第33話 視察は続くそうです

嘘でしょ……この人はフィオナの攻略対象じゃないんだよ!?



焦ってジェード様に視線をやればその視線に気がついたのかこちらを向いて首をかしげられる。


その表情も好きです、可愛い!……じゃないいぃ!!

ジェード様は攻略対象じゃないからフィオナを好きになったりしませんよね!?


何て言えるわけもない私は視線を反らして俯いてしまう。

するとそこへエリックがフィオナの兄、フィリップを連れて戻ってきた。

フィリップはフィオナの事を必死に探していたのだろう、額に汗を浮かべている。

「お兄様!」

「フィオナ、何処に行っていたんだ全く……申し訳ありません、ダニエル殿下、アリス殿下。妹がご迷惑をお掛けしました」

フィリップは土下座でもしそうな勢いで深く頭を下げた。

「本当にありがとうございます」

フィオナも隣で頭を下げる。


「無事に会えて何よりだ、フィオナは街の中でも好奇心が旺盛なんだね」

兄はくすりと笑うと優しい微笑みでフィオナを見詰める。

「街の中でも……?フィオナ、お前まさか学校でも…」

「えぇ、フィオナはとても好奇心旺盛でこの前も学校で飼育してる馬に……」

「ダ、ダニエル様っ…!」

何かを言いかけた兄をフィオナが頬を赤らめて遮る。彼女は自分の兄に知られたくないことを学校でやらかしたのだろう。

「そうだね、フィオナと私の秘密だ」

そんなフィオナを眺めて兄は楽しそうに笑う。


これは完全に兄を攻略しているみたい……

なのに、なんでジェード様を見て赤くなるの!?


「それではダニエル殿下、アリス殿下、私共はここで失礼致します。本当にありがとうございました」

再び深く頭を下げてフィリップと去っていくフィオナの背中を見ながら胸のうちに焦りを感じた。


もしフィオナがジェード様を好きだとしたら……彼女はヒロインだしジェード様とも歳が近い…。私は断然不利になる。

昨日の友は今日の敵とか、止めてほしい


この時ほど子供の自分を悔しいと思ったことはない。

「アリス様、顔色が宜しく無いようですが何処が具合でもお悪いのですか?」

私の様子に気がついたエリックがそっと声をかけてくる。

いけない、つい険しい顔になってしまっていたようだ。


まだフィオナがジェード様を好きだと決まった訳じゃない、落ち着け私。

「大丈夫、何ともないわ」

エリックに微笑みを向けて再び馬車に乗り込むと兄達も乗せて馬車は走り出す。


「次の視察は装飾品を取り扱う御店で、庶民的なものから貴族向けのものまで幅広く取り扱っているらしい。アリスが気に入ったものがあったら購入しても良いかもしれないね」

「…そ、そうですね!どんなものがあるのか楽しみです!」

話し掛けられた事に気が付くのが遅れ、返答まで間が空いてしまったのを慌てて取り繕う。兄ははしゃいで見せる私に優しく微笑むけれどエリックは何か気になることがあるのか此方を伺っている気配がする。私が体調不良だと思い込んでるのかもしれない。


目的の装飾品を取り扱う御店についた私達は経営者の恰幅のよい男性に店内を案内された。

シックな商品棚とテーブルにアクセサリーや髪飾り、リボンなどが陳列されている。

値段も庶民向けの安いものから貴族をターゲットにした高価なものまであるようだ、前世ではあまりアクセサリーに興味を持てなかった私だけれど今は少し興味がある。

兄と経営者の男性が話をしている間私はエリックを連れて店内を見て回る事にした。

リボンや、ネックレス、ブレスレットに指輪が並んでいる棚をゆっくりと眺めていく。


「素敵な作品ばかりね、こんなに素敵なものを作れる人はきっと魔法使いだわ」

「……魔法使いですか?」

私の呟きにエリックは首を傾げる。

「だって同じ材料を用意されて作り方を教わったとしても、私はこんなに綺麗な物は作れないもの。リボンひとつ、ネックレスひとつとっても作ってる人の技術や情熱があるから素敵なものが作れると思うの…作れない私からしてみたら魔法みたいで素敵って思うのよ」

子供っぽいかしら、と苦笑を浮かべるとエリックは首を横に振ってふわりと微笑む。

「アリス様は素晴らしい感性をお持ちなのですね、私は良いことだと思います」

そう言われれば単純な私は少し嬉しくなってしまう。

「ありがとう、エリック」

褒めてくれたことに礼を言えばエリックも嬉しそうに笑ってくれる。しかし何かに気がついた様にパッと顔をあげて一点を見詰めた。

不思議に思いその視線を辿れば、店の奥に続く廊下に一人の男性が立っていて此方を見つめていた。男性は二十代位だろうか、濃紺のエプロンを付けていてそのポケットから工具がいくつも覗いている。


お店の人かな?職人さんとか?


内心で首をかしげていると兄と経営者の男性が彼に気がついたらしく紹介してくれた。

「彼はここの職人でルパートと言います。ルパート、挨拶を」

経営者の男性にそう促されればルパートと紹介された男性は小さな声で「宜しくお願いします」と頭を下げる。

私の偏見だけど職人気質な人は人が苦手なのかもしれない。

「こら、ルパート!無礼だぞ!」

声を荒げる経営者を兄が宥める。

「構わないさ、だがそろそろ次の場所に行かなければ。すまないがここで失礼するよ」

兄はそう言って私に手を差し出す。

「行こうか、アリス」

「はい、お兄様」

差し出された手を繋いでちらりとルパートに視線を向ける。その無表情からは何も読み取れない。


経営者に見送られて馬車に乗りこむ。少し兄の機嫌が悪い気がする。顔は笑顔なのに纏う空気が少しだけピリピリしている……気のせいかもしれないけど。


経営者の男性に何か気に触ることでも言われた?

それともルパートが無愛想だったからとか……でもお兄様の侍従にも無愛想な人はいるしその人に対してお兄様が怒ったことはない…じゃあ何だろう?私何かしたかな?

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