第八十九話 フードの少女

「で。天使でもなんでもないリンが女装して、いろんな人を騙していた、と」

「人聞きが悪いな!半分くらいはかすってるから、強く否定出来ないけども!」

「その上私に、アリア様と呼ばせて、あらゆるお世話をさせようとしてた、と」

「それは冤罪だと思うんだけども!」


レリアとの会話は気を付けないと、気が付いたら逃げ場が無くなっている場合があるから怖い。


「それで、なんでリンは女装するようになったの?」

「女装じゃないって………。成り行きでこの体になっちゃったんだよ」

「成り行きで天使になれるものなの?」

「う。なんて言うか、最初はノルド軍と闘っていたんだよ。勇者とか魔王とかとね」

「ちょっと待って。なんで、急に伝説の登場人物と共闘してるの?それも勇者と魔王って敵同士なのに?!」

「まあ、新たな敵が出てくれば、昨日の敵が今日のなんたらって言うからそれじゃない?」


実際には一度も敵にはならなかったけどね。


「それでさ、このアリアが急に現れて、僕が刺されて殺されちゃったんだ」

「待ちなさい!アリア様が現れてリンを刺し殺しちゃったってどう言うことよ!」

「まあ………実際に起きた事だからなあ。そうとしか言えないよ」

「むう、納得いかないけど、、、、それで?」


何々?そんなに気になるところかな。


「その後、魔王がアマガエルでアリアを殺したんだ。そしたら、僕が生き返る為には、この体を乗っ取らないといけないみたいだったから、女神が僕をアリアにしたんだけどさ、そしたら、天使になってたんだよ」

「リンは私を馬鹿にしてるの!?ふざけてるの?!言ってる意味が一つも理解出来ないんだけど!」

「何言ってるのさ!真剣に話してるよ!まあ、、、こう並べ立てると、多少、変わった事も起きてるみたいだけど、まあよくある事でしょ」

「ある訳ないでしょー!!」


えー。そうかなー。


「と、とにかく、なんだかんだあって、このアリアの体でしばらく過ごす事になったんだ」

「その、なんだかんだが一番気になる部分なんだけど、もうそこは理解するのは諦めたわ。それより、大事なのは、リンは元の体に戻れるのかって事よ!私、フィアンセが同性なのは、あまり嬉しくないの」


そうだね。同感だよ。僕も恋人が急に男になったら嫌だ。


「それは、カルが、、、多分クロはお金がないから、カルが僕の体を修復してくれているはずなんだ」

「クロって、あの馬鹿女神様の事?カルっていうのは?」

「馬鹿女神様って、、、。あってるけども。カルは女神カルサイトの事だよ。クロの友達、、、かどうかは分からないけど、僕の事が好き過ぎて色々してくれる女神だね」


ピクッ


ん?レリア?どうした?


「天使様を攻略したんじゃなくて、女神様を攻略済みだったのね、、、。ふーん。流石リンだわ。この世の頂点まで、手中に収めていれば、私との婚約なんて霞んでしまうわよね」

「ちょっ、そういう事じゃないんだよ。大体、婚約だってレリアが勝手に進めちゃってるんじゃないかよ!」

「私の事、嫌い?」

「う。そういうのズルイと思います」

「好き?」

「うぐぐ。あ!そうだよ!何か国王がこの婚約は無かったことにするって、この間言ってたから、無しになるんじゃないかな」


そうそう。国王の方も何か企んでそうで、とっても嫌な予感しかしないんだけど、まずはこの婚約を何とかするのが先決だ。


「OK。国王を始末すればいいわけね。ちょっと、行ってくるわね」

「わあああ!何言ってるの!?国王だよ?この国のトップだよ?なんだか今のレリアなら、やれそうな気もするけど、そしたら、婚約どころじゃなくなるからね?!」

「はっ!そう言われればそうね。むむ。なら、誰にも気付かれずに、、、誰か暗殺スキル持っている知り合いいないかしら、、、」

「国王抹殺から離れて!!あの国王が焦っていたんだから何かあるんだよ。だから、婚約の件はしばらく待ってくれないかな?」

「何故国王様が、普通の国民でしかないリンの婚約を止めようとするの?というか、リンと国王様って友達か何かなの?それともデキてるの?」

「やめてよ!!最近そういう話が多いんだから!それにあの国王となんて、冗談でもヤメて!」


ああもう!クリスと近づくだけで、クラスの女子がきゃあきゃあ言ってたし、女子っていうのはそんなに男子同士がいいのかね。


「国王とはちょっと言い合いが出来るだけだよ。何か僕を利用しようと企んでるっぽいんだけどね」

「国のトップと言い合いができるって、実質、国の頂点の地位にいるんですけど、、、。バッケスホーフ王宮騎士殿より発言力あるわよ?」

「そうなの?」




副隊長さんには断りを入れてから、レリアと2人で町の巡回に来た。

まあ、やる事が無くて暇なのである。


町のお菓子屋さんでシュネーバルを買って、2人で歩きながら食べている。

シュネーバルはまん丸でサクサクした揚げ菓子だ。

チョコでコーティングされていたり、ナッツやイチゴ味など様々な味付けがある。


このお店のはかなり大きめで、僕の拳を握ったより大きい。

僕の手が小さいってのもあるけど。


「甘くておいしい」

「あ、リン、ほら、口に付いてるわよ」

「じ、自分で拭けるからだいみょむまむ、、、ああ、もう、大丈夫だから!」


僕の正体を明かしてからはレリアは2人きりの時は、敬語無しはもちろん、呼び方ももリンになった。

流石に他に人がいる時は今まで通り、アリア様呼びになるけど。


こうやって、町を食べ歩きしていると、なんだかデートしてるみたいな感じがしなくもない。

ただし、ガラスに映った姿を見ると、仲のいい女の子同士が町に遊びに来たってだけ、にしか見えない。

いや、いいんだよ?それで。

フィアンセとかは無かった事になるはずだし?

今は女子だし?


町に出てきたのには、もう一つ理由がある。

セラフの第六の翼をもう少し試したかったからだ。

レリアや副隊長さんとかで試すのは、なんだか悪い気がしたから、町の中の誰かでなんとか試せないだろうかと、思っている。

でも、善良な市民のステータスを覗いたりいじるったりするのも、気がひけるんだよなあ。


悪い人だったりしたら、気兼ねなく使えるんだけどなあ。

あとは体調が悪い人とか、、、。あ、でも、それって、回復魔法でも治っちゃうのかな。


「いらっしゃい、いらっしゃい。お嬢ちゃん達、これ食べてって!おいしいよ。ほら試食してきな!」

「むう。おいしい。………ねぇ、おじさん。何か体の事で困った事ってない?」

「何だあ?いきなりどうした?」

「何でもいいんだ。ちょっと不調だなあ、とか、無い?」

「お、おう。そうだな、最近は腰が痛くてな。重い物が持てないんだよ」

「ほうほう。うん、それ私が治してあげるよ!」

「え?そうかい?そいつは嬉しいね。どうやるんだい?」


ようし、腰痛がバッドステータスになってたらそれを消しちゃえばいいんだ。

何となく回復魔法でも治りそうだけど、まあ、試しだから、試し。


「やってみるね。セラフのつぶぁ、、、、」


あれ?待てよ。これ試すのに天使の翼をばさばさ出さないといけないんじゃないの?

そんなの出したらまた大騒ぎになっちゃわない?

それはまずいし、このおじさんだって、変に恐縮しちゃいそう。


「おうん?どした?」

「あは、あははは、あのその。ごめんなさい!やっぱダメでした!」

「何だい、何だい。ぬか喜びかよ〜。まあ、そんなもんだと思ってたけどな。気にすんな、気にすんな!」


ああああ、喜ばせた分悪い事しちゃった。

まずは、先にこの翼を何とかしないといけなかったよ。

認識阻害スキルとかあったら、翼だけ分からなくするとか出来たのにな。

無いものは仕方ない。

ちょっと調べてみるか。


「ステータスウィンドウ」


ふっふっふっ。すぐにステータスを見てみようって考えられるようになったあたり、僕はもう、窓のエキスパートだね!


「ねぇ、さっきの会話は何だったの?」

「ん?ああ、ちょっとね。試したい事があってさ。さっきのは試す順番を間違えちゃったんだ」

「そう。で、今度はステータスを出してるの?」

「うん。そだよ」

「でも、リン。歩きステータスは危ないわよ?あ、ねえ、前!」


ドン


うわっ、ステータスウィンドウの向こうから急に人が出てきてぶつかってしまった。


「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「む。問題ない。だがマナーは守るように」

「は、はい、すみませんでし、、、、あれ?キミって」


ぶつかった子を見ると、フードを被ってる。

あの馬車で一緒だったエルツの子じゃない?


「ねぇ。キミ、エル、、、馬車で同じだった子だよね!ほら、僕、覚えてない?あ!あの時、騎士団の人に通報してくれたでしょ?すごく助かったよ!ありがとう!」

「むむ。騒ぐでない!注目を浴びてしまう!我はそのような者ではい、さらばだ!」

「うわ、ちょっと待ってよう!せめて、名前だけでも教えてよう!」

「ディーだ。では」


行ってしまった。

ディーちゃんか。

んん?何か聞き覚えがあるような、ないような。


「ちょっと。リン?フィアンセが隣にいるのに、ナンパするとは、いい度胸をしているわよね?」

「え、、、。ちょい待ち。ナンパって言葉の意味は分からないけど、今のは知り合いだからね?不特定多数の女子に声を掛けて仲良くなろうとかじゃないからね?」

「きっちり意味わかってるじゃないの!だいたい知り合いなら何で、今、名前聞いたのよ!」

「それは、ほら、、、名前知らないと呼びづらいじゃない?」

「それが答えになっているとでも?」


怖い。怖いよ、レリア。



僕は馬鹿ではない。ちゃんと学習できるのである。

広場のベンチに座って、ステータスウィンドウを調べる事にする。

横にはレリアも座っている。

暇してない?と思ったけど、顔を見ると意外と機嫌が良さそうだ。

さっきまでのギベオンベアー並みの形相が嘘のようだ。

まあ、いいか、今のうちにだな。



魔法 [鍵]

一部ロックされています

常時解放 セラフの翼 格納中 [開く]



ステータスの魔法欄は今はこうなっている。

開く、と書いてある所は、今、押したらダメなのは分かるけど、他の所はぱしぱし押しても何も変わらない。

むー。

何か設定とか出来れば良かったんだけどなあ。


「何をしてるの?」

「うん。これがね。あ、天使の翼をね。ばさあって出さずに何とか魔法だけ出せないかなって」

「そんな事してたの?設定とかないの?」

「そうなんだよ。開いたり閉じたりは選べるんだけどさ」

「長押しはした?大抵の設定は長押ししてだすのよ?」


ああ!そうか、長めに押すっていうのがあったか!

チャットで声を出さずに入力するのもそうだったな。

まったく、何が「窓のエキスパートだね!」だよ!

声に出してなくて良かったよ………。


セラフの翼の部分を長めに押してみる。

すると、出た出た。



詳細設定…

情報を見る…

共有する…

ロックする



という小さなウィンドウが出てきた。

詳細設定を押してみると、セラフの翼の設定が出来るウィンドウが出てきた。



セラフの翼 詳細設定


有効範囲 |====◉==============| 1ハロン

翼ユニットの表示 ◉常に表示する ◯常に表示しない

翼の形式

◉フォルクヴァルツィアンP

◯マルブランシュールP

◯ノルデニックB

◯世界標準N

◯世界標準U

翼の色 〔#FFFFFF〕

翼のサイズ |======◉======| 12pt


[O K] [キャンセル]




何これ。

翼の大きさとか色も変えられるんだ。

ピンクの翼とか嫌だな。

でも、非表示には出来るみたいだ。

「常に表示しない」を選んで「OK」を押す。



『セラフの翼の設定が保存されました』


よし。これで、試してみるか。

これでも翼が出てきたら、すぐにしまって逃げないといけない。


「セ、セラフの翼……」


おお?何も出ないぞ?

その代わりに



『セラフの翼 展開中』



という小さなウィンドウが端に表示されていた。


「第六の翼」


『セラフの第六の翼を行使します。エラー。対象が多過ぎます』


ああ、この広場の人達皆んなを対象候補にしちゃってるのか。

有効範囲を1/4ハロンにまで下げてもう一度試してみる。

今度は近くにいる人の名前が10人くらい出てくる。

一番近いレリアは当然一番上に表示されている。

あ、僕自身は書き換え出来ないのか、一覧には名前はなかった。


この中から、適当に選んで試して見ちゃおうかな。

ええっと、ん?

下の方にある名前の一つが目に付く。

なにせ他の人と違って、家名が2つあるから名前が長い。


ディアマント=ツィン=ヘルグリューン


これ、エルツ族の王女の名前だよね。

あ、あのフードのディーちゃんって、この王女か。

フィーちゃんディーちゃんのディア王女だよ。

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