみたいのです!」

「羽魔法?そんなのあったっけ?」

「はい。ばささあと羽が出て、アズの体をいじるアレなのです」

「ああ、セラフの翼ね。そして、体をいじる的な言い回しはやめてね。フィアが毎回睨んでくるから」


さて、セラフの翼を追加ってできるのだろうか。

魔法欄に書き込んでみるか。



『職業または種族が適合しません』



やっぱりダメか。

あれ?僕は使えるけど、そうすると、僕の職業ってなんだろう。

天使とかだったりして。


「ごめん。まだ、アズライトには早すぎるみたいだね。レベルアップとか、いろんな事が出来るようになれば、使えるようになると思うよ」

「ガックシです。マスターのように羽を広げて大空を飛び回りたかったのです」

「別に飛べないからね。さあさあ、レベルアップのための鍛錬を続けるよ」

「サー!イエスサー!」


それ、僕は言ったこと無いよね。

知識の取捨選択にまだずれがあるよ。




「最近、町を出歩けて楽しいのよね。昨日なんかパン屋のおばちゃんに『ラナちゃんは美人さんねぇ、将来は女優にでもなれるんじゃないの?』って言われたのよ〜。ホント困っちゃうわね〜」


まったく困ったように見えないラナの自慢話が、これで通算5回目の始まりとなる。

よほど嬉しかったのだろう。

外に出歩ける事と、見た目を褒められた事に。


「フィアちゃんも一緒にお出かけしましょうよ。そしたら、美人姉妹って町で噂されちゃうわよ?」

「そうなるから嫌なの。見た目で騒がれるのは嫌いだわ」


美人姉妹と言われるのはもう確定なんだ。

そりゃあ、僕もそう思うけどさ。

学校は行きたがっていたけど、注目されるのは嫌なんだな。


「パン屋のおばちゃんと言えば、昨日聞いた話しだと、近くの森にクエストへ出た冒険者がみんな帰ってこないんだって」

「何日も森に篭ってクエストするなんて、よくある事なんじゃないの?それに、強い魔物に出会っちゃって、最悪全滅しちゃう事も冒険者だったらあり得なくはないよね」

「そうなんだけど、何組ものパーティーが一度に失踪してるのよ。中には6段騎士がメンバーにいる所も居なくなってるのよ?この辺にそんな強力な魔物が出る場所なんて無いでしょ?」


なるほどね。

少し怪しいかな。

最近、大人しくなったと思ったけど、また神の誰かがこっちの世界に変な事をしているのかもしれないな。


スファレライトだけかと思ったら、ベニトアイトもフォルクヴァルツで何かしようとしてるみたいだし、警戒しておいた方が良さそうだ。



「ただいま〜。疲れた〜」

「おかえり、レティ。今日はそんなに大変だったの?」

「大変よ〜。だって、クエストに行った人達、皆んな帰る予定の日になっても帰ってこないんだもん。王都の外へ出るクエストはしばらく中止。森には捜索隊を出す事になったのよ」


あらま。

噂だけじゃなくて、ギルドでも本当に問題になってきているんだ。


「なんか、冒険者の話しだと、魔物じゃなくて、人でも無い、恐ろしい何かに襲われたって言う人も居たりするのよ」

「前にこの町にも出た人形なんじゃないの?」

「それがさ、会話をしているのを見たって言うのよ」

「え?誰が会話してるって?」

「その、恐ろしい何か同士らしいのよ」


それなら、人なんじゃないの?

変な仮装をしてただけとか。

襲うんだから、自分の事を知られない様に変装してるって言うのもあり得るよね。




国王の呼び出しをくらった。

そう言えば、帰国した後、行くのを忘れていたよ。

また国王がうるさく言いそうだよな。

めんどくさいなあ。

気が乗らないけど、今日は学校を休んで、王宮まで来ていた。


「こんにちは。国王に謁見したいのですけど」

「は、はい!そのままお通りください!上にはすぐに連絡をしておきます!」

「え?用紙に記入とかはいいんですか?」

「、、、、あの!そ、その節は大変申し訳ございませんでした!かの有名な英雄様だとは存ぜず、一般謁見へまわしてしまい、何とお詫びをしたら良いか、、、」

「いえいえ!別に問題無いですよ!気にしないでくださいね」

「あ、ありがとうございます!もうお顔を覚えましたから大丈夫です!今後は顔パスでお通りくださいね!」


それはそれで、セキュリティ上問題ないのか?

謁見の間に来ると衛士のような人が扉の前に2人並んでいた。

もちろん、謁見待ちの行列は健在だ。

その列の後ろに並ぼうとすると、衛士2人がこっちまでやって来る。


「フォルトナー様。謁見室へどうぞ。国王様がお待ちです」

「え?あ、いや並ぼうかなって」

「国王様が長いことお待ちです」


長い、の部分を強調する辺り、本当に数日待った事を表現しているのだろう。

いかんな。

せめて昨日くらいには来てれば良かった。


「失礼しま〜す」

「失礼な奴だ」

「失礼しました〜」

「待て、帰ろうとするんじゃない!」

「無事戻られたようですね。フォルトナーさん」

「少しだけ来るのが遅れて、すみませんでした」

「何が少しだけだ!王都に入ったらどこにも寄らずに直接ここに来いよ!まったく、、、」


ああもう、やっぱり怒った。

こうなるから来たく無くなるんだよ。

最近の若い子は褒めて伸ばした方が良いと思うよ?


「じゃあ、顔も見せたので、これで帰りますね」

「待てと言っとろうが!すぐ帰ろうとするな!クラウゼン、早く要件を伝えるんだ。コイツ隙を見て帰ろうとするから、話しを繋いで帰れないようにしろ」

「はあ、やれやれ。今日お呼びしたのは、帰国の報告に来て欲しかったのと、それとは別に問題が発生していまして、その話しを少ししたかったんです」


ああ、あの話しか。


「冒険者が居なくなっていると言う話ですね?」

「何だそれは。そんなギルドの話しはギルドですれば良い!こっちは国の危機に関係しているのだ!」


あれ?違ってた?

キリッとした顔して言ったから恥ずかしい。


「近頃、王都の近くに全身緑色に塗ったくった、変態が出没すると言う話が出てきているのです」

「ちょっと待った!そっちの話しの方がよほど官憲とかギルドの管轄じゃ無いんですか?変質者が出たってだけですよね」

「官憲は王都内だけですので、管轄で言うと騎士団になりますね。ギルドは、、、まあ、管轄内ですけど、どうにも冒険者では手に負えないようなのです」


これやっぱり冒険者が居なくなる話しと根っこは同じなんじゃないの?


「旅行者や商人の馬車、それに王都の外壁外に農地を持っている人もその変態に襲われて、命を落としている方もいるようなのです」

「当然、王宮も騎士団を派遣して、そんな変態野郎は駆除してやろうとしたんだがな」

「2度にわたって派遣したリヴォニア騎士団の第3、第4部隊が全員治療院送りになりまして、どうしたものかと困ってしまっているのです」


リヴォニア騎士団を2部隊も送り込んで全滅?

ノルド軍相手だって、今の騎士団なら互角とまではいかなくても、全滅はあり得ないでしょ。


「そこでフォルトナーさんには、王都のすぐ近くにある森へ行ってもらって、何が出没しているのか、と言うのを調査して欲しいのです」

「俺は駄目だと言ったんだ!次期国王候補をそんな危なっかしい任務に着けさせるなってな!だが、枢機院が、王国の危機に活躍しない者が国王になれるわけが無い、とか今更何言ってやがんだって事を言っててな。仕方なくだ!」


もうちょっと説得を頑張ってよ、国王は。


「フォルトナーさんなら、そんな輩でも勝てるかと思いますが、まずは情報が少ないので、どんな奴らなのか、どういう戦闘をするのか等々何でも良いので調べてきて欲しいのです」

「やられた騎士団からは話しは聞けなかったんですか?」

「どうにも記憶が曖昧らしいのです。推測でしかないのですが、精神汚染系の魔法が使われて記憶の一部が無くなっているのではないのかと思われるのです」



うええ。めんどくさそうな敵だな。

全身緑色で会話ができるような知性があって、記憶をいじってくる、か。


「早速行ってみて頂けませんか?王都の民達も気軽に出掛けるような近場ですので、被害も今後どんどん大きくなると予想されるので、早めに解決したいのです」

「はあ、、、。とても嫌だけど、仕方ないですね、、、。ちょっと今から行ってきますけど、もし危なかったらすぐに逃げてきますからね」

「ええ。それで構いません。フォルトナーさんの身が第一ですので。あ、でも、倒せそうなら倒しちゃって構いませんからね」


もうそれは、倒して来いと言ってるようなものじゃないの?


一度家に帰って、寝かせていたアリアをインベントリに収納してから、アズライトを連れて出掛けた。

本当はリーカとレリアを連れて行きたかったけど、リーカは学校へ行ってしまっていたし、レリアはこの一件のせいで騎士団員が足りなくなっているので、任務に駆り出されている。

他の皆んなは戦闘向きではないし、普段からあまり運動しないから普通の人よりも体力無いと思う。


「初任務なのです!国益を損なう敵勢力を木っ端微塵にしてやるです!」

「あくまでも今回は調査だからね。出来るだけ戦闘は避けるように」

「、、、分かってるのです。気合いを入れただけなのです」


本当に分かってるのかな?

まだ、レベルは5のままだし、魔法やスキルだってもっと増やさないとだな。



王都の外壁を出て、近くにある名もない森に向かう。

ここは、生活に密着した森であり、木の実やキノコ、果物と言った森で採れる食べ物を取りに来たり、動物や魚を取りに来る人もいる。

近くの町や村と繋ぐ街道も通っている事もある為、この森を行き交う人は多い。


なので、今も僕達の周りには人が結構いたりする。

街道なのだから、まあ、それも仕方ないんだけど、怪しい奴が出没していて騎士団でさえ返り討ちにあっているって言うのに、皆んな気にしないんだろうか。

商人の馬車なんかは仕事で通らないといけないんだと思うし、護衛を付けたりして身を守っているんだろうけど、僕の目の前を歩いている人達なんて、家族で森にピクニックに来てないか?


パパとママとちっちゃいお子さんが2人の4人家族だよ?

あれってお昼ご飯が入っているバスケットだよね?


この森が危ないことになっているって、お触れが出てないのだろうか。

流石に家族連れはまずいので声をかけてみる。


「あのう。すみません。この辺の森に今、危険な人物がいるって聞いてますか?」

「は、はい?えっと、そんな話しが出てるのかい?君達も子供のようだけど、イタズラで言ってるんじゃないの?」

「違いますよ!ほら!この紋章!僕はリヴォニア騎士団第1部隊所属のリーンハルト・フォルトナー7段騎士です。この辺一帯に無差別に襲ってくる輩が多数出没しているとの事なので、今日の所はお帰り頂けないでしょうか」

「え?!き、騎士様、、、。本物?わ、分かりました。ほら今日は帰ろう」

「ええ!ヤダー!せっかくパパがお休みなのにい!」

「ワガママ言うんじゃないよ。騎士様が悪者を退治してくださるんだから、邪魔になってはいけないよ」


姉と弟だろうか。

まだちっちゃい2人に、、、睨まれてしまった。

ううっ。ごめんよ。でも、危ないんだよ。


「騎士様のせいだ!騎士様が来なけりゃピクニックに行けたのに!」

「こら!おかしな事を言うんじゃありません!す、すみません騎士様。ウチの子が失礼な事を」

「い、いいえ。楽しみにしてたのを潰してしまったのは事実ですから、、、」


家族連れは渋々来た道を戻っていった。

最後まで子供2人には睨まれっぱなしだった。


「マスター、、、。ドンマイ!」

「う、うん。ありがと。アズライトが居てくれて良かったよ。一人だと、多分、しばらく動けなかったと思う。主に精神的なダメージで」


こんな思いをしたのだから、その変質者は取っ捕まえてやらないと気が済まないぞ!

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