77 英雄さん、変装して潜入する

 翌日。気持ちのいい朝がやってきた。本当に清々しすぎる朝だった。雨でも降ればよかったのに。

 しかし依頼を受けてしまった以上、ちゃんとやらないといけない。


 私は幻想魔法で髪と瞳の色を紫から青に変える。そして、魔法で髪を三つ編みにし、眼鏡をかける。これで私だということは絶対にわからないだろう。


 いっそのこと、もっと遊んじゃうか。

 なーんて、変わった自分を見てテンションが上がってしまった私は、アイテムボックスから普段は着ないような服を取り出す。


 とんがり帽子に、ゴスロリチックな服に靴、自分の身長くらいあるロッドを持つ。

 完璧に魔法使いだ。うん。田舎から出てきた感はあんまりないけど、エイリーわたしだってバレないからいいだろう。

 そうして、満足した私はウキウキして家を出た。



 * * *



 ――――周りの視線が痛い。


 やっぱ、この服装やりすぎたかなぁ……?

 冷静さを取り戻した私は、この服装で来たことを後悔する。


 でもでもでも、ここは異世界なんだし、少しくらいはっちゃけてもいいじゃん!! こういう服、一度は着てみたかったんだよ!!

 …………ようは、私が気にしなければいいのだ、うん。


 私は、堂々としながら受付嬢に話しかけに行くことにした。


「ねえ」

「こちらは初めてですか?」


 にこりと笑って、受付嬢さんはそう聞いてくる。私がエイリーだとわかっていない? ……だよねぇ。そうだよねぇ。


「私だよ、エイリーだよ」

「え、えええええ?!」

「ちょ、そんなに驚かないでよ、バレちゃうじゃん!」


 思いっきり声に出して驚くので、慌てて止めた。この変装が台無しになっちゃうじゃん。

 こほん、と取り繕うように受付嬢は咳払いをすると、


「なんか、凄いですね」


 感心したように、私を凝視する。


「でしょ?」

「流石です。それなら、バレませんね」

「で? ヴィクターたちとどこで合流すればいいの?」

「あ、ではついてきてください。案内します」


 私の質問に、受付嬢はそう答えると私をヴィクターたちがいるところまで連れて行ってくれた。


「ヴィクターさん」

「あ、受付嬢さん。じゃあ、後ろのは」

「ええ、そうです。今回一緒に行ってもらいたい、田舎から出てきた魔法使いさんです」

「……エルです。よろしくお願いします」


 偽名を言わなくてはいけなかったので、私はエイリーとルシールの頭文字をとって、“エル”とした。まずまずの名前だろう。

 ヴィクターたちは、物珍しそうに私をジロジロと見つめてくる。わかってるから、わかってるからそんなに見ないで……。


「初めまして。俺はリーダーのヴィクターだ」

「俺は同じギルドのイーサン。縄や紐などを操って戦う」

「セオだ。弓使い」

「あたしはグルース。片手剣使い」

「シエナと言いますぅ。これでも格闘家ですぅ……」

「私はアメリア。闇魔法が得意よ。貴女――――エルって言ったわね、何魔法が得意なの?」


 やばい。皆同じ顔にしか見えない。どうしようどうしようどうしよう。

 持ってる武器で判断するしかないなぁ。

 右から、縄使い君、弓使い君、片手剣ちゃん、格闘家ちゃん、闇魔法ちゃん。うん、これならなんとかなりそうだ。


「なんでも……」

「なんでも?」


 なんでも使えるなんて、言っちゃまずいよね? 生活魔法ともう一つの種類が使えるのが普通なのだ。全部使えなくても、2個使えるだけでも、特殊なのだ。

 うん、適当に誤魔化そう。


「いや、なんでもないです。幻想魔法が得意なんですけど、物理魔法も普通にいけます」

「へぇ、田舎から出てきた割には有能なのね」


 流石は、闇魔法ちゃん。嫌味ったらしい。

 いや、性格によって属性が決まるわけじゃないんだけどね。闇魔法ってネチネチしてるイメージあるから、つまりそういうこと。ただの私の偏見だ。


「あはは。私も信じられないですよ。物理魔法はあまり使えないので、期待はしないでくださいね」

「じゃあ、あんた役に立たないじゃん」


 片手剣ちゃんの物言いに、少しカチンとくる。

 幻想魔法は戦闘向きではない。それは私だって百も承知だ。だから、改めて言われるとかなりムカつくのだ。

 お前に言われなくたってわかってるよ!!!!


「あはは、ですよねぇ」


 乾いた笑いで、私は取り敢えず対応する。これだから、うざいのよねぇ。さっさと終わらせたいなぁ……。

 そんなことを思っていると、


「グルース、言い過ぎだ」


 と、ヴィクターがフォローを入れてくれる。それが意外すぎて、私はぽかんとしてしまう。


 ヴィクターが私を庇うだと?! いや、エルがエイリーだとは知らないんだろうけどさ?!


「そうですよぉ、グルースさん。流石に言い過ぎですよぉ〜」


 格闘家ちゃんもフォローを入れてくれる。ていうか、喋り方可愛な、おい。


「グルースがきついのなんて、いつものことだろ。エルもあんまり気にするな」

「そうだな」


 縄使い君も弓使い君も私のことを庇ってくれる。

 ……何なの、この状況。怖い怖い怖い怖い怖い。


 この中にだって、私に絡んできた奴がいるはずなのだ。顔が皆同じに見えるから、なんとも言えないけど。

 え、え、え、態度変わりすぎじゃん? むしろ、闇魔法ちゃんと片手剣ちゃんの態度の方が私安心できるんだけど。


「まあ、でもグルースの言ってることも一理あるでしょ。なんせ、私たちがこれから行く所は、死ぬかもしれない所なんだから」

「死ぬ……ですか?」


 私の問いかけに、ヴィクターがこくりと頷く。なんだ、自覚はあるのね。


「ああ、俺たちのレベルじゃ正直危ないかもしらない。だから、ギルドの中の最高レベルだけで今回は行くんだ」

「私がついて行っていいんですか?」

「冒険者省からの依頼だからな、断るわけにはいかない。けど、これから行く所は本当に危険な所だ。命が惜しいなら、やめといた方がいいぞ」

「……大丈夫です、行きます」


 こっちも依頼だからね。行きたくないけど、行くしかない。


「自分の身は自分で守ってくれよ。こっちも手が回らないからな」

「わかりました」


 そのくらい、楽勝楽勝。むしろ、あんたたちのことも守んなきゃいけないしね。


 こんな感じで、私たちは王都を出発したのだった。

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