122 全ては勘頼み
「で、出遅れた私たちはどうする?」
魔境の森の中をのんびり歩きながら、私はファースたちに尋ねた。
「……本当、エイリーってマイペースだな!」
「いや、がさつなグリーだけには言われたくないから」
そう、ただいま私たちは魔物と戦闘中……と言うほど、切羽詰まってもないが、魔物と戦いながら奥へ進んでいる。
近寄ってくる魔物をグリーやレノが軽くやっつけて、私やファースは魔法で魔物をぎったんぎったんにしている。ただ、本当に魔物がひっきりなしにやってくるので、息をつく暇もない。
「めんどくさー」
「全然めんどくさそうに見えないけど」
「そー? でも、めんどくさいでしょー」
魔法の詠唱をしつつ、近寄ってくる魔物をクラウソラスでぶった斬る。剣で魔物を倒すと血が飛ぶから嫌なんだよね。
だからと言って、いつもの『めんどくさいから一気に片付けちゃおうぜ!』作戦は、使えないんだよなぁ。魔物の数が異常なので、一箇所に集めちゃったら大変なことになる。
……でも、めんどくさいっ!
「あーもうっ! ちょっと強力な魔法使う!」
「やっとか」
私が痺れを切らして叫ぶと、ファースたちはが遅かったなと言う目を向けてくる。
「え?」
「今日は遅かったなぁ、と。どうしたんだ?」
「……私、いつもそんなにすぐ強い魔法使う?」
「「「うん」」」
見事にハモった。
「そんなに?」
「「「そんなに」」」
嘘でしょ。私そんなに使ってるか……?
そうして私は少し過去を振り返る。
…………あー、心当たりがなくもないな。というか、この件に関してはまじで私やばいわ。魔法使いすぎだわ。
「自覚があって何よりだ。早く魔物を片付けてくれ」
「あー、うん」
レノにそう催促され、私は呪文を歌い、踊り始める。
「聖なる光が煌めいた。全ては等しく浄化され、この他は再び平和を取り戻す。穢れたものは灰になり、聖なるものは輝きを増す!」
光で辺りが包まれて、光が消えるのと同時に魔物たちも姿を消していた。今日はコントロールがうまくいった気がするので、この森の魔物が全て消えてるなんてそんなことないだろう。
「いつ見ても、エイリーは凄いな」
「……口の悪いグリーが久々すぎて、ついていけない」
「そうだっけ?」
「そうなんだよなぁ」
よく考えると、最近は上品なグリーに振り回されてた気がする。上品な方も方で、めんどくさいし策士なので、がさつなグリーの方が案外付き合いやすいのかもしれない。
「てか、私が凄いって何さ」
「いや、才能の塊なんだなと」
「は?」
「だって、魔力のコントロールとか剣の扱い方とか、ぶっちゃけなってないじゃん? だけど、“レベル”という才能で戦えてる。どんな修行したの?」
「……さあ?」
口が裂けても、『嫉妬に狂って悪魔と契約しようとして、その反動で前世の記憶を思い出してレベルも一気に上がっちゃいました☆』なんて、言えるわけない。修行なんてしてないし、ズルして強くなったもんだし。
「隠してないで、教えて〜」
「俺も気になるな」
「俺もだ」
グリーにのっかるファースとレノ。興味津々にこっちを見てくるけど、いや教えないから。
「秘密っ! それに教えたとこで真似できないから!」
「……そんなに厳しい修行なのか?」
「……ノーコメント」
修行も何もないから! やったのはというか、やろうとしたのは、悪魔との契約だから! 真似しちゃダメなやつだから!
「まあ、あと私が戦えてるのは勘かな」
このまま会話をしていると、ぽろっと漏らしてしまいそうなので話題を少しずらす。私もやればこういうことだってできちゃうのだ!
「勘か」
「勘だよ」
「エイリーらしいな」
「でしょ」
ファースがふふ、と笑いを漏らす。その顔は流石イケメンって感じだが、ここで笑うとはどういうことなんだろう? 褒められる、のか? いや、そんなわけないな。
「じゃあ、その得意な勘でこの後どうするか決めて!」
「はい……?」
「どうする? どこ探す?」
「いや、それ私がさっき聞いたことだよね?」
「うん」
『うん』じゃないよ! 私が意見求めてたんだよ!
「なんで私に聞くの、グリー。がさつな方のグリーだったら突っ走るじゃん」
「あたしだって、流石にこの森をひとりで突っ走るなんて、そんなことしない」
そりゃそうか。この森をひとりで攻略しようなんて、私か命知らずか馬鹿のやることだ。
「それで私に聞くの?」
というかがさつな方でも頭はそこそこ働くんだな。
「応。あとはエイリーもいるところに秘宝が湧くから」
「そうかもしれないけど、言い方!」
「え、じゃあなんて言って欲しいんだ?」
「……『エイリーが好きだから寄って来る』とか?」
「ええ……」
「本気で嫌そうにするのやめてくれる?!」
冗談だし! 冗談以外の何物でもないでしょ!
「まあ、エイリーが進む方向決めるのはいいんじゃないのか。どんな選択しても結局運だし」
「それはある」
ファースの言うことは一理ある。どうせ、どこ行っても秘宝が見つかるかどうかは運任せだ。そもそも今日現れるかどうかも定かじゃないし。
「じゃあ、エイリーの野生の勘に任せよう」
「おい、レノお前」
「間違ってはないだろ?」
「そうだけどさ! 言い方!!」
野生の勘って何?! “野生の”って余計でしょ! 失礼しちゃう。
「で?どうするんだ?」
「うーん。そうだなぁ……。よし、まっすぐ行こう!」
そうして、私たちは魔境の森の奥へ奥へと進んで行くことにした。
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