第九十三話 不完全復活
「こちらの天使様の事を、私の娘の婚約者としてお呼びしているようですが、これは如何なることか」
レリアのお父様が疑問に思うのもおかしくない。
保護してきたと思っていた天使様の事を娘の婚約者の名前で呼ぶんだもんな。
「むう。説明が面倒だ。そういうものだと思っておけば良い」
「国王………。それで納得してもらえる筈ないですよ。公爵、その事については、わたくしからご説明差し上げます」
クラウゼンさんはいつもホント大変だよね。
まあ、今回は僕も迷惑かけちゃってる側だから、申し訳ないんだけど。
「、、、と、こういう訳でして、こちらのお方はフォルトナーさんでもあるのです」
「ふうむ。では、我が娘はこちらの天使様と結婚する事になるのだろうか」
「それは、、、、フォルトナーさんどうなるのでしょうか?」
「ええっ?そうですね。予定では元の体に戻れる筈ですが、、、。結婚の話となりますと、、、その、、、こ、国王?婚約が無しになるとか何とか言ってませんでしたっけ?」
「おうん?そうだったか?」
うわっ。ニヤニヤして嫌な顔してるよ。
今ふざけたら洒落にならなくなるんだから。
「国王、そこはふざけないでください。その話ですね。フォルトナーさん、アウグステンブルク公。ヴァレーリアさんとの婚約ですが、少し遅らせて頂く事になります」
「何を言って、、、。リーンハルトくん!君はヴァレーリアとの結婚を嫌がっていると言うのかね!」
「あ、いえ、決して、、、そういう訳では、、、その」
怖いよ。
マナ全開にして睨まないでよ。
レリアも寂しそうな上目遣いでこっち見ないでって。
「公。フォルトナーさんのせいではないのです。実は国王がフォルトナーさんの事を」
「陛下!陛下!」
「む?なんだ?今良いところなのに」
国王はこの話に対する態度がおかしいよ。
完全に観戦モードになってるじゃないか。
国王に声を掛けたのは魔導師のお姉さんだった。
「大変です。神の啓示が!天啓が降りてきます!」
「何!10日の天啓デーはもう過ぎたぞ!祭日と重なった三倍デーでも無いのに、何故こんな時に!」
やっぱり特売日の話にしか聞こえない。
三倍デーとか何?いつもより天啓の量が三倍貰えるの?
「あ!降りてきました!羊皮紙!羊皮紙!あとペン!えっと、、、えっ?!そ、そんな!くっ!この世の終わりが!」
「なんだ!おい!何があった!早くここに天啓を書くんだ!」
「は、はい、、、。皆さまお気を確かに。ああ!私はこれを絶望の天啓と名付けたいと思います………」
そんな大変な啓示が降りてきたのか。
皆んなが固唾を呑んで見守る中、魔導師のお姉さんは羊皮紙にガリガリと苦悩しながら書き込んでいく。
「か、書けました、、、。ううっ。さようなら、私の天使ちゃん、、、」
「え?」
「え?」
「え?」
え?
最後のはどういう、、、。
「見せてみろ。何々、、、。うーむ。つまり、、、、。リーンハルトの体が治ったから、今から入れ替えると言う話に見えるのだが、、、」
「こ、国王。わたしにも!、、、、そ、そうですね。おっしゃる通り、フォルトナーさんの元の体をここに現出させて、中身を入れ替えると言う内容で間違いないかと」
ああ、治ったんだ、僕の体。
カル!ありがとう!
と言うことは、今の天啓はカルからなのかな?
「待て!それなら、さっきのこの世の終わりとか絶望とか、あれは何だったのだ?!」
「およよよ。超絶美少女天使ちゃんが居なくなってしまう。私にはただ愛でるだけと言うのも赦されないのか!おお!神よ!何故このような試練を与えたもうたのか!!」
「ああ、そう言えば可愛い女の子が大好きなんでしたね。フォルトナーさんの今のお姿は、正に嗜好ど真ん中なのでしょう」
「それが居なくなる天啓だったから、絶望なのか、、、。紛らわしい奴だ」
うあ。
あの馬車での視線はそう言う事だったのか、、、。
何かねちっこいなとは思ったのは気のせいではなかったか。
「陛下ぁ!陛下なら分かっていただけると思っていましたのにぃ!こんな!こんな可愛らしさ満点の笑顔をもう撫で回すように見る事が出来なくなるのですよう!」
「う、うむ。そ、それは残念だったな。リ、リーンハルト!お前、ちょっとコイツに頭でも撫でさせてやれ!」
「え?あ、はい。ど、どうぞ」
「い、良いのですか、、、。で、では遠慮なく、、、」
何これ。
何故か国王とかノインの冠に見守られながら王宮魔導師にナデナデされる。
天啓は放っていていいの?
「もう悔いは無いです!!いつ死んでも構いません!いっそ、天使ちゃんと共に天に召されましょうぞ!」
「待つんだ!お前に死なれては困る!リーンハルト!何とかならんのか!」
「ええええ、、、、。そう言われてもなあ」
そんなどうでも良い話をしている間に、僕の元の体が床に寝かされた状態で現れ始めた。
やっぱり、半透明から始まり段々と色が濃くなっていく。
あれ?力が抜けていく、、、。
倒れそうになる所を魔導師のお姉さんが後ろから抱きかかえて寝かせてくれる。
(抱きついちゃった、、、柔らかい、、、良い匂い、、、デュフフフ)
耳元で聞こえてくるのは呪いの呪文なのか。
体の力がどんどん抜けていくから余計にそう思えてくる。
「これは、このままでいいのか?」
「はい、、、。天啓によりますと、この場でフォルトナーさんの体に中身を移し替えてしまうそうです」
「そんな荷物の移し替えみたいにできるのか」
ああ、もう体が全く動かせ無くなった。
まるで死んでしまうみたいだ。
お?
機種変更
機種変更を実施します。
実行中はマナ源を切らないでください。
事前にバックアップをお取りする事をお勧めします。
何かウィンドウが表示されたな。
これから始まるのかな?
「始まったようですね」
「うむ。マナが移っていくのが見えるな」
そうなんだ。
やっぱり、国王とかノインくらいになると、そう言うのがハッキリと見えるようになってくるんだな。
機種変更
機種変更中 …… 99%
処理が完了するまで、しばらくお待ちください
ああ、また99%で止まるやつか。
ここからが長いんだよな。
あ!
目の前が真っ暗になった。
いや、これ目をつぶっているんだ。
目を開けるとさっきとみんなの位置が違っている。
多分、これって、リーンハルトの体に戻ってきたんだ。
ようやく戻ってこれたよ。
でもまだ表示は99%のままだな。
体も動かせないし、もう少しこのままかな。
エラー:外部記憶域が不足しています。
エラー:移行先機種での記憶域復元に失敗しました。
情報:マナ移行が完了しました。
警告:記憶域が不完全な為、セーフモードで再起動します。
何だろうこれ。
むー。意識が、、、遠のく、、、。
ううっ。
頭が痛い。
ボーっとするし、体もあちこちが痛い。
目を開けると、知らない部屋、知らない人がたくさんいて、ボクの事を見ている。
外国人かな?
顔の彫りが深い。
何か話し掛けてきているけど、聞き取れないから外国語だと思う。
ボクは寝かされていた。
どこかで倒れたりして、ここに担ぎ込まれたのだと思う。
体は痛いけど、動くようだ。
体を起こすと、一人の女性が後ろを支えてくれる。
女性、というより少女と言った方が良さそうだ。
とても可愛らしくて、でも、一つ一つの動作には力強さが感じられて無駄がない。
この子が話し掛けてくるけど、やはり、言葉はわからない。
「あの。ここはどこですか?」
言葉が違うから伝わらないかも知れないけど、女の子に話してみる。
案の定、驚かれた。
でも、その後の応対は予想とは違った。
「アシエ語?私、習った。少し、話せる」
ああ、ボクと同じ言葉で話してくれた。
アシエ語って単語は知らないけど、話が通じそうだと思うと、少しこれでホッとする。
「ここはどこですか?ボクはどうしてここにいるのでしょうか?」
「リン、、、、どうしたの?私、わからない?」
「リン?それはボクの事を言ってるのですか?」
あれれ?ボクの名前?
なんだったかわからない。
リンがボクの名前なのだろうか。
女の子が周りの大人達に何かを話している。
言葉が違うと、こうまで意思疎通が難しいのか。
「リン。あなた、名前、わかる?」
「いえ。わかりません。ボクはリンと言うのですか?あなたはボクを知っているのですか?」
また、大人達と話し込む。
ボクは自分の名前が分からない。
これはおかしい。
名前はあるはずなのに、名前が思い出せない。
この子もボクを知っているようだけど、顔も見覚えがない。
「リン。あなた。記憶。無い」
「そう、、、みたいですね。そんな気がしてました」
「ふう。私。レリア。名前」
「ああ、あなたの名前ですね。レリアさん」
名前を呼ぶと顔をしかめて、嫌がられた。
呼んで欲しくは、なかったのかも知れない。
馴れ馴れしいと思われた可能性もある。
「レリアと呼んで」
「はい。呼んで良かったんですね。では、レリアさん」
今度はムゥとふくれっ面になる。
何がいけなかったのだろう。
「本当に私、覚えていない?」
「すみません、レリアさん。自分が誰なのかもわからないみたいです」
「そう」
とても悲しそうな顔。
ボクがさせてしまったのなら、申し訳ない。
でも、ボクも不安で仕方ない。
自分が何者なのか、自分自身がまったくわからない。
本当にボクというのは存在してたのか。
彼女がボクを知っている、というのが、唯一の心の安心する所だ。
「レリアさん。あなたはボクとどういう関係なのですか?」
何故かこの質問にレリアさんは顔を真っ赤にする。
恥ずかしい質問だったようだ。
やめればよかった。
「ごめんなさい。今の質問は無しで構いません。ここはどこなのですか?」
「ここは、王の家、王の部屋」
「王?王様、、、。シュタール王ですか?」
「え?いいえ。フォルクヴァルツ王、の事」
フォル、、、聞いたことがない。
ボクの名前もわからないのに、シュタール王という単語は抵抗もなく思い出せた。
もう一人の女性が慌てたようにレリアさんに話し掛けている。
レリアさんは少し悩んでボクに聞いてくる。
「リン。生き物。収納。スキル。ある?」
「生き物を収納するスキル、ですか。すみません。わかりません」
「ステータスウィンドウは?」
「そうでした。見てみます。ステータスウィンドウ。おかしいですね。ウィンドウが開かないです」
また、女性が何か興奮した様子で話し始める。
焦っているみたいで、何か良くないことが起きているのかも知れない。
「リン。今、天啓。聞いた。インベントリ。この子を触って。使う」
「え?はい。この女の子を?インベントリ」
シャリーンと音がして、横たわっていた女の子が消えてしまう。
ウィンドウが開き、そこには今の女の子がアリアと書かれて表示されていた。
「次。長押し。ストレージに移す」
「このアリアというのを長く押すのですね。ストレージに移す、、、ありました。これを押して、、、ストレージに移動できたみたいです」
人が消えてウィンドウに入ってしまった。
何かとてつもない事してしまったように思える。
現に周りの大人達は今のやり取りを見て大騒ぎをしていた。
この人達は誰なんだろう。
何かボクがやる度にこの大人達は大騒ぎで話し合いをする。一番偉そうに見える人がすごく興奮していて、それを人の良さそうなほっそりした男性が、なだめているように見える。
何かの演劇を見て入れようで、言葉の意味は分からなくても、眺めていて面白い。
「ふふふっ」
「リン?なぜ。笑う?」
「ごめんなさい。何故かこの光景が楽しくて。そちらの方々は?」
「この人。フォルクヴァルツ王。こっち。宰相。あちらが。私の父」
「え?王様。そして、レリアさんのお父さん」
何だろうか。
何かとてつもない場所に来ているような気がする。
王様より後ろに控えているレリアさんのお父さんの方が、凄くボクにとって危険な存在に思えてならない。
「レリアさんのお父様。は、初めまして。よ、よろしくお願いします」
「リ、リン!?急に。どうしたの?!」
何か言わないといけない気がした。
さっき以上に真っ赤になったレリアさんがボクとお父さんの間に入って、遮っていた。
レリアさんのお父さんは何か言ってくれたけど、やはり言葉は分からない。
さっき、レリアさんに宰相さんだと教えてもらった人がポンと手を打って、オホンと言ってから話し始める。
「ああ、ああ、フォルトナーさん。この言葉はわかりますか?理解できるなら、同じ言葉で返して貰えますか?」
「あ、ああ、分かります。公共言語ですね。良かった。これなら慣れた言葉ですので、話しやすいです」
「おお、これは、良かった。ですが、公共言語、、、ですか。今は共通言語と名を改めたのですよ」
「そうでしたか。いつの間に」
知らない間にそんな変更が。
「何だ!共通言語なら話せるのか!早く言え!リーンハルト!まったく、心配させるのではない!」
「え?ご、ごめんなさい。王様」
「あ、いや、怒っている訳ではないのだ。ただ、ちょっとだけ、心配したから、な。リーンハルトは悪くない。悪くないぞ?」
「は、はあ」
王様も公共、、、共通言語が話せるようで、安心したらしい。
「リーンハルトくん。私からも話させて貰うよ。どうやら君は記憶が無いようだが、我が娘との結婚も忘れてしまったのだろうか?」
「公!今はそんな話をしている場合ではなかろう!それに婚約は無しにするとも言っただろう!」
「いえ。陛下!遅らせるとは聞きましたが、無かったことにするとは聞いておりませぬ!」
「王族、貴族の中で予定を遅らせろというのは、結果無しにするという不文律があるだろう!」
「そのような、物はありませぬ!」
何だろう。
ボクがレリアさんと婚約?王様がそれを無かったことにしようとしている?
ボクはここで何をしでかしたんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます