第百話 窓無し再び

ボクって窓無しだったのか………。

天使の力が使えたり、知らないうちに術式とか使えてるから変だなと思ったんだよな。

レアスキルホルダーって事なんだろうけど、普通の魔法も使えるみたいだし、どれがボクのレアスキルなんだろうか。

さっきは、使えなかったアザレアの杖と水筒を使えるようになったし、スキルや魔法を増やせるレアスキルなんだと思う。


窓無しはショックだったけど、リーカはそのことを知っていたし、それでも、ボクの事を嫌わず一緒に居てくれている。

それだけでも嬉しい事だ。

もしかして、フィアとかお姉ちゃん達も知っていて、あそこで一緒に暮らしてくれているんだろうか。


リーカが小声で教えてくれたんだから、ここに居る人達の中には窓無しの事を知らない人もいるという事だ。


今のでここにいる人達に気付かれなかったか心配だ。


「リーンハルトさん?如何ですか?まだ、こちらのお二人は蘇生には至らないでしょうか?」

「す、すみません。もう少しマナを分けて貰えますでしょうか」

「ええ、リーンハルトさんの為なら幾らでも。それに、リーンハルトさんの体にわたしのマナが入っていると考えるとゾクゾクします」


え、、、。レクシーさんってそういう感じの人だったんだ。

ちょっと身の危険を感じるんですけど。

今までのボクは無事だったのだろうか。


『充マナ率、4%』


危なっ!

さっき98%くらいあったよね!

1人の人の蘇生には47%くらい使うって事だよ?!

それに回復には残りの3%くらいで出来るのか。

蘇生ってそれだけ大変な事なんだな。


レクシーさんにマナを貰い、8%まで来たので、さっきの様に傷や生命力を全快にしてあげた。


「おおおお!二人とも生き返った!ありがとう!本当にありがとう!俺の判断ミスのせいで、大事な仲間を失うところだった、、、」


指揮をしていた人に何度もお礼と謝罪を受けた。

あれだけ、自分達だけで倒せると豪語していたのに、この結果だったから、この学校の生徒達は酷く落ち込んでいた。

次からは慎重になってくれる事だろう。


「ここはなんとかなって良かったけど、他の所はどうなんだろう。この分じゃあ、被害が出ているところもありそうだね」

「大体この妖魔も精霊も自然に発生したものではないですよね。こんなの不自然です!」

「ええ、精霊が悪さをしているという噂が立っていた頃から、神々の試練なのではないか、とか、天の世界で争い事が起きているのでは、などの話は尽きません。元々精霊は天使様が使役する使い魔の様なものですので、自然なものでは無い事からも神様か天使様の意図があるという事で間違いはないかと思います」


このレクシーさんの意見は王宮でも同じだと言う。


「やっぱり、スーさ、、、、神スファレライトが関与しているのではないでしょうか」


リーカが口にした神様の名前は聞いたことが無い。

忘れてしまっているだけかもしれないけど。


ピィーピィー


ピィーピィー


ピィーピィーピィーピィー


な、何だ?!

周りの至る所から精霊出現の笛が聞こえてくる。


「わあああ!早く逃げろー!」


「きゃあああ!誰か!助けて!」


「避難だ!ここはもうダメだ!」



笛の聞こえてきた周囲からの声が段々と近づいてくる。

ここに集まってくる?

いや、ここに精霊が向かってきているのか?


集まってきた人達は色々な学校の生徒や自警団、騎士団も居て、いつもは屋台で賑わっている広場は、今は別の意味で人が一杯になった。

周りの道はこの広場へと四方から集まってきていて、丁度この広場を中心に蜘蛛の巣の様に道が広がっている。


だから、どの場所からも精霊がこの広場を目指して来ると、周りを囲まれてしまう事になる。

100人近く人が集まったここに、周りからあの精霊達が一斉に襲いかかって来られると、かなりマズイ事になりそうだ。


「レクシーさん、皆んなも!このままじゃ、周りの人の逃げ場がなくなります!どうにか一箇所だけでも突破して、逃がさないと!」

「ええ。そうですね。ですが、今のこの状況ですと、周りを人に囲まれていて攻撃が出来ませんので、精霊のいる方へ出ましょう」


どんどんと広場の中心に集められていく人達を掻き分けて、一箇所精霊の数が少なそうな場所へと向かう。

そこを倒せば皆んなを逃がせる事ができるはず。


広場の中心に学生や群の人達。

広場の周りには妖魔に操られた精霊が無数に囲んでいる。

でも、さっきの精霊とは少し違って、ドロドロがあまり付いていない、、、というか、もっと動きが滑らかで、人が動かしている様にも見える。

たまに口とか耳からドロドロがはみ出るのが無ければ、普通の人と見間違えてしまうかもしれない。

あ、でも、顔は真っ青だから、そこで分かっちゃうか。


完全に広場を包囲されると、精霊達はピタッと止まり、広場に集められた人達もそれを見て何が起きるのかと息を呑む。

こんなに人がいるのに、シーンと静けさが一瞬だけ訪れる。


丁度、ボクの目の前にいた一体の精霊が歩き出して来る。

もう歩く姿は普通の人と同じだ。


「もあ」

「もあ?」

「も、も、もあ、ま、また、オ、おマエカ。ウ、うまく、ハナせ、せない、ななな」


精霊が話し出した。

抜け殻じゃ無かったのか?


「ひえぇ、死人が喋ったあ」

「お、お化けぇ!」


後ろの人達が騒ぎ出す。


「お、オまえ、ジ、ジャマするな。ま、、、またこ、コロさ、、されたい、か」


これボクに言っているのか!?


「ボクの知り合いなのか?」

「あ、、、あったことは、ない、が、お、オレのうーたん、のみならず、アリアたんまで、、、許せん!オまえは許せんぞ!」


何を言ってるんだコイツは。

うーたんとかアリアたんとか、誰かの事か?


「うわあああん!リーンハルトくん!これ、スファレライトです!早くやっつけちゃってください!」

「え?この精霊が?死んじゃってるの?」

「違いますう!チャットみたいなので精霊を通じて天の国から話しかけてきてるんですう!」


そ、そうなのか。そんな便利機能が。

いや、それどころじゃないか。

コイツが人形の親玉なんだな。

でも、本人がここにいないんじゃ、倒してもあまり意味が無いんじゃないのか?


「なあ、スファレライト、、、でいいのか?」

「あ、アア、リーンハルト。ち、直接話すのは、初めてだだだだだだだだだ」

「え?大丈夫?」

「だだだ大丈夫だだ。だだだを打つと、キーが凹んだだだだまま、帰ってこないんだだだだ」

「大変だな。だ、は使わない方が良くない?」

「そ、そうする。今、か、環境が良くない、、、のよ」


別に女の子っぽく話す必要も無いと思うけど。


「し、しかし、余裕がある、な。リーンハルト。この状況で、、、い、生き残れると思う、のか」

「どうだろうね。でも、スファレライトはボクと話をしてくれてるんだから、何か解決の道はありそうじゃない?」

「ふ。オレのうーたんとアリアたんを返せば、今はひ、ひいても、良かろう」

「その二人は誰?」

「あ、あの、うーたんって言うのは、私の事なんです」

「リーカ?何でうーたんなの?」

「本名がウルリーカで、うーたんって呼ばれてて、、、」

「な、なるほど、知り合いだったんだ」

「前にスファレライトに勇者にされてしまう所をリーンハルトくんに助けて貰ったんです。結局、勇者になっちゃいましたけどね」


ボクの周りには変わった人しか居ないのだろうか。

あの大魔王が居るくらいだから、勇者くらいいてもおかしくないけど、一体どんな状況だったんだか。


「アリアたんっていうのは?」

「恐らくリーンハルトくんの事かと」

「何でそうなるのさ」

「あの女の子がそんな名前とかじゃ無かったですかね」

「ああ。あれ、スファレライトの提供なんだ」

「提供というか、奪ったんですけどね」

「いい、から、早く返せ!返したら、引き返してヤル」


そういう訳にはいかないよ。

アリアたんはともかく、リーカを渡すのは出来ない!


「リーカはボクの(妹分)だ!お前には渡さないよ!」

「はああああん!ボクのモノ宣言来ましたあ!私はリーンハルトくんのモノですう!」

「いや、そういう意味じゃあ」

「く、くそう!こ、子供のくせに、人族のく、くせに!お、オレはうーたんと手を繋ぐ事さえ出来なかったのに!」


そうですか、、、。

リーカが魔の手に落ちなくて良かったです。

あ、いや、神の手か。意味変わっちゃうな。


「こ、コロす!っていうか、滅する!そ、そのあとで、うーたんとアリアたんを回収する!」


一斉に精霊達が動き出す。

この数はマズイな。

今わかっている手持ちの魔法やスキルだと大量の敵を相手にするには向いているものは無い。

あとは、鞘より抜かれし剣と終末の七つのラッパと言うのが残ってるけど、剣は剣だし、あとはラッパかあ。

終末って言葉もあまりいいものに見えないなあ。


とにかく、水筒と同じでイン何とかって言うので使えるようにするのに、時間が掛かるんだろうから、それを早くやってしまおう。

気付かれないように小声で、、、。


(終末の七つのラッパ)


『警告!終末の七つのラッパはインストールされていません。終末の』


(やります、インストールというのをやります!はい!はい!早く!)


『ルート権限にて、終末の七つのラッパのインストールを開始します』


もうそういうの良いから、急いで!


「あ!ねぇ!スファレライト?」

「ん?い、今更なん、、、、、何さ」

「だ、が言えないのは大変だね」

「用件はなん、、、、なのよ」

「あ、いや、その、、、、あ!ここにこんなに精霊を集めたのは、アリアたんを返して欲しかったからなの?その為にここまでした訳じゃ無いんでしょ?」

「当たり前、、、、さ!それのみなら、オ前の所に行けバ良い。これニは他の意味がある!」


あれ?時間稼ぎのつもりで話し掛けたけど、意外と重要な話が聞けそう。


「何でこんな事をしてるのさ?」

「ソれはな!こ、こっちの世界にオレの居場所をツくるためだだだだだだ!ああ!もう!だだだだを使っちゃったじゃないカヨ!はっ!サテは!時間稼ぎをしてイタな!」


だ、のせいで気付かれてしまった。

でも、インストールとやらは何も表示されなくなったから、終わった、と思う!

また、説明を見ながら試してみよう!


「終末の七つのラッパ!!」




終末の七つのラッパ


世界を終わらせますか?


[はい] [まだ]




ええええ、、、、、。

七つのラッパから選ぶとかじゃないの、、、、。



「は、、、じゃない、まだ」




『終末モードを終了します。世界終末時計を1分戻します。残り2分』


えっと、今、この世界、かなり危険だった?



『終末モードは終了しました。通常モードのラッパを起動します』



終末モードは終了しましたって、明日からは平日モードに切り替えるぞーみたいに言わないでよ。




終末の七つのラッパ〔通常版〕


世界の終わりの始まりを奏でてください。


 第一のラッパ吹き

   血で出来た氷と炎が降り注ぐ

 第二のラッパ吹き

   海の水を血に変える

 第三のラッパ吹き

   川や湖を毒に変える

 第四のラッパ吹き

   太陽、月、星を破壊する

 第五のラッパ吹き

   奈落の王アバドンを召喚する

 第六のラッパ吹き

   4柱の天使が率いる騎兵隊を召喚する

 第七のラッパ吹き

   終末が訪れる(現在使用できません)


※ただし、第一から第四までの効果は世界全体の33%までが許可された使用限界となる。




うわあ、、、。どれも使えなさそう。

本気で世界を壊しにかかってるじゃないかよ。

何だよ奈落の王って。そんなの怖くて呼べないよ。


使えたとして、第一のラッパくらいか?

怖いなあ。

でも、このままじゃあ、どうにもならないし!


「だ、、、第一のラッパ!」


ぽんっと、角笛?のようなものが宙に現れる。

おおっと。うまくそれを掴めた。

これ、吹けば良いのかな。

すうぅぅぅ。

フゥー。


あれ?鳴った?


「オ、オ前!ソれはズルいぞ!天使のラッパを持ち出すナンテ卑怯だだだだだだ!」


もう一回。

すうぅぅぅ。


♪♪♪♪♪


鳴った!

よく分かんない音だけど、確かに鳴ったぞ!


『敵性判定:自動モード。目標、スファレライトアバター及び精霊アバターの抜け殻』


ゴオォォォォォ


ん?何の音?

空?

ボクが上を見ると皆んなも釣られて見上げる。

スファレライトも釣られて見てるし。

何か空に赤くキラッと光る物と火の玉みたいなのが浮かんでいる。

いや、浮かんでるんじゃなくて、落ちてきてるんだ!

光る物は氷だ。

真っ赤な氷と火の玉がグルグルと絡まりながら、ここに向かって落ちてくる。

えっと、、、あんなの落ちたら結構ヤバいんじゃないの?

もしかして、マズイことした?


皆んなに逃げてって言おうとしたけど、この状況じゃあ逃げらんないし!


スファレライトにも言って皆んなで逃げようって提案してみるか。


ゴゴゴゴオオォォォォ


もう間に合わない!


「皆んなあ!伏せろお!」


ボクがそう叫ぶと、広場にいる人は一斉にしゃがみ込んで頭を抱える。

スファレライトもしゃがんでる。

精霊達は何かを考える自我はないからか、上すら見ていない。


氷と炎の塊が落ちる。

スファレライトが操作していた精霊の居た辺り、つまりボクの目の前に直撃する。

人よりも数倍大きく、真っ赤な塊はその辺の精霊を巻き込んで、地面に大きな穴を開ける。

穴は半分は凍りつき、もう半分は熱で溶けて真っ赤になっている。

周りにいた精霊も溶けているのと凍っているのが半々になっている。


熱っ!寒っ!


こんな近くに落ちたのに、辺りには被害が出ていない。

いや、石畳みの道路は大穴が空いて被害っちゃあ被害は出てるけど、すぐ隣に居た精霊は全くの無傷でボーッと突っ立っていた。


スファレライトも居なくなったことだし、これで氷の辺りからこの包囲を抜け出せるかな。


「マ、マテ!リーンハルト!オ前ズルいぞ!こんな必ず当たるの逃げられないじゃないか!」


ありゃ?他の精霊でスファレライトが話し始めた。

そうか、遠隔操作だから、どれでも良いのか。


「せっかく集めた、オレの精霊たん達を、壊されてたまるか!もうアレは使わせないゾ!その前に倒す!」


ゴオォォォォォ


あ、一発だけじゃないんだ。


「ぬああああ!精霊たーん!」


最初の一発目は目標に狙いが正しく当たるかの試射だったらしく、その後は何十発という氷と火の玉のセットが精霊の上に降り注いだ。

精霊達は豪快に吹き飛んだり、溶かされたり、凍らされていたけど、ボク達の居る辺りや周りの家には一切被害はなく、的確に敵だけを破壊していった。


一つ残らず、精霊の抜け殻を破壊し尽くすと、氷と火の玉の雨は止んだ。


スファレライトも動く精霊が無くなったので何処からも話せなくなった。

ようやくあの声を聞かなくて済むようだ。


、、、、まあ、後の問題は、この地面の穴をどうやって治すかだな。

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