第百二十三話 公爵からの誘い

ミスティの家に来ていた。

ふむ。もしかして、女子の家って、ティルやレティの家を除いたら初めてなんじゃない?

ティルとかレティの家はおじさんの家とか村長の家ってイメージだからな。

しかも、ひ、一人暮らしの女子の家!

アーデもリーカも一緒だけど、それでもドキドキするよね。


「ドキドキ」

「声に出てますよ?変態さん」

「変態さんじゃないやい!」

「リンは変態さん?」

「ち、違うよ?何もやましい事は考えてないよ?」


変な事を考えていなくても、そわそわしちゃうのが男子ってもんでしょ?


「お待たせした。粗茶だが、どうぞ」

「あ、お構いなく」

「すみません。いただきます」

「あ、アーデはオレンジジュースだ!」

「うむ。確かアーデルハイトは甘いのが好き」

「うん!」


こう微笑ましい2人を見てると、姉妹にも見えてくるな。

なんとなく、ラナとフィアを思い出した。

種族は別れちゃったけど、元は同じなんだし、この2人と会わせたら仲良くなれないかな。

うちの家族にも友達を作ってあげたい。


「それで?精霊術は何を教えれば良い?」

「どんなのがあるの?」

「ふむ。精霊術には大きく分けて二種類ある。一つは擬似精霊を作り出して行使する。もう一つは、人形族を精霊化して使役する」


ほほう。思っていたより随分と術式と違いが出ているな。

しかも、人形族か。

アニカのように天の住人が入る訳じゃなく、精霊化するのか?


「その人形族を精霊化するって言うのを教えてよ」

「それには、人形族を買ってこないと出来ないぞ?」

「人形族を買う、、、の?え?人を買うの?奴隷?」

「我が主人はアホの人?人形族なのだから、人形族屋に行けば売っている」


そうなんだ、、、。

人形族って何なの?

人族とかと同じ種族名じゃないの?


「それは誰でも買えるのかな?」

「買える。けど、高い。一体500万フォルクはする。高いのは数千万フォルクのもある」


ああ、アバターと同じ感覚か。

あれ?それとも、アバターと全く同じ物?


「それじゃあ、人形族はまた明日にでも買いに行こう。今はもう一つの擬似精霊?っていうのを教えて?」

「買いに行く?そんなに簡単に買えるのか?我が主人は大金持ち?もしかして専業主婦になって、一日中ダラダラできる?」


何の話だよ。

そっちは時間がかかりそうだから、すぐ出来そうなのを早くやってみたい!


「擬似精霊か。人族は内部に魔法円を使ったりする。アールブは精霊術で擬似的に精霊を作り出す」


ああ、前に作ったシルフみたいなものか。

でもあれは妖精であって精霊ではないよな。

シルフのもう一つ上の段階があるのか。


「呼び出してみる。コール エレメンタル サラマンデル!」


ミスティが両手を前に出すとその間に赤く光る玉が浮かび上がる。

中には火が詰まっているようだ。

たまに炎が玉から溢れ出している。


これ、どこかでみた事があると思ったら、テュルキスの妖精だった。

騎士団でノルド戦をした時に、仲間の皆んなに防御支援として付けた妖精の魔法だ。

あれは青い玉に羽が付いているものだったけど、これは赤いし火が中に入っていて、羽も付いていない。


「これ、精霊なの?妖精じゃなくて?」

「妖精は簡単な命令しかさせられない。出来ることも少ない。これは、目的を伝えればあとは自分で考えて判断する」


へえ、そういう違いか。

自律型かどうかなんだね。


「ふう。あまり長くは持たないのが難点。でも凄い人は3つくらい出せてた」

「僕にも出来るかな?」

「術式が使えるなら、精霊術も使える筈」

「よし、えっと、コール エレメンタル サラマンデル!」


ぷすんぷすん


なんだか黒い煙が出ていて、炎も点いたり点かなかったりしてイマイチキレイに燃えていない玉が現れた。


「何これ?」

「不完全燃焼だ。マナの量が多くて空気が足りない」

「空気が関係あるの?」

「マナと空気の量が一定の割合にならないとキレイには燃えない。バランスが大事」

「なるほど。じゃあもう一回やってみる」


今度はマナをほんの少しにしてみる。


ボッ


おお!今度はキレイな炎だ!

長く持たないっていうのもわかる。

ちょっと気を抜くと炎が安定せず外に漏れ出しそうになる。


ボフンッ


ああ、炎が完全に外へ出て玉が維持できなくなり破裂してしまった。

なかなか難しいな。

あとで練習しておこう。


「これ、炎の精霊だけなの?」

「まだ、いくつかある。シルフィード、ノーミード、ウンディーネ。みんな想像上の精霊。実在しない」


そうなんだ。

精霊自体が想像上の存在かと思ってたけど、アニカとかいるもんな。


「ちょっと他のもやってみようかな」

「待て、ウンディーネだけはやめておいたほうが良い」

「え?なんで?」

「ウンディーネは擬似精霊に使っている人工人格に問題がある」

「どういう問題なの?」

「男好き」

「ん?」

「男がとても好き」

「その擬似精霊って女性なの?」

「人工人格を設計する際に、モデルになった精霊の性格に問題があった」


な、なるほど。

元になる精霊がいたんだ。


「今は女神に昇進しているが、当時はまだ精霊だった頃に河川管理局の精霊として浚渫工事の査察に来ていた所をモデルにお願いした。当時はまだ男好きは露呈していなかった」


いらない情報だな〜。

まあ、使わなければいいんだよね。


「だが、その精霊は将来女神となる程、強力な素質を持っていた。だから、それをモデルとした精霊ウンディーネも強い力を持っている」

「じゃあ、もしかしたら使う場面も出てくるかもね」

「その場合一番危険なのは我が主人、あなたになる」

「そ、そう。使う時は気をつけるよ」


ウンディーネ以外も家で練習してみよう。

となれば、急いで帰らないとね。


「分かりやすいですね。早く帰って試したくて仕方ないって顔してます」

「流石リーカ。僕の気持ちが分かってるね」

「私じゃなくても分かると思いますよ」

「そ、それじゃあ、アーデの事はこれからよろしく頼むよ。じゃ、また明日ね」

「う、うむ、また明日」


さあ、帰ろう!いざ、帰ろう!


「早いですって!もう、ようやく2人きりになれたんですから、もう少しゆっくりと、、、はあ、、、分かりましたよ!急いで帰りましょ、、、」


ああ、ごめんね、リーカ。

こればかりは我慢できないんだよ。

新しい事が試せるんだから、ワクワクしないわけないんだよ!



家に着くと、玄関の前に人が何人か立っていた。

豪華な馬車まで横付けされている。

誰か来た?

馬車の前で立っていた女性に声をかけてみる。


「こんにちは。どちら様でしょうか?」

「あら、こんにちは。こちらのおうちの子かな?呼び鈴を押しても返事が無いのだけど、おうちの方はお留守かしら?」

「僕がこの家の世帯主ですけど」

「、、、ああ、そうね。おままごとの話かしらね。お父さんかお母さんは居る?呼んできて欲しいのだけど」


人の話を聞かない人だな。


「僕がこの家の主人ですが?要件は何でしょう?」

「え?キミが、、、あなたがご主人?という事はリーハル・フォストナーさん?」


ものすごい名前の間違え方だな。

人の事言えないけど。

でも、最近、記憶を一度失ってからは名前を覚えられるようになったんだよ?

アリアと記憶を分け合えるようになってるからだと思うんだけど、物覚えもかなり良くなってる気がする。


「ご用件が無いならお引き取りください」

「いえいえ、あります!フェアラート・ブーゼ=フォン=シュトライト公爵様よりお話がございます!」


この馬車の中にその公爵様がいるのか?

なんだか嫌な感じがするな。

でも、貴族をここで返すのも問題になりそうだし、話だけでも聞くか。


っと、その前に、家の中にいる家族をどうするかな。


(リーカ)

(分かってます。皆んなには隠れてもらいます)


そう言うと、リーカは一人先に家に入っていった。

流石、主従契約。

この辺はもう以心伝心だな。


公爵を家に招き入れる。

公爵は馬車から降りてくると、従者と共に家に入ってきた。

公爵は背が高く体格も良い。

歩き方、立ち居振る舞いから見る限り、剣術の腕はかなりあるようだ。

くるんと丸まった口髭がいかにも貴族っぽさを出している。


リビングに入ると当然のように一番奥の僕の席に公爵がストッと座る。

まあ、そこが上座だし、相手は貴族だし、仕方ないか。


対面に僕が座ると、リーカが何故かメイドの服を着てコーヒーを出してきた。

そんな服、いつの間に買ったんだよ。


「それで、公爵様がわたくしめに如何なるご用件で?」

「フォストナーといったか。先日の三国同盟において、貴様は功労者と言われるほどの活躍をしたらしいな」


名前、この人も間違えてるし。

それに三国同盟じゃなくて、ヴェローナ条約ね。


「微力ながらお手伝いをさせてもらいました」

「ふん!どんなコネを使ったのか知らないが、貴様はどうやら国王の覚えが良いらしいな。国同士の会合に参加できる程だからな」

「は、はあ。まあ、国王、、、様には良くしていただいております」

「単刀直入に言う。貴様には誰がバックに付いている?」

「は?バック、、、ですか?」

「そうだ。いるのだろう?誰だ!ゲルデルン公か?アーレンベルク公か?」


何の話しだ?

僕に公爵家の後ろ盾が居ると勘違いしてるのか?


「いえ。私にはどなたも支援されている方はおりません」

「そんな筈なかろう。いきなり国王の側近として外交を任されるなぞ、一般平民には到底無理な事だぞ!誰だ!安心しろ口外はせぬ」

「本当に支援者は居ないのですが、、、」

「誠か?ふむ。まあ良い。何か別の手口で登りつめたのだろう。本題はそこでは無いのだ。いや、むしろ本題にとっては都合が良いか」


何をごにょごにょと。

なんかもうさっきから怒りがこみ上げてきている。

僕じゃなくて。

そこの扉の向こうから。

多分、盗み聞きをしているリーカ達なんだろうけど、怒って飛び出してきたりしないでよね。


「本題というのはだ。俺が貴様の支援者になってやると言う話だ。既に支援があると思っておったが、居ないのであれば好都合だ。貴様にとっても悪い話では無いだろう?」


ああ、そう言うことね。

急に頭角を現した、何処の馬の骨ともわからない一般庶民なら、そういったパトロンじゃないけど、裏の繋がりがあると踏んで、そこに一枚噛ませてもらおうと言う魂胆なんだな。

今までこう言う話を持ってくる人は居なかったけど、条約は流石にインパクトが大きかったか。


「お申し出はありがたいのですが」

「うむ。それならすぐにでも契約を結ぶのだ」

「あ、いえ。そうでは無くてですね。公爵様から支援を受けると言うのは辞退させて頂けないでしょうか」

「何だと?何故だ!実は支援者が居ると言うのか?それなら俺が直接話を付けてやるぞ!なに、独り占めすると言うことではない。お互い得手不得手があるのを補い合おうと言うだけだ」


やっぱり話しを聞かないな。

自分の都合がいいように聞こえるんだろうな。


「申し訳ありませんが、貴族様からのご支援はお断りさせて頂いています」

「分からぬのか?この国は貴族無くして成り立っておらんのだ。まあ、庶民にはすぐには分からんことだろう。一度、よく考えてみることだ。貴様はかなり若いようだし、今の支援者にも良く話してみる事だ。シュライト公爵家は王国内3位の資産を持つのだからな。貴様のバックがどれだけのものか知らぬが、俺と組むのがどれだけ利益になるか、よく考える事だ。また来る。その時までには答えを出しておくように」


そう言うと、スタスタと従者と共に出て行ってしまった。

自分の言いたい事を言ったら、後は人の話は関係ないって感じだね。


変なのに目をつけられちゃったな。


「何ですか!あの失礼な人は!」


おお、珍しくリーカが怒ってる。


「そうよそうよ!ご主人を支援してくれる人はもっと若くて貴公子のような人じゃないとダメよ!」

「何でだよ」

「せめて、見た目が美しくないとよ!あんなゴツゴツした頭が筋肉で出来てそうなのは美しくないわ!フィアちゃんもそう思うでしょ?」

「わたしに同意を求めないでよ………」


ラナのよく分からないこだわりは、どうでも良いとして。

あの貴族、また来るとか言ってたし、人の話し聞かな過ぎだし、この後も嫌な絡み方してきそうだな。

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