113 計画的すぎませんか?

 さて、やってきました、地下迷宮!

 この近くには、いくつも迷宮が存在していて、冒険者たちにとってはおいしい稼ぎ場である。

 私も何回か訪れたことがあったが、依頼で忙しくなったし、手ごたえもなかったし、メリットよりもデメリットの方が多かったので、来るのをやめた。

 久々の迷宮が、まさか秘宝探しで、王族のファース(しかも私に気がある)やつと、ふたりきりだとは、想像もしていなかった。というか、誰がするんだろう。


 兎にも角にも、私たちは秘宝があるらしい迷宮に入っていくのだった。



 * * *



「ねえ、ファース」

「なんだ?」

「退屈なんだけど」


 迷宮に入って数十分。魔物たちは出てくるが、そんなに強くなく、私たちには退屈すぎる相手だった。


「……迷宮でそんなこという奴、初めて見たぞ」

「でも、事実じゃん」

「迷宮は本来、命がけの場所のはずなんだけどな」

「だよねぇ。もっと刺激が欲しいよねぇ」

「エイリーが求める刺激が実現したら、沢山の死人が出るだろ」

「私を殺人マシーンみたいに言わないでよ」


 人を殺人マシーンみたいに言うの、やめてもらっていいですか? 私の求める刺激はそこまで危険じゃないしっ!

 ちょっと強い魔物が出てきて欲しいだけだよ、まったくもう。


 こんなくだらない会話をしながら、私たちは進んでいく。


「それにしても、人がいないねぇ」

「まあ、かなり降りてきたしね」

「……それにしても、なんか静かじゃない?」

「……言われてみれば」


 なんだかんだ、会話と魔物の討伐に夢中になっていて、周りの様子が目に入っていなかった。

 だから、気付かなかったのだ。周りが異様に静かだということに。


「最深部に近いから……、というわけではないよな?」

「多分?」


 曖昧な返事をしてから、私はマップを開く。


「うげえ」


 マップには、入口に近い簡単に攻略できるところに、魔物が集結していた。弱いのから、そこそこ強いのまで。これだと、重症者、運が悪ければ死者が出ていてもおかしくない。

 この状況を考えれば、予想通りと言えば予想通りなんだけれども。



 ――――流石に計画的過ぎないか?



 この状態、明らかに私たちを避けているようにしか見えない。


「ねえ、ファース」

「なんだ?」

「あのさ、秘宝の情報ってどこから手に入れてるの?」

「詳しくは俺も分からないんだが、秘宝を探知できる特別な方法があるらしい。しかしそれは、

「……つまり、今回はちょっと早すぎたってこと?」

「そうだな」


 なにその使えない方法。もっと確実なの作れよ。

 そもそもだ。秘宝同士が惹かれ合って~、みたいなありがちな能力、なんで持ってないの? 持ってても良くない? 王族の秘宝なんだからさ。


 まあ、ないものねだりをしてても仕方がないんだけどさぁ。


「というか、この状態、計画的すぎないか?」


 ファースも同じことを疑問に思っていたみたいで、そんな言葉をぽそりと漏らした。


「だよね。私たちを避けてるのは間違いない。やっぱり、誰かが何かしらの目的を持ってやってるよ」

「何なんだろうな。秘宝を盗むのはいいが、どうしてそれを捨てるように置くんだ?」

「やっぱりそう思うよねぇ」


 少し考えれば、おかしな話だ。だからこそ、魔物を集める手段としての秘宝、という可能性は高いだろう。

 だからこそ、『何故』なのだ。理由が分からない。わざわざ魔物を集めて、どうしたいのだ?


「エイリー、そんなことより急がないと。対処できてる状態とは思えない」

「それもそうだね」

「ファース、加速の魔法使うから、私のそばに来て」

「わかった」


 ファースが近くに来たので私は、呪文を詠う。


「飛べ飛べ、鳥のごとく。舞え舞え、風のごとく。美しく、可憐に、羽ばたけ!」


 すると、私とファースは宙に浮き、猛スピードで進む。ジェットコースターみたいで楽しい。


「エイリーが不吉なことを言うから、こんなことが起こったんじゃないのか?」

「何を失礼な」


 猛スピードを出しているせいで、ファースの言葉が少し聞き取りづらい。

 ただ、ファースはじっと私の横顔を見ている気がする。なんだか、少し胸がドキドキする。


「……だよ」

「え? なんか言った?」

「……いいや何でも」


 嘘だ! 絶対なんか言ったでしょ。

 だって、なんか言わないとそんなに顔真っ赤にしないじゃん。


「顔、赤いよ?」

「き、気のせいじゃないか?」


 ファースは少したじたじした様子を見せる。余計に怪しい。


「エ、エイリーも顔が赤いんじゃないか?」

「は?! 嘘ぉ……」

「本当だよ」


 思わず顔に手を当てるが、かなり熱を帯びている。その熱を感じたからか、体全体がおかしいくらいに熱くなる。


 ……なんで、こんな時に言うかなぁ。


『好きだよ』、なんて。

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