第22話



 夕方の18時過ぎ、学校の校門前には高志のクラスの生徒全員が集まっていた。

 あまりの出席率の良さに、高志は驚きながらもみんなノリが良いなと思いながら、久しぶりに会ったクラスメイトと話しをしていた。


「久しぶりだな、夏休み何してた?」


「俺はずっとゲーム」


「俺はずっと部活」


「俺はずっとバイト」


「まぁ、現実なんてそんなもんだよな……」


 クラスメイトの夏休みの過ごし方を聞き、高志は苦笑いをする。


「そういうお前はどんな夏休みを過ごしてんだよ」


「え、俺は……」


 高志は夏休み中の自分の一日の過ごし方を考える。

 午前中は紗弥と宿題をし、午後は基本紗弥と遊ぶ。

 高志自身も充実した夏休みの過ごし方だと感じていたが、他と比べると本当に充実している事がわかり、言うに言えない。


「ま、まぁお前らと同じようなもんだよ……」


「そうなのか? 俺はてっきり宮岡と毎日イチャイチャしてるのかと思ったが……」


「ま、まぁ……お互いにプライベートもあるしな……」


 嘘は言っていない、毎日イチャイチャはしていないと高志は自分に言い聞かせ、クラスメイトの話しを聞く。


「毎日会ってるなんて聞いたら、俺は高志をそこのプールに沈めてたかもしれない」


「俺は撲殺して、校庭に埋めていたかもしれん」


「お前ら……怖いよ……」


 高志がクラスメイトからの殺気を感じていると、優一がマイクを持ってみんなに話し始める。


「全員集まったなー、じゃあ二年三組の諸君、こんばんわ」


「「「こんばんわー」」」


「いきなりの招集にも関わらず、全員出席というノリの良さに感謝するぞ、独り身の諸君」


「「「余計なお世話だボケ!!」」」


「まぁ、余計な話しは放っておいて、肝試しのルールを始めるぞ~」


 優一はマイクを握り、肝試しのルールを説明し始める。

 ルールは学校の校門から入って、屋上のゴールまで決められたルートをたどって男女一組で行って帰ってくるというものだ。

 最初に脅かし役と脅かされる側に別れ準備をし、準備が出来たらスタートする。

 最初の脅かされる側が全員帰って来たら、役を交代しまたスタートという流れだ。


「屋上には屋上に行った証明のための黄色い紙が置いてあるから、それをちゃんと取ってくるんだぞ~、じゃあ最初の脅かし役をクジで決めるぞ」


 優一はクラスの全員にクジを引かせ、最初の脅かし役を決める。


「あ、高志と宮岡はちょっと待て」


「え? なんでだよ」


 高志と紗弥がクジを引こうとしたところを優一が止める。


「お前らカップルのために、俺が気をつかってやってんだ、おまえらは最初は脅かし役をやれ」


「ゆ、優一……」


「まったく、お前らバカップルには手を妬くぜ」


「ありがとう! 親友!」


「あぁ、気にするな………フフ」


「ん? なんか笑ったか?」


「いや、なんでもないさ。よし! 最初の脅かし役は集まれ!!」


「?」


 優一のかけ声によって、クラスは綺麗に二つに別れた。

 




「で……俺と紗弥はここで話しをしてれば良いのか?」


「そんなのでみんな驚くかしら?」


 校舎内に入った脅かし組は、各ポイントに散らばり脅かしかたの打ち合わせをしていた。

 ここでも高志と紗弥はセットで脅かし役をする事になり、優一から脅かす内容を聞いていた。


「暗くてしずかな教室から、急に話し声が聞こえてきたら怖いだろ?」


「まぁ、そうだが……」


「だろ? じゃあよろしくな」


「あ、おい!」


 優一は簡単に説明をすると、直ぐに行ってしまった。

 高志と紗弥は、二人きりになった暗い教室の中で、向き合って座っていた。


「はぁ……本当にこんなんでいいのかな?」


「でも、こう言う雰囲気だと、風の音でも怖くなっちゃうからね、結構効果あるかもよ」


「それもそうだな、じゃあ気長に誰かが来るのを待つか」


「そうだね」


 高志と紗弥は椅子に座り、話しをしながら人が来るのを待った。

 

「二人っきりで教室にいると、あの日を思い出すね」


「あの日?」


「私が高志に告白した日」


「あぁ、そうだな……あの時は本当にビックリしたよ」


「私もあの日はかなり積極的だったと思うよ。必死だったし」


「いきなり抱きつかれた時はビックリしたよ」


「だって……高志がうんって言わないから」


 二人は昔話に華を咲かせながら、人が通るのを待つ。

 しかし、一向に人が来る気配が無い。

 

「来ないな」


「そうだね……ねぇ……」


「ん? どうした?」


「二人っきりだね……」


「まぁ、最近はほぼ毎日じゃないか?」


「そ、そうだけど……こういうシチュエーションでは始めてというか……」


「ん? まぁ確かにそうだな」


「じゃあさ……あの……その……キスしても良い?」


「え!?」


 紗弥の言葉に高志は驚く。

 最近の紗弥は海で言ったとおりに、積極的になっていた。

 頻繁に高志にくっつき、甘えることも前より多くなっていた。

 それもこれも、高志が紗弥を不安にさせてしまったからなのだが、高志自身はこれで良いものかと悩んでいた。


「さ、紗弥……俺もしたいが……誰か来たら……」


「ダメ……?」


「い、いや……ダメとかじゃなくて……」


「じゃぁ……ん……」


「え……あ、いや……紗弥、ちょっと!」


 顔を近づけてくる紗弥に、高志は顔を赤くして戸惑う。

 

「嫌?」


「い、嫌とかじゃなくて……だ、誰か来たら……」


「いや、とっくに来てるわよ……」


「え?」


 高志が教室のドアの方に視線を向けると、懐中電灯を手に持ったクラスメイトの男子と女子が、顔を赤くしてドアの前で立っていた。


「「あ……」」


「あ……じゃねーよ!! ちゃんと脅かせよ! イチャついてんじゃねー!!」


「そうよ! そして早く続きをしなさい!!」


「出来るか!! さっさと行けよ!!」


 まさかの出来事に高志も紗弥も顔を赤らめる。

 最初のペアが行った後、高志と紗弥は俯き、互いに顔を伏せる。


「こ、こういう事があるから……」


「う、うん……ごめん……」


 気まずい雰囲気の中、高志は紗弥に言う。


「か、帰ったらな?」


「え……」


「だ、だから……帰ったら部屋で……な」


「あ……うん……」


 お互いに顔を上げ、再び見つめ合う二人。

 高志からの言葉がうれしかった紗弥は、頬を緩ませ微笑む。

 そんな紗弥の手を取り、高志はやさしく握る。


「紗弥……」


「高志……」


 見つめ合う二人。

 そんな二人元に再び……。


「イチャついてないで脅かしなさいよ!!」


「見てるこっちが恥ずかしいわ!!」


 二組目のペアがやってきてしまった。

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