甘え上手な彼女２ 夏編

第27話

＊

　高志と紗弥が二階に上がったのと同じタイミングで、土井は四階に来ていた。

　辺りはやっぱり真っ暗で、廊下もなんだか長く感じる。

　コツコツと自分の足音だけが響く中、土井は恐怖よりも気まずさを感じていた。

(会話が無いな……)

　瑞希と何か話しをしなくてはと、会話を探す。

　折角女の子と二人きりなのだから、このチャンスを生かしたい土井。

　話題を必死に考えていると、再び前方から何かがやってきた。

「ん？　今度はなんだ？」

　前方から向かって来たのは、人間の下半身のみ。

　腰から上が無く、足だけが全力疾走で土井と瑞希の方に走ってきた。

　普通なら驚くところなのだが、土井は相変わらずの様子で、顎に手を当てながら考え事をしていた。

「すげーなー、仕組みは一体どうなってるんだ？」

「………」

　ここまで来ると、もういっそ清々しいほどに鈍感な土井に、瑞希は最早尊敬に近い何かを感じていた。

　もちろん、その下半身お化けも土井が触れた瞬間に、光になって消えていった。

「あ、また消えた……感触も無かったし……今流行のプロジェクションマッピングって奴かな？」

「……」

　どうあっても本物とは認めようとはしない土井。

　瑞希は先を急ごうと、土井の手をとって屋上への階段がある場所まで急ぐ。

　焦る瑞希に対して土井はと言うと……。

(うぉぉぉぉぉ！！　俺、女の子と手繋いでるよぉぉぉぉ！！　どうしよう！　すっげぇー嬉しい！！)

　幸せの絶頂にいた。

　しかし、そんな土井も流石に違和感を覚え始めた。

　廊下の異様な長さ、先ほどまでとは違い重たい空気。

　更には懲りすぎているお化け達。

　いくら鈍感とはいえど、これほど多くの不思議な事があれば何となく察しがついて来る。

「も、もしかして俺……」

「……」

　とうとう感づいてきたかと瑞希は思った。

　土井は自分の予想を瑞希に話す。

「これは……」

「……」

「夢だな！」

「………？」

　土井の答えに瑞希はがっくりと肩を落とす。

　しかし、土井には核心があった。

「だって、夢じゃなかったら、こんな幸せなことがあってたまるか！！」

「……」

　一体土井はどんな人生を送って来たのだろう？

　そんな事を瑞希は考えながら、土井の手を引いて再び先を急ぐ。

　ようやく屋上に繋がる階段にたどりついた土井と瑞希。

　しかし、屋上に繋がる階段は先が見えない程長く、薄暗かった。

「うん、やっぱり夢だな！」

「………」

　階段を見ながら土井は自信の予想が当たっている事を確信する。

　そんな土井の隣で、瑞希はどこか寂しそうな表情を浮かべる。

「どうした？」

「………」

　なんでも無いというように首を振り、土井に笑顔を見せる。

「そうか？　なら良いけど……」

　土井はそう言って階段を上り始める。

　すると、階段を少し上ったところで頭にどこかの光景が浮かび上がってきた。

「う……なんだ？」

　浮かんできた景色は学校の階段だった。

　女子生徒数人が一人の女子生徒を囲んでいた。

『ねぇ、アンタどういうつもり？』

『ちょっと調子乗りすぎじゃない』

　声まで聞こえてきた。

　土井は立ち止まり頭を抑える。

「なんだ……これ……」

　嫌な景色だった。

　その光景は女子生徒が虐められている光景だった。

　頭から水を掛けられ、髪を切られ、彼女は泣いていた。

「……これって……うちの高校か？」

　土井は教室の風景などから、自分の通う学校での出来事だと知る。

　この事が実際起きた出来事なのかはわからない。

　しかし、少女は誰からも助けられず、いつも一人で泣いていた。

　なぜだか土井は激しくイライラした。

　出来ることなら、いじめをしている奴ら全員を殴ってやりたい気持ちだった。

　そんな事を思っていると、突然風景が変わった。

　そこは学校の屋上で、時間は夜だった。

　虐められていた少女は、屋上の柵の外側に立っていた。

　少しでも動いたら、真っ逆さまに落ちてしまう。

　危ない！

　土井はそう叫びたかったが、そのまえに彼女が落ちていった。

「あ！　……はぁ！　はぁ……な、なんだったんだ……」

「……！」

　心配そうに土井を見る瑞希。

　土井は瑞希の顔を見てハッとした。

　屋上から少女が落ちる瞬間、少女の顔が見えた。

　そして、土井は気がついた。

　落ちた少女と瑞希の顔が一緒であることに……。

＊

「もう肝試しになんねーだろ！」

「まぁまぁ、良いからイチャイチャしてなさいよ～」

「私たちは気にしないから～」

　高志と紗弥はクラスの女子に囲まれ、からかわれていた。

　なんでも、男子が高志を仕留めようと全員で脅かし役に回ったため、女子は暇らしい。

　高志と紗弥は顔を赤らめながら、クラスの女子と話しをする。

「たく……とにかく、俺と紗弥はリタイアする」

「え～どうして？」

「当たり前だろ、暴徒が徘徊してる肝試しなんてごめんだぜ」

「え～でも紗弥は八重君と肝試ししたいよね？」

　高志から紗弥に話しを切り替えるクラスの女子。

　紗弥は顔を赤くしながら、高志の顔を見て言う。

「……も、もう少し……行こ」

「オーケーわかった」

「答え出すの早いわねぇ……」

「べた惚れね」

　高志は即答えを出し、紗弥と共にもとのルートに戻っていく。

＊

　高志達が中に入ったころ、付き添いでやってきた担任の大石は……。

「グー……グー……」

「先生寝てるね」

「疲れてるのかしら？」

　いびきをかいて寝ていた。

　しかも、自宅から持ってきた折りたたみの椅子に座って。

「ま、終わったら起こせば大丈夫でしょ？」

「そうね」

「でも、さっきからすごい電話鳴ってるけど、大丈夫かしら？」

　先ほどから大石のスマホは、何度も鳴っていた。

　昇降口前で肝試しが終わるのを待っていたクラスの女子達はそれが気になっていた。

「誰からかしらね？」

「もしかして先生のコレだったり？」

　そう言って小指を立てる一人の女子生徒。

「えー先生が？　ないわよ、ないない」

「そう言う話しも聞かないしね」

「一生独身って感じがする」

　自分たちの担任に散々言った後、またしても大石のスマホに電話が掛かってくる。

「ホントしつこいわね、誰からか見ていいかしら？」

「え、やめときなって、悪いわよ」

「大丈夫よ電話に出るわけじゃ無いし、それより誰からの電話か気になるじゃない！」

　そう言って一人の女子生徒は大石のスマホの画面を見る。

「え……ま、マジで……」

　電話の相手を見た瞬間、女子生徒は驚き、そのままフリーズしてしまった。