第百二十一話 魔術

アーデを連れてフォルクヴァルツへと向かう。

ヘルマンさんが無事、馬車を回収してきたので、ここからは馬車に乗って帰らないといけない。

馬も馬車も人も、全員ストレージに放り込んで、僕一人で走っていけば、あっという間に帰れるけど、流石に緊急事態でも無いのに、人をストレージに入れるのは物扱いしてるみたいで嫌だ。


でも、4人が乗ってきた馬もフォルクヴァルツまで連れて行かないといけない。

馬ならまあいいか。


「ちょっとだけ我慢しててね。って言っても気付いたらフォルクヴァルツに着いているけどね」


馬を次々とストレージへ入れていく。


「マ、マジックボックス!?王宮魔導師の中でも数人しか使えない、あの!伝説級の魔法!!」


おお。ユーリが珍しく興奮している。

でも、マジックボックスって生物が入れられないんじゃ無かったっけ。


「ユーリちゃん、それってすごいんすか?」

「それが使えるだけで、お給料が100倍くらいになるくらい、すごい!」

「それはすごいっす!!分かりやすいっす!!」


お金基準だと分かりやすいよね。

100倍かあ。そんなにお給料貰ってたかな。

後で国王に問い詰めてみよう。


「そ、そんなの、凄くないと思うのじゃよ」

「アーデちゃん、だって100倍っすよ?皆んな出来ないからお給料もいいんすよ?」

「アーデもそれくらいできるもん!あ、、、できるのじゃ!」


ほう、流石魔女。マジックボックスが使えるのか。


「えっと、例えばその馬車をしまってみるよ!トランスポーテーション!!」


シュムッと音がして馬車は馬車馬ごと、消えてしまう。

なるほど、効果としては僕のインベントリと同じような動作だね。

でも、そのスキルだか魔法の名前。

聞いたことのあるような名前だ。


「今のって、術式だよね?」

「じゅつ、、、?そんなのじゃ無いのじゃ」


あれ?違うの?


「えっと、例えばさ、リインフォースとか知ってる?」

「な、なんで、強化の魔術を知ってるの?、、、じゃ?」


やっぱりあってるじゃん。

ん?魔術?


「魔術って何?」

「強化を知っていて魔術を知らないの?変なの、、、じゃのう」


魔術、、、ああ、つまり、「魔女の使う術式」で魔術なのかな?

それじゃあ、やっぱり僕が知ってる術式と同じものと見てよさそうだ。

僕が何故、術式なんて物を知っていて、使えるのか謎だったけど、ここへ来て繋がりが見つかったな。

全く覚えていなかった術式を、記憶を無くした時にいきなり使い方を思い出したのには、何か理由があるはず。

それに、僕は人族なのに、魔女族が持つ術式が使えるというのも何か、、、、あれ?僕って本当に人族なのか?


父さんも母さんも人族としてあの村で暮らしていて、僕も当然のように人族だと思っていたけど、よく考えたら両親のステータスって見たことないし、僕自身のステータスはそもそも見えないから、僕や両親の種族って本当は何なのか分かんないや!


「も、もしかして、僕って魔女だった?!」

「いきなりどうしたんすか?大丈夫っす、ちゃんと男の子っすよ」

「あ、そうか。最近、自分の性別が何だったのか分かんなくなって来てたよ。そう、僕は男子。魔女じゃない」

「魔女って男でもいるよ?、、、じゃよ?」

「え?そうなの?でも、魔女って言ってるのに?」

「変だけど、種族名だから。魔女を受け継げるのは女だけで、男は一代限りになるの」


なるほど、男女二人の子が生まれたとして、女の子の方は大人になって子供が産まれたら、その子も魔女になれるけど、男の子の方は将来子供ができても、その子にはもう魔女は受け継いでいないのか。

じゃあもしかしたら、もし母さんが魔女だったら、僕も魔女の力を受け継いでいるかもしれないんだ。


「ねぇ、アーデ。僕も本当に魔女かもしれないんだ。その、、、魔術っていうの、僕も使えるんだ」

「ほ、本当に?でも、おばあちゃんがもう魔女族は私達だけだよって言ってたのに、、、。に、偽物!?」

「いやいや、もしかしたら、だから!魔術だって、何かの偶然で出来ちゃっただけかもしれないし」

「偶然でできるもんなんすか、、、」


いいんだよ。母さんから受け継いだ真実の書の知識を使って魔術を使えるようになったのかもしれないんだしさ。


「失礼ながら!フォルトナー様のステータスには魔女族と書かれておられるのでしょうか?そこを見れば一発で分かりますし、今まで見られていらっしゃらない訳はないですよね」


ファルコさんは余計なことに気付くんだから、、、。

窓無しだから種族は分かりません!とか言えないんだよ!


「そこは、企業、、、じゃなかった、王宮の秘匿事項に当たるから話せないんだけど、僕の種族はステータスだけだと分からないんだよ。この話、最高機密になるけど、続きもっと聞く?」

「いえいえいえ!自分は今、何も聞いておりません!」

「ひえぇ、ファルコさんなんて事聞いてるんすか〜!そんなトップシークレットを一般騎士が聞いたら、粛清されちゃいますよ〜」


そんな制度ないよね?え?無いよね。

なんか怖い事聞いちゃったな。

僕、王国の秘密、結構聞いてるんですけど。

秘密の中心みたいなものだから許されてるのかな。



僕が魔女の血を継いでいるかは、ひとまず置いておき、馬車に乗って北へ向かうことにする。

魔女とか母さんの事とかは馬車の中で聞けば良い。


「あのさ、アーデ。魔術の事なんだけど」

「気安く呼ばないでくれませんか!、、、くれんかのう!偽物には用はないのじゃよ!」



すっかり偽魔女判定されてるな。

むむー。アリアの時はすぐに仲良くなったのにな。


「フォルトナー様!次の町はどうします?食料とかはさっきの町で買い込んだんで、当分は問題ないです」


ビクッ


んん?御者台に居るファルコさんが後ろに声を掛けてきただけなんだけど、アーデがビックリしてカティにしがみ付いている。


「ああ、町には寄らなくて良いよ〜。どんどん進んじゃおう」

「了解です!」


ファルコさんと僕が会話をする度にビクビクしている。

これは、もしや?


「認識阻害、僕の性別」

「フォルトナー様?あれれ?なんか急に可愛くなってません?」

「ふんす!男の娘?!」


ユーリはそういう反応するのかよ。

アーデはどうかな?


「あ、、、。アリア?違う?何で???」


アリアと見間違えるのか。

中身が同じだし、マナも同じだからかね。

でも、やっぱり、これで分かった。

アーデは男が苦手なんだろう。


さっき、ファルコさんやヘルマンさんにも近づかなかったし、僕が嫌われてる訳じゃないんだよ。

よ、良かった。


「アーデ。頭撫でても良い?」

「う、うん」


ナデナデ


よし!撫でさせてもらえた!

噛まれないよね?


「魔術の話を聞かせてもらってもいいかな?」

「い、いいよ?でも、何でアリアの匂いがするの?、、、するのかの?」


匂い、するのか?!

マナの事だと信じたいけど、、、。

実は僕、臭いのかな、、、。

まだ、話し方もお婆さん風が抜けてないから、警戒されてるな。


「じゃあさ、僕の魔術を見てくれないかな。ヒーリング」


回復魔法ではない。

癒しの術式だ。

リラックス効果やストレスの解消をしてくれるから、寝る前に使うとぐっすりと眠る事ができる。


馬車の中に薔薇の花の香りが漂い、心地良い音楽が流れ始める。

肩や眼の周り、腰など普段から痛みやコリを感じている所がじんわりと温まり、楽になってくる。


「ふえぇ。落ち着くっす〜。温泉に来たみたいっすね〜」

「極楽」

「これ、、、懐かしい、、、おばあちゃんがよくアーデが寝れない時に使ってくれた、、、」


ヤバっ、、、僕も癒されて、眠くなってきちゃたよ。

ここで寝たらダメだ。

魔術の効果を切って元の馬車に戻す。


「ああん。いい雰囲気だったのに〜。もっと続けて欲しいっす〜」

「眠い」

「ホントに魔術使えるのね、、、。それに、おばあちゃんの魔術まで、、、。急に怖くなくなったし、一体何者なの?」


いいぞ、いいぞ、話し方もアリアの時と同じになってきたし、警戒も解けてきた。


「フォルトナー様、さっきなんか音楽が流れてませんでした、、、、って女子?!あ、いや、フォルトナー様?失礼しました、、、あれえ?おっかしいな〜」

「どうしたんだ?ファルコ?」

「あ、いや、見間違いかな、、、。フォルトナー様って男だよな?」

「何言ってるんだよ。男に決まってるだろ?え?何?ファルコってそっちなんか?ちょっと寄るなよ」

「馬鹿言うな!俺は女が好きだ!」


御者台から変な会話が聞こえてくるけど、気にしなくていいでしょう。


うっかり惚れられたら困るので、今の状態ではあまり男性陣とは話さない方が良さそうだ。



フォルクヴァルツに着くまでの間にアーデから色々な事を聞いた。

魔女の事、魔術の事。

僕の母さんの事も聞いたけど、アーデは母さんの事は知らなかった。

魔術自体は元になる物はエルツ族が編み出したものらしく、それが魔女に伝わって魔術となったらしい。


「魔術はちゃんと教われば出来るようになる人も居るから、リンのお母さんもエルツか魔女に教わったのかもね」


とうとう、リンと呼んでくれるまでになった!

良かった良かった。

ああ、でもこれ、認識阻害の効果が切れたら、また一気に怖がられてしまうんだろうか。


今のうちに仲良くなっておいて、最後には認識阻害無しで話せるようになりたい!

あと、このお婆さんの姿も魔術で見せてる筈だから、これも外して本当の姿を見せて欲しい!


「今のフォルトナー様。なんか、ユーリちゃんがたまに私に見せるいやらしい顔してるっすよ」

「ななな何言ってるかな?!いやらしい事なんて考えてないよ?!」

「私、別にバカティにいやらしい事考えてない」

「いやいや、ユーリちゃんは私が失敗した時とかによくこの顔になってるっすね。フォルトナー様は今まさにアーデちゃんを見る目がそれっす!危険人物っす!」


ずざざざっ


ほれ見ろ。アーデが僕をまた警戒しちゃったじゃないかよ!

ついでにユーリも警戒対象になってやんの。

カティの後ろに隠れるようにしがみ付いて、アーデは僕とユーリをジロリと睨みつけていた。


「なんで私までも。飛び火くらった」

「ああ、なんかごめん」


アーデの警戒を解くのに、またヒーリングの魔術を使ったり、ストレージからお菓子を出したりして、カティのせいで大変な目にあった。



馬車はトリーアの町に着いた。

あの門から先はようやくフォルクヴァルツに入る訳だ。

でも、ここまで来れば王都まであと少しだね。


「騎士団のお方ですか。お疲れ様でございます。規則ですのでステータスを拝見いたします。ご協力お願いします」


ぬおぅっ!しまった!行きは国王と一緒に移動してたからこういう国境超えは全部スルーだったけど、流石に騎士団員だけだと入国審査があったか。


こんな所で窓無しが弊害になるとは、、、。

あ、そうか。


「認識阻害、僕の存在」

「はいごめんなさいよ。馬車の中も確認させてもらいますね。そちらのお二人は騎士団の方ですな。そちらのお婆さんは、、、えっ?852歳、、、魔女族?!し、失礼しました!も、問題ありませんのでお通りください」


そう言えば、アーデってそんな歳だったね。

でも、これで、フォルクヴァルツには入れた。


「あ、、、あれれ?誰か居なくなってません?」

「そう言えば、、、ファルコさん?」

「俺はいるぞ」


居なくなった事も気が付かなくなるのか。

認識阻害を解除する。


「うわおっ!びっくりしたっす!びっくりしたっす!急にフォルトナー様が現れたっす!ってか、今までどこに居たんすか?」

「奇術」

「うう、、、あまり近かないで欲しいのじゃ」


これ本当は気付いてたけど話を合わせていただけって事ないよね。

目の前にいるのにこんなに気づかないってあり得るもんかね。

あと、認識阻害を解除した事で、性別がはっきりしたから、アーデにまた怖がられてるよ。


「認識阻害、僕の性別」


まだこれに頼るしかないようだ。


(おおおっ!おい!ヘルマン!やっぱりフォルトナー様は女の子だったぞ!み、見ろよ)

(ええっ?またかい?別に俺は人の趣味に文句はないけど、迷惑はかけるなよ?)

(違うって!お前も見てみろって!)

(何を、、、、ぬあっ!、、、ホントだ。女子だ、、、)

(だろ?見た目は男子なのに中身は絶対女子だぜ)

(ああ、いけるな、、、)


ま〜た、前の二人はバカな事を話してるな。

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