第2話 ちらっと刹那の花火

「チラチラ見てんじゃねーよ!」



 君を見てたんじゃないよ。ごめんね。それにここじゃ花火は見えないよ。そう教えてあげようかとも思ったが、結局何も言わずに無視して進んだ。この狭い路地の古ぼけた建物。以前はバーや飲食店等で栄えていた。だけど今は何もない。不法侵入も何も鍵もかかってない。今じゃ行き場のないやつらの溜まり場になっている。


 二階の屋上に上がればちらっとだけど花火が見えると一時期話題になった。ただの噂だ。でもそのおかげか時代の流れとともに様々なお店が出たり入ったりしては、客がいた。まあここしばらくはただの廃墟だ。こういうところが多い。シャッター街のさらに裏路地。経済的に豊かなこの国の裏の顔。ホームレスは結構いる。住所を持ちたくない人も結構いるらしい。俺には知ったこっちゃない。



「お祭り行かないの?」


「いいの!人混みに行けって?」



 人通りが少ないから話が筒抜けだ。女の子2人組は細い足をこれでもかと出して歩いている。



「それだけ人が集まるってことだよ!」


「ああ、花火ね?」



 聞き覚えのある声だ。遠くから響く音で花火大会が始まったことがわかった。



「あ!!今ちょっと見えた!」



 さっきの屋上から別の甲高い声がする。そういえば今年から打ち上げ場所変更の知らせが来た。だから多分見えるのだろう。



「あんなすぐ消えるものの何がいいの」



 俺の前の彼女は隣を歩く女の人と、降って来た声に尋ねる。答えは求めていない様子だった。

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