第二話 初めての戦い
ティルが不安そうな顔でこちらを覗き込んできていた。
いい雰囲気かと思ったけど、そうじゃなかった。
本気で心配されてたんだ。
よ、良かった、勘違いして抱き付いてたりしてたら怒られるところだった。
でも心配されてたんならもう大丈夫だ。早く安心させてあげよう。
あんまり顔が近すぎると緊張してうまく話せないから、ティルの肩を優しく掴んでゆっくりと後ろに押し返す。
「僕の事心配してくれてたんだね。でももう大丈夫。ティルのお陰で悩みも解決しそうだよ!」
「え?そうなの?わたし何もしてないよ?」
「ううん。ティルといつも一緒だったお陰なんだ。君の顔を見ていたら、うまく行きそうになったんだ!」
「そうなんだ。よくわかんないけど、リンくんの悩みをわたしが何とかできたんならうれしい」
まだ、何が出てるかよく見てないけど、今はティルに感謝したい。
気になる!気になるけど、宿に帰って誰にも見られない所で確認しないといけない。
「それでさ、宿に帰ってもいいかな。ティルにはここまで付き合って貰ったのに、僕の都合で振り回しちゃってごめん」
「ふう。さっきの会話で何かあったんでしょ?うふふ。水車小屋の歯車を直していいよって村長さんに言われた時と同じ顔してるよ。もー、仕方ないなー。早く宿に帰りましょ」
ああ、ティルは大人だなぁ。僕の考えてる事はみんなお見通しだよ。
ティルの言葉に甘えて、宿に帰ってきた。
男子部屋だとみんなが居るだろうから、一旦宿の外に出たら表通りから建物の隙間の路地を入って裏庭にやって来た。
ここまでチラチラと目の端に見えていたのを我慢してきたけど、ようやく誰も居ないところで確認できる。
ようこそ、リーンハルト・フォルトナーさん
利用規約
利用規約の内容をご確認の上、
「同意する」を押してください。
[同意しない] [同意する]
えっと。何だこれ?
これがステータスウィンドウでは無いのはわかる。
ステータスウィンドウにはレベルとか種族とかが書いてあると説明を受けていたから、どうみてもこれは違う。
利用規約の所を触ると何かごちゃごちゃと大量の文章が出てきたけど、難しい言葉ばかりで何が書いてあるのかよく分からなかった。
まあ、確認したんだからいいか。
「同意する」と書いてある所を押してみる。
スキル作成ウィザード SLv1
[ ][♪]
スキル名またはスキルグループを入力してください。
[キャンセル] [検索する]
おお?それっぽいものが出てきたな。
やっぱりユニークスキルで正解か?
何にしてもスキルっぽいものが出てきたんだから、何かができるんだろう。これで奴隷にならずに済んだ。
それにしても、スキル作成とあるけど、「スキルを作るスキル」みたいな事なのかな。
もし自由にスキルが作れるのだったら、とんでもない能力だ。
だって、それって無数のスキルを持ってるのと同じ事なんじゃないのかな。
だとしたら、国王のスキルどころじゃないレアスキルになる。
「くふふふ」
いかんいかん!興奮して思わず変な笑い声を出してしまった。
我ながら気持ち悪かったな。
やっぱりティルの前で確認しなくて良かったよ。
さて、早速スキル作成というのをしてみよう。
これもステータスウインドウと同じで、窓のような見た目をしている。
ティルには見えていなかったみたいだから、自分だけに見えるような初期設定になっているのだろう。
ここにスキル名を入れて、作れるスキルを見つけるってことなのかな。
そうだとするとあまり好き勝手に作れるわけでもないのか。まあ、それくらいは制限はあっても当然だな。
あれ?これって、そもそもどうやって入力するんだ?
スキル作成ウィザード SLv1
♪音声入力中……
このウィンドウに向かって話しかけてください。
[戻る] [検索する]
入力するところの右にあるボタンを指で押してみたらこうなった。
声で入力できそうだ。
よし、どんなスキルを作るか考えよう。
好きなスキルを作れるなんて、ワクワクするな。
うん。やっぱりこれは、あの悩みを解決するスキルがいいな。
「しんたいきょうか」
なぜかカタコトになってしまうが気にしない。
身体を強化するスキルだ。
僕は体力が絶望的にない。
村からこの町に来る時も僕一人だけ歩けなくなって、途中大人に背負ってもらったくらいだ。
このスキルがあれば、女子たちの僕を残念そうに見る眼差しから逃れられる。
[しんたいきょうか]検索結果 1件
身体強化SLv0
[戻る]
やった、あった!
これで、あの眼とはおさらばだ。
身体強化の文字の部分を押してみる。
身体強化SLv0
身体能力を一時的に強化する。
アクティブスキル
効果時間:180s
リキャストタイム:900s
ペナルティ:残CP99%消費 900s
ビルドタイム:300s
使用SP:2.8M
残SP:3.6M
[戻る] [作成する]
細かい説明が出てきたけど、これまた意味が分からないものが多い。
もうちょっと分かりやすい言葉で書いて欲しいよ。
中でもペナルティっていうのが気になる。
スキルを使う度に何かペナルティが与えられるとか嫌だな。
CPってなんだ?その部分を指で押して見るとさらに説明が出た。
CP
循環マナ値のこと。
生命活動プロセスおよびパッシブスキルプロセスにより常時使用される。
使用率100%が長時間続くと、生命活動が停止する可能性がある。
書いてあることはほとんどわからないけど、とにかくこのCPというのを100%使う状態になれば、死んでしまうかもしれないってことだけは分かった。
そうすると、この身体強化スキルを使うとCPがほぼ100%になるってことだ。
何だよ!こんなの怖くて使えないよ!!
……違うのにしよう。
◇
結局、どのスキルにするか決められず、翌朝になってしまった。
宿にとった大部屋に戻って、就寝時間になっても、思いつくスキルを調べまくったけど、どうにも決め手がない。
最初に取れるスキルというのは、効果がいまいちだったり、ペナルティが厳しいものばかりだった。
いくつかそれなりに候補は絞れたけど、後悔しそうで決めかねている。
というのも、スキル作成ウィザードという部分を押して出てきたこの説明を見たためだ。
スキル作成ウィザード SLv1
基幹マナ値(SP)を消費して、スキルを作成することができる。
SPは86,400sごと、またはレベル上昇で増加する。
スキルを作成するにも必要なものがあったようだ。
昨日みた身体強化スキルの作成画面をもう一度見てみる。
身体強化SLv0
・・・
使用SP:2.8M
残SP:3.6M→3.7M
このSPがスキル作成で必要になるということだ。
一晩寝たことで残SPというのが、0.1増えている。なぜ小数点以下がある、と思ったけど、Mのところを押すと、
M
1,000,000のこと。1,000K。
とのことだ。3.7Mは3,700,000を意味するらしい。
そして、86,400sというのは丸一日を表しているのだと思う。
つまり、一晩寝たことで、100,000ポイント分のSPが増えたのだろう。
例えば、この身体強化を0から作成できるまでにSPを貯めるには28日かかる計算になる。
いつでもいくらでも作成できるわけではない、ということがわかったので、作るスキルに悩んでいたわけだ。
決めきれないまま、村に帰る時間になってしまった。
「リンくん。あの、大丈夫?」
ティルがまた心配そうに顔を覗き込んでくる。
「今の悩みは楽しい悩みだから平気だよ」
そう、明るく答えるとティルはホッとしていた。
思っていたよりティルを不安にさせていたみたいだ。
いくら楽しんでいるとは言っても、目の下にクマを作ってうんうん悩んでいるのを見せていたら、不安にもさせるよね。
ティルの前ではあまり考え込まないようにしよう。
「みんな準備はいいか?出発するぞ」
村一番に強いモーリッツさんが今回の護衛兼男子達の引率を引き受けてくれている。
ティルのお父さんでもある。自分の娘がここに来るのが心配だったのだろう。真っ先に今回の引率を引き受けてくれた。
大人は他に、教会に洗礼のお願いをするために来た村長さんと護衛役のゲルトさん、ティルとルナの女子二人を引率してくれているマルガさん。マルガさんはティルのお母さんだ。つまり、ティルの家族は全員で来ていた。
村長さん以外は全員武装してきている。
村と町の間には魔物がよく出没するレーゲンの森があり、町に行くには必ずそこを通り抜けるからだ。
マルガさんは戦うことはできないので、武器は持たず、盾だけを持っている。
男子は僕とヴォルフの他にウーヴェとスヴェンの四人だ。
「そろそろレーゲンの森だね。ここはいつ通っても怖いなぁ……」
ティルが少し怯えている。
「ふん。俺たちはスキルを持ったんだぜ。どんな魔物が出ても、俺が軽くひねってやる。むしろ早く出てこい!」
ヴォルフは余程スキルを試したいんだろう。
「おいおい、お前達、魔物が出てもまだ戦うなよ。子供達だけで戦えるようになるのは村に帰って訓練をしてからだからな」
ゲルトさんがヴォルフに釘をさす。
ちぇーっ、とヴォルフが不貞腐れているけど、まあ気持ちはわかるよ。
僕も早くスキルを作成して、体力がついたことを自慢したい。
ガサガサッ
「魔物だ!みんな俺たちの後ろへ」
草むらから一匹の魔物が飛び出してくる。
僕たちの身長くらいある狼、赤銅色の毛を持つ、アカガネ狼だ。
モーリッツさんとゲルトさんがアカガネ狼と戦闘に入る。
マルガさんの盾に守られて、よく見えないけど、アカガネ狼は強いらしく、一進一退の攻防が続いているようだ。
「大丈夫だからね。あの二人は村の中でも一、二を争う強さなんだからね」
マルガさんは僕たちにそう声をかけるけど、声が震えている。結構ぎりぎりなのかもしれない。
ガサガサッ
また音がする。
あまり良くない予感がする。
こういう時の予感は当たるもんだ。
後ろからアカガネ狼がもう一匹現れた。
しかも、大人二人が戦っているものよりひとまわり大きい。
「後ろだ!」
僕は叫ぶと護身用のナイフを抜いて、みんなとアカガネ狼との間に入る。
男子三人も慌てて、ナイフを取り出して前に出て構える。反対の大人と挟んで真ん中がマルガさんと女子二人になる。
まずい。男の大人二人でもぎりぎりなのに、この戦力差はきついぞ。
みんなのスキル次第では戦う事もできない。
「みんな戦闘系のスキルは持っているか?」
ナイフでアカガネ狼を牽制しつつ、みんなに聞く。
流石に男子四人のナイフにアカガネ狼もすぐには襲ってこないようだ。
それとも、こちらを舐めているだけか。
「ぼ、僕は盾術があるよ」
「くそっ、ほんとはできるだけ秘密にしておきたかったのに。詳しくは言えないが、速度重視のスキルだ。ナイフでいける」
ウーヴェとスヴェンが答える。
「俺は剣術だ!騎士にもなれるスキルだ!俺がこいつをやっつけてやる!さあ、かかって来い!」
ヴォルフは戦士職か。強気にもなるはずだ。
でも、これだけいいスキルがいれば何とかなるかもしれない。
「マルガさん!盾をウーヴェに!ティル、その短剣をヴォルフへ渡して!」
装備を最適になるように整えるように指示を出す。
マルガさんが盾をウーヴェに渡そうとした隙に、アカガネ狼がウーヴェに嚙みつこうと襲ってきた。
スヴェンが素早い動きでナイフをアカガネ狼の牙に当てて、動きを止める。
早い上に正確な動作だ。かなりいいスキルのようだ。
その間に二人は装備を受け取ることができた。
ウーヴェが盾でアカガネ狼を押さえ込んで、横からヴォルフが首筋めがけて短剣を振り下ろす。
カキンッ
アカガネ狼の体毛は金属のように硬い。
いくら剣術系のスキルでも、子どもの力では傷一つ付かず弾かれてしまう。
「わ、わたし、水と氷の魔法使えるわ!」
「支援系です。防御力アップと速度上昇が使えます」
ティルとルナは魔法職だ。
それぞれに指示を出す。
「ティルは氷だ!狼の顔を狙うんだ!できれば目の周りに当てて欲しい!ルナは防御をウーヴェに!」
二人とも長い呪文を唱え出す。
男子三人は攻撃は通らないけど、何とか均衡を保っていられるようだ。
アカガネ狼は舐めているのか、かなり余裕があるのだろう。わざと脅かすような動きを入れてきたりと遊んでやがる。
今のうちに僕が決定打を作り出す。
ここで、スキルを作ってアカガネ狼を一気に倒す力を得るのだ。
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