第三十四話 魔法試験

どうする?どうする?

ステータスウィンドウを使う試験なんて、資料には書いてなかったぞ!

くそ、基礎中の基礎スキルだから当たり前に使える前提なのか。


魔法行使試験の試験官をする女性教師が続きを話す。


「この人の形をした物はダミー君といって、大抵の魔法やスキルに耐え抜くことが出来るように作られています。このダミー君目掛けて、何でもいいので魔法やスキルを当ててください。ただし、無詠唱で行います」


ざわざわ


みんながざわつくのも分かる。

魔法なら呪文の詠唱したりスキルならスキル名を声に出さないと発動しない。

呪文の詠唱は「呪文圧縮」スキルを常駐させておくことで長たらしい呪文は省いて、魔法名だけでも発動出来るけど、全くの無詠唱というのはスキルでもないはずだ。


「みんな意外と知られていないんだけど、ステータスウィンドウが何故一番重要なスキルなのか、というのをちゃんと理解している人が少ないのよね」


教師がさっと手を振るとウィンドウが現れるのが見える。

お、他人にも見えるように出来るんだ。


「ステータスウィンドウは単に自分のステータスを確認するだけじゃないの。スキル名からそういう固定観念で見てしまうのかもしれないわね。自分が持っている魔法やスキルの名前の所をこうやって指で押したままにすると………。ほら、こうやって小さな窓が出て来るでしょう?みんな知ってた?」


誰もこの事は知らなかったようで、早速みんな試してみていた。

僕は知っていたかというと、窓が無いんだから知ってるわけない。当たり前だ。

ちぇっ。いいな。


「その小さな窓に『発動する』というのがあるでしょう?それを押すだけで詠唱も名前のコールも無しに発動できるわ。あ、まだここでは発動しないでよ。試験なんだから。みんなこれなら出来るはずだから、いきなり試験本番よ!」

「「「ええー」」」


まずいまずい。無詠唱で魔法発動なんて出来ないぞ。

何か無いか!何か!


「むえいしょう」


「むえいしょう」 検索結果 0件


みつかりませんでした



「えいしょうはき」


「えいしょうはき」 検索結果 0件


みつかりませんでした



ダメか!

時間差で発動とか出来ないか?



「よやく」


「よやく」 検索結果 2件


魔法予約発動 SLv1

スキル予約発動 SLv1



これだあ!

2つともすぐに作成開始する!

ビルドタイムは、えっと、5分!

時間稼ぎだ!列の後ろに並び直して出来るだけ遅らせる。


「あ、どうも。どうしたんですか?わざわざ後ろに回ってきて」


こんな時に限って筆記試験の時のあの子がなんで一番後ろにいるのさ!

まあ、いい。窓無しがバレなければ問題ないんだ。


「窓って人に見せる事が出来たんですね。私知らなかったです。知ってました?」

「うん。あ、いや、知らなかったよ」

「あんな風に無詠唱で出来るのも知りませんでしたよ。何の魔法を使います?」

「うん。ああ、知らなかったよ」

「あの?魔法、何にします?」

「知らない!僕は何も知らない!」


ダメだ、みんなこの試験は簡単らしくどんどん列が捌けていく。

まだ出来ないか!ってまだ23%か!

は・や・く!は・や・く!


もう何もやれる事は無いのか!

何も出来ないのはもどかしい。


「あの〜、大丈夫ですか?」

「大丈夫!大丈夫!あと半分!いける!僕は出来る!」

「へ?半分?何を……??」


がああっ!!何みんなサクサクやってるのさ!

もっと、ゆっくりたっぷり楽しんでやってよ!

もう、あと数人だ。スキル作成は?まだ85%!?


「ねえ!キミ!お願いがあるんだけど!」

「ふえ?お願いですか?あ!は、はい!ペンとインクを貸してくれたご恩がありますから、何でもやります!何でも来い!です!」

「ありがとう!そしたら、僕より先にあの試験を受けて、失敗しまくって欲しい!」

「ええー?!失敗、ですか?わ、分かりました!私見事に失敗しまくります!」

「僕が合図するまでお願い!」


ふう。これで時間が稼げるか。

ああ、もうこの子の番か。


「ウルリーカ・クルル!始めます!」


そんな名前だったのか。

まあ、覚えられる筈が無いから、もう忘れる事にする。

無駄な事はしない主義だ。


「ああー、し、しっぱいしたー。どどどうしよー」


演技下手過ぎか!

あ、いや、僕の頼みを聞いてくれるんだから、感謝しないとか。

あとちょっとだから、頑張って失敗してくれ!


「クルルさん!ちゃんと真面目にやりなさい!失格にしますよ?」

「え?それは困ります!やります!ちゃんとやります!」


ダメか。これ以上はやらせられないか。

こっちを見ているあの子に頷き、もういいよと伝える。


「う、上手く行きました!ど、どうです?」

「はいはい、分かりましたよ。最初からそうすればいいのですよ?はい、次!最後ね」


も、もうダメか。作成はどっちもまだ95%だ。


「あ、あの!もう一度見てもらえませんか!次はもっと上手く出来ると思うんです!」

「何を言ってるの?あなたは。クルルさんはもう十分ですから次の試験に行きなさい」

「いえ!さっきのはまだ本気じゃ無いんです!もっといけるんです!私!」

「ステータスウィンドウの操作に本気も何もないじゃないの。今のは基準をクリアしていたから安心なさい。ほら、次に行く事!」

「あ、あの、は、はい、わかり、ました」


おお!クルクルさん、時間稼ぎしてくれた!

ありがとう!ありがとう!今のでスキル作れたよ!


(魔法予約発動。10秒後。エイスの氷槍)


これで予約できた筈!


「あ、あの、試験開始してもいいですか?」

「あら、ごめんなさいね。いいわよ」


クルクルさんにはウィンクをして感謝を示す。

あれ?何で伝わっていない顔してるんだよ。

バチバチウィンクしてみるけど、彼女の頭の上に?がたくさん出ているように見える。

まあ、いいや、後でお礼を言っておこう。


指を動かして窓を触っている振りをする。

予約したタイミングに合わせて、3、2、1。今!

あたかもステータスウィンドウに触れたかのように見せかけると、丁度良く氷の針がダミー君に突き刺さる。


「はい。良くできました。あら、氷槍の数も大きさも大人顔負けね。流石飛び級ね」


良かった〜!間に合ったよ〜!

ただ魔法を出すだけかと思ってたから油断していた。




次の試験の列に並ぶ。

もう、ステータスウィンドウは使わないだろうけど、安心してはいけない。

何をする試験なのか良く見極めて、早めに対策しないとだ!


「あ、どうでした?私役に立ちましたか?」

「おお、クルクルさん!助かったよ!最後の粘りとかもう感動しちゃった」

「ど、ども。あの。それで、クルクルさんとは?」

「え?いや、ほら、えっとクルルーカさん?」

「はあ。あの、私はウルリーカ・クルルです。12歳です。あ、一緒に試験受けてるから同い年でしたね。よろしくお願いします」

「ウルリーカさんね、ウルリーカ。ウル、リーカ。よし!覚えた?どうだろう?一応恩人だし流石に覚えないとな!」

「はあ」


しまった!声に出てた!


「そうだ、まだ名乗ってなかったね。僕はリーンハルト・フォルトナー。10歳だよ。よろしくね!」

「10歳?なんですか。はあ、飛び級ってそういう事なんですね」


ウルリーカさんと話しているうちに次の試験の順になってしまった。

ダメじゃん。どういう試験か先に調べて準備しておかないといけなかったのに!


「リーンハルトくん。次も時間稼ぎ、必要ですか?」

「ううん、さっきはギリギリのことをさせちゃってゴメンね。もう大丈夫だよ」

「そう、ですか?何かあったらなんでも言ってくださいね!命の恩人なのですから!あなたのためなら、私!なんでもしますから!!」


そんな発言を大声で叫ばないで。

ほら、みんなこっちみてるじゃないか。


次の試験は普通に魔法かスキルをダミー君に当てるだけみたいだ。

攻撃でも回復でも得意なものなら何でもいいだなんて、これはもういけたでしょう!


「ブリクスムの雷鳴!!」


バリバリバリバリ


前の方で雷魔法を使っている人がいた。

おお、あんな雷でもダミー君平気な顔してるよ。

顔は何やっても変わんないか。


「ふん。こんなものか。そんなおもちゃ壊せると思ったのだけどな」


何あれ。カッコ付けてるヤツだな。

周りの女子もヒソヒソ話してるけど、「きゃあ、カッコいい」とか「さすがよね」とか言って注目の的になっている。


「クラウディウス・ツェーリンゲンくん。素晴らしい!この歳ですでに雷魔法が使えるのか!お父上殿の才能をうまく受け継いでいるようだな!」

「やめてください、先生。父はノインの冠ですが、俺はまだまだですよ。こんな事で喜んでいたら、笑われてしまいます」


かーっ!テオ隊長とはちょっと違うけど、言い回しとか、話す時にいちいちフッて笑う所とか、なんかイラッとする!


これは僕も同じ雷魔法を使って、お前だけじゃないんだぞって思い知らせるか。

それとも、爆裂魔法でダミー君を消し炭にしてみようか。

ちょっとそれはダミー君がかわいそうか。

いかんいかん、あいつに対抗しようとして我を忘れていた。

ここであまり目立つのも良くないな。


「次!フォルトナーくん!」

「は、はい」


ここは実力を隠して下手に注目されないようにしよう。

さっきも全くマナを込めずに予約したらあのくらいだったから同じくらいでいいかな。

さっきは氷槍を使ったから別のにしよう。

水塊はびしょ濡れになるから嫌だな。


「エーヴンナールの火」


初めて使う魔法だ。みんなもこれを使ってたからこれでいいや。

真っ赤な頭の大きさくらいある火の玉がダミー君目掛けて飛んでいく。


ジュッ!!


なにっ!!

火の玉が当たった所がそのまま丸い形に蒸発してしまった。

ダミー君!!


しまった!初めて使うからちょっと楽しみになってマナが入り過ぎたか!


「あら、古いダミー君だったから、もう寿命だったのかしらねぇ。限界が来ると良くこうやって自滅するから大丈夫よ。ほらこっちのダミー君でもう一度やってごらんなさい」


ごめん、ダミー君。

君の犠牲は無駄にしないよ!

今度こそきっちりやってやる!

興奮せず全くマナを込めずにそうっと、そうっとね。


「エ、エーヴンナールの、ひ」


どうだ?!

新し目のダミー君にちっちゃい火の玉がほよほよと飛んで、鳩尾辺りに当たると、ぽふっと音がして消える。

くっ、今度は少な過ぎたか!加減が難しい!


「だ、大丈夫よ!魔法は使えさえすれば試験は通るからね。まだまだこれから上手に使えるようになるから頑張るのよ」


物凄く魔法下手と思われてしまった。

試験は通るみたいだからいいけど、何だか納得いかないぞ。


「リーンハルト君!ナイスファイトです!ドンマイです!諦めなければいつか未来はやって来ます!」

「う、うん。ありがと」


クルクルさんに励まされたけど、あんまり嬉しくないや。


魔法試験はこれで終わりだ。

何とかなるのか?

やり過ぎたり、足りなかったり、イマイチよく分からない。

やっぱり滑り止めに剣術学科も受けてこよう。


あの奥の方に人が集まっているあたりかな。

ちょっと行ってみよう。


「リーンハルト君?終わった人はこちらですよ?そちらは剣術試験みたいです」

「う、うん。ちょっと用事があるからお気になさらず」

「?あ!お手洗いはそっちじゃないです!」

「違うよ!?ホントに大丈夫だから」


気に掛けてくれるのは嬉しいのだけど、こっそり何かしようとしてる時には放って置いて欲しいものだ。


少し歩いてチラッと後ろを見るとクルクルさんがこっちをジッと見ていた!

ちょっと怖いよ。

早く行こ。


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