第四話 収納
「リンくーん。そろそろ行くよー」
村に帰って数日経った頃、先日の戦闘の怪我も治ったことだし、この間のメンバーのうち、子ども全員とモーリッツさんとゲルトさんとで、村のすぐ裏にある、ネーベルの森に行くことになった。
スキルの訓練だ。
普通はスキルの詳しい内容はあまり教えないのだけど、このメンバーはすでにあの戦闘で、だいたいのスキルの特徴を共有しあっている。
それであればこのメンバーで訓練するのが、隠す必要もなく都合がいいと言うことで集まったのだ。
ちなみに僕のスキルは剣術かナイフ術の比較的高位のスキルと思われているようだ。
ただ単にレベルが高くなっただけなんだけどね。
とは言っても、レベル5なんて、かなりの強さだ。
王国騎士団に入れる資格がレベル5と聞いたことがあるから、レベルだけなら王国の一般兵士以上にはなっているはずだ。
あの戦いのとき、
[初めて魔物にダメージを与えた]
[初めて魔物からダメージを受けた]
[連続技を初めて成功させた]
[初めて魔物を倒す一因になった]
[初めて留めを刺した]
[初めて獣型魔物を倒した]
[魔物に自分が与えたダメージ率が初めて90%以上だった]
[倒した魔物のからの攻撃回避率が初めて80%以上だった]
これらがすべて最初に経験したということで、1pずつ付くらしい。初回ボーナスポイントというのだそうだ。
モーリッツさんに初戦闘のときに経験値が付くのはどんな時かを聞いたから確かだと思う。
そしてアカガネ狼の討伐自体にも経験値が増えた。
アカガネ狼の討伐の経験値は3pらしいから、これらだけなら、11pにしかならない。レベル2になるには、200p必要だからアカガネ狼だと、あと63匹倒さないといけない。
そんなの到底無理だ。
ところが、+500pのスキルのお陰で、今回の戦闘では4511pにもなった。
レベル5になる為には、レベル1からだと全部で4000p必要になる。
アカガネ狼1334匹分だ。
アカガネ狼の経験値、少なくないかな?結構強かったと思うんだけど。
でも、レベル4になったとたんに軽く倒せるようになったから、そんなものなのかな。
「いた。クロモリウサギだ!」
クロモリウサギは火や熱の魔法に耐性を持ち、物理攻撃に対しても比較的強い魔物だ。
反対に水や氷魔法には弱く、水魔法を受けたところは赤く変色して脆くなるらしい。
ティルの水魔法とは相性のいい魔物と言える。
「メールの水塊!」
ティルが拳大の水のかたまりをクロモリウサギにぶつける。
水が当たったところが赤黒くなるとボロボロと崩れ始める。
それだけなら、たいしたダメージにはならない。
体の表面が崩れただけで時間が経つと、鈍く光る灰色の体毛がまた生えてくる。
そうなる前にスヴェンとヴォルフが我先に、とそこに武器を突き刺している。
ネーベルの森に入ってからは、交代で陣形を組んで戦っていた。
大人二人は手を出さないが、武器は構えていて万が一に備えている。
「ようし。みんなだいぶ慣れてきたな」
「ぼ、僕は盾の練習がもっとしたいです」
「支援魔法の出番がないです…」
「そうだな。お前たちが活躍する前に他の奴が倒しちまうもんな。今年のやつらは大したもんだ」
ワッハッハと豪快にゲルトさんが笑う。
「この後はお前ら中心に動けるように…して…みる…か……」
ん?モーリッツさんの様子がおかしい。
周りを見ると子どもたちはみんな倒れている。
ゲルトさんも片足を付いて苦しんでいる。
なんだ?甘い匂いがする。毒による麻痺か!
僕はクラっとするが、何とか耐えている。
レベル差がここに出ているのだろう。
ゲルトさんとモーリッツさんも結局倒れてしまい、動けなくなってしまった。
みんな息はしているように見えるから、村にまで戻る事ができれば解毒剤位ならあるだろう。
急げばまだ助かるはずだ。
けど、僕を除くと7人、しかもそのうち2人は大きめな大人だ。
どうやって連れて帰るか。
そう考えていると、無数のネズミが前から出てきた。
雄黄ネズミだ。名前の通り黄色い体表をしていて、その皮膚に日の光が当たると皮膚から粉が舞い、それを吸うと麻痺してしまう。
ニンニクのような匂いがするから、近づくとすぐわかるはずなのだが、丁度風下から接近されたようだ。
「モーリッツさん!ゲルトさん!くっダメかっ」
モーリッツさんは目は開いて意識もはっきりしているのがわかるけど、指一本動かせないでいる。
雄黄ネズミ自体はかなり弱い。体表は脆く、特に明るい光に当たると軽く指で弾くだけでポロポロと崩れてしまう。
そのため普段は暗い場所を好んで潜んでいる。
だがこの毒性はまずい。
今はまだ大丈夫そうだが、もっと近くまで来られると毒が強まってしまう。
そうやって獲物を弱らせてから、近づいて来て捕食するのだろう。
フラフラするけど、この間、父さんにもらった短剣を振り回して、雄黄ネズミが近づかないように牽制する。
みんなを運べるような便利なスキルは何かないか。
この間のレベルアップで、SPはかなり溜まったから、高機能なものも選べるはずだ。
以前聞いたことがある、使えそうなスキルを調べてみる。
マジックボックス SLv1
5つのものを管理、収納できる。
サイズ制限:一つあたりの一辺の長さが、使用者の身長まで
重さ制限:合計の重さが、使用者の体重の2倍まで
生物未対応
液体未対応(ただし、密封容器に入れれば可)
収納時の時間経過:1.0倍(通常通り経過する)
インベントリとのマナリンク対応
ヴェラルドリンク対応
……
だめだ。生き物が入れられないし、制限が多くて使い物にならない。
このインベントリというのはなんだろう。
インベントリ SLv1
5つのものを管理できる。
サイズ制限なし
重さ制限なし
生物対応
液体対応
収納時の時間経過:1.0倍(通常通り経過する)
マジックボックス、ストレージとのマナリンク対応
ヴェラルドリンク対応
アクティブスキル
効果時間:86400s
リキャストタイム:0s
ビルドタイム:600s
使用SP:38.8M
残SP:96.2M
[戻る] [作成する]
これは生き物は入れられるけど、5人までしか入らない。
今度はストレージというのが出てきた。
ストレージ SLv1
20個のものを収納できる。
サイズ制限なし
重さ制限なし
生物対応
液体対応
収納時の時間経過:0.0倍(完全に停止する)
インベントリ、ゲートとのマナリンク対応
ヴェラルドリンク未対応
パッシブスキル
ビルドタイム:600s
使用SP:52.0M
残SP:96.2M
[戻る] [作成する]
これだ!作るのに10分もかかるから、すぐに作り始める。
その間は、雄黄ネズミが近づかないように頑張る。
僕はレベル5のお陰で、毒にふらつきはするけど何とかなりそうだ。
今より距離が近くならなければ大丈夫だと思う。
10分経過して、ストレージが出来た。
有効にしたし、パッシブスキルだから、もう使えるはずだ。
あれ?これどうやって使うんだ?
いきなり人で試すのも怖いから、その辺の石を触って収納しようと頭の中で試すけど、何も起きない。
「ストレージ」とコールしてみても変化はない。
何かやり方があるはずだ。
もう一度、スキルの説明を調べてみる。
ん?このヴェラルドリンクっていうのは何だ。
ヴェラルドリンク
実世界空間とマナ空間における、相互変換または相互操作ができるリンクシステム。
このリンクにより、実世界空間の物質またはエーテルをマナ空間に保存したり、マナ空間から実世界空間に取り出すことができる。
また説明がわかりづらい!
もっと分かりやすく書いて欲しいよ!
つまり、この僕達が居る場所が実世界空間で、収納する所がマナ空間って事でいいのかな?
このヴェラルドリンクに対応していれば実世界空間の物を扱えるのか。
ということは、ストレージだけで使えるわけではないみたいだ。
そうなるとヴェラルドリンクに対応しているインベントリを通してストレージに出し入れする、というのが正解とみてよさそうだ。
さらに10分かけて、インベントリを作成する。
そろそろ短剣をずっと振り回して、体力がなくなってきた。
早くみんなで村に帰りたい。
インベントリが完成して有効化すると
インベントリ
マナリンクに対応するスキルがあります。
以下のスキルとのマナリンクを接続しますか?
マナリンク対応スキル:ストレージ
[キャンセル] [マナリンクを接続する]
こう聞かれたので「マナリンクを接続する」を選ぶ。
試しにインベントリ経由でストレージに石が入り、自由に出せることも確認したし、一匹だけ雄黄ネズミを捕まえて、出し入れもしてみたけど、生き物も問題なさそうだ。
でも、人でやるのは勇気がいるな。
モーリッツさんでまずは試してみる。失敗したらごめん。
モーリッツさんに触れて、インベントリに入るように意識すると、シャリーンという音とともにモーリッツさんがインベントリに入る。
インベントリリストというのが表示され、そこに「モーリッツ」と書かれた四角い絵が入った。
絵にはモーリッツさんの顔が描かれていた。
絵というよりモーリッツさんそのものが映し出されているくらいのキレイさだ。
その絵を指で触ると小さなウィンドウが出てきて、そこに書いてある「ストレージに移す」を選ぶ。
うまくいった。
念のために一度インベントリ経由で外に出してみて、問題ないことを確認したら、全員をストレージに収納した。
急に獲物が消えて一人だけになったのをみて、雄黄ネズミたちは驚いて騒いでいる。
毒は僕にはあまり効かないみたいだし、相手も弱いしで、一人でなら余裕でネズミたちを振り切って、村まで戻って来られた。
村に入る前に塀の陰でみんなをストレージから外に出してから、一人で村の中に入った。
「おい、リン、どうした。一人で帰ってきたのか?他の奴らはどこだ?」
「みんなが雄黄ネズミの毒にやられたんだ!誰か早く解毒魔法か毒消し薬で治して!」
村の外を見て倒れているみんなの状況に気付いて、慌てて毒消し薬を取りに行ってくれた。
解毒魔法が使える人はいなかった。
毒消し薬だと、治るのに3日程度かかるそうだ。
でも、雄黄ネズミの毒は早い段階で治療すれば、後遺症も無く、比較的軽い症状で済むらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます