3 ビギナーモード
襲いかかってくるゴブリンは、あきらかに
スローモーションとまでは言わないが、まるで水中にいるかのような緩慢な動きだ。
私があ然としてるあいだに、ゴブリンがゆっくりと近づいてくる。
そして、
「ゴブォォッ!」
と、気合いの声を上げて、鉄の棍棒を振り下ろす。
「わっ!」
私は棍棒をひょいとかわした。
「ゴブォッ!?」
棍棒が、勢い余って地面を叩く。
ゴブリンがなかなか棍棒を持ち上げないので、棍棒を上から踏んづけてやる。
「ギャアッ!?」
ゴブリンはおおげさに喚きながら棍棒から手を離し、あわてて後ろに跳び下がる――妙にゆっくりとした動作で。
そのあいだに、私は棍棒を拾った。
「重っ」
棍棒は見た目よりも重かった。
私は、少しふらつきながら棍棒を振り上げる。
ゴブリンは、まだのろのろと下がってく途中だ。
私は踏みこみながら、ゴブリンに棍棒を振り下ろす。
ドシャッ!
「うわっ!」
たいした力も入ってないはずの私の攻撃で、ゴブリンの頭が砕け散った。
洋ゲーにありがちなリアルでグロい死に方だ。
和ゲーみたいに光になって消えてくれたりはしないらしい。
ゴブリンたちが、私を指さして喚き出す。
「なんでゴブ!? あんな痩せチビにどうしてあんな力があるでゴブ!?」
「動きが速すぎて見えなかったでゴブ!」
(えっと……)
ゴブリンたちの反応を見て考える。
(可能性はいくつかあるかな?)
1.この世界のゴブリンは超弱い
2.地球人はこの世界では超強い(たとえば地球のほうが重力が強い分身体が強いとか)
3.私の秘められし能力が覚醒した
1、2は否定しきれないが、3はない。
そんな力があるなら、父親に殺されそうになった時に覚醒してほしかった。
まあ、父親に殺されなかったところで、母親は死に、父親は妻と警官を殺した殺人犯。私はその娘である。生き地獄が待ってたのは間違いない。
いや、待て。
力?
(あっ……)
すっかり忘れてた。
さっき、オプションから難易度を変更したんだった!
「なるほど、これがビギナーモードか」
敵の動きが遅くなる。
こちらの攻撃力が高くなる。
他にもあるかもしれないが、これだけでも十分強い。
「や、やるでゴブ! ゴブローの仇を討つでゴブ!」
ゴブリンの中で体格のちょっと大きいやつがそう叫ぶ。
その声にハッとして、何匹かのゴブリンが武器を構える。
私は、そのうちの一匹に近づいた。
「ゴブっ!?」
私のなんてことはないはずの動きに驚くゴブリン。
私は、棍棒を振り下ろす。
ぐしゃっ!
ゴブリンの頭がスイカになった。
「あははっ……父さんが私を殴った時もこんな手応えだったのかな」
緊張のあまり笑いながらそう言うと、残ったゴブリンたちが、怖気づいた様子で後じさる。
「あはははっ! 行くよ」
ゲームの定石通り、ボスを潰そう。
私はさっき全員に号令をかけてたボスゴブリンに近づいた。
普通の速度で駆け寄っただけだが、ボスはまったく反応できてない。
棍棒を振り下ろす。
頭がざくろになる――かと思ったが、さすがはボス、ギリギリで頭を傾け棍棒をよけた。
だが、それだけでは不十分。
私の棍棒は、ボスの右肩を打ち砕く。
「ご、ゴブッ!?」
「へえ、ちょっとは強いみたい」
難易度ノーマルだったら強敵だったのかもしれない。
だが、悲しいかな、これはビギナーモードなのだ。
私は棍棒を再び振り上げ、右肩を押さえるボスの脳天へと振り下ろす。
ぐじゃっ!
今度こそよけられず、ボスゴブリンの頭が砕け散る。
私は残るゴブリンたちを見渡して言った。
「あはははっ! まだやるつもり?」
身体を返り血に染め、笑いながら言い放つ。
そんな私に何を見たのか、
「に、逃げるでゴブ!」
ゴブリンたちは逃げ出した。
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