第19話



「よーし帰るぞ~」


「「「あ~い……」」」


 高志達が海に来た日の翌日。

 みんな揃って朝は寝坊してしまった。

 その原因は、徹夜でトランプをしたことにあった。

 途中から追加された罰ゲームルールにより、ゲームは盛り上がり、夜中の三時までゲームは続いた。

 現在は昼近くになっており、一同は眠たい目を擦りながらホテルを後にする。


「誰だよ……負けた人が罰ゲームなんて言ったのは……」


「そのせいで寝不足だな……」


「由美華じゃなかったかしら? 罰ゲームって言い出したの……」


「ムキになったのは紗弥も同じよ……八重君に何をさせるつもりだったのよ……」


 一同は駅に向かって歩く。

 時折誰かが欠伸をする度に欠伸が別な誰かに伝染していた。

 

「とりあえず、向こうについたら飯食いにいくか」


「そうだな……俺と優一だけならラーメン屋でも良いが紗弥達もいるしな……ファミレスか」


「とりあえず、早く電車に乗りましょ」


 電車に乗った一同は疲れで直ぐに眠ってしまった。

 平日の昼間とあって、電車の中は空いており全員が並んで座ることが出来た。


「ん……」


 電車の揺れで高志だけが、目を覚ました。

 高志の隣には紗弥が高志の肩にもたれ掛かって眠っていた。

 紗弥の可愛らしい寝顔を見て高志は笑みを浮かべ、目を瞑ってもう少し眠ることにする。


「……良い旅行だったな……」


 また来年も来たい。

 そう考えながら、高志は眠りにつく。

 数時間後、高志達の地元の駅に到着した。

 電車で眠った事により、みんなスッキリした顔で電車を降りた。


「う~ん! よく寝ましたね!」


「まさか全員爆睡とはな……」


「ま、目も冷めたしお腹も減ったし、何か食べて帰りましょ」


 高志達はファミレスに行き食事を済ませて、それぞれ帰宅した。

 高志と紗弥はいつもの通りいっしょに家に帰っていた。


「楽しかったな紗弥」


「うん、いままでこういう経験無かったから、とっても楽しかったよ」


「そうだね」


 夕焼けの空の下を紗弥と高志は手を繋いで歩く。

 ようやく家の近くまで来た時だった、高志と紗弥の前方から誰かが猛スピードで走ってきた。


「な、なんだ?」


「ま、まさか……」


「え? 紗弥知ってるの……ってアレって……」


「紗弥タァァァァン!!」


 前方から猛スピードで走ってきたのは紗弥の父親だった。

 恐らく仕事から帰ったばかりなのだろう、スーツ姿に革靴だった。

 よく革靴であれだけ早く走れるなと感心しながら、高志は嫌な予感を感じていた。


「この害虫野郎ぉぉぉ!! 紗弥タンから離れろぉぉ!!」


「はいはい、貴方は少し落ち着きましょうね~」


「ぎゃひん!!」


「あ、紗弥のお母さん」


「おかえりなさい、紗弥と高志君。この人の事は任せて、ゆっくり帰ってきなさいね~」


 猛スピードで迫ってきた紗弥の父親を紗弥の母親が、フライパンで殴って止める。

 なんか前にもこんな事があったようなと考えながら、高志は紗弥の母親が父親を引きずって帰る様子を見守る。


「俺って……紗弥のお父さんから嫌われてるよな……」


「うちのお父さんは、私に寄りつく男全員が嫌いよ」


「まぁ……見てる感じそうだもんな……」


「気にしなくていいわよ。うちのお父さんは過保護なのよ……」


「でも……紗弥のお父さんには好かれたいかな……」


「え……なんで?」


「だって……その……いざ結婚ってなったときに、仲が良くなかったら大変だろ?」


「え……」


 高志の言葉に紗弥は頬を赤らめる。

 

「た、高志は……私とその……け、結婚したいの?」


「え、あ! いや……あの……も、もしもの時って言うか……」


「ふぅーん、もしもの時なんだぁ~」


「しょ、将来的にはそうしたいけど……」


「けど?」


「さ、紗弥さえ良ければって言うか……」


「わ、私は……高志が良いもん……」


 紗弥の言葉に高志は顔を真っ赤にする。

 紗弥も頬を真っ赤に染め、高志の手を強く握る。


「じゃ、じゃあ……あのお父さんと仲良くならなきゃだな……」


「それが多分最大の難関よ……」


「そうなの?」


「うちのお父さんを舐めない方が良いわよ……」


「何を?」


 話しをした後、高志と紗弥は別れそれぞれの家に帰って行った。

 

「ただいま~」


「おかえりなさい。どうだった? 楽しかった?」


「あぁ、楽しかったよ」


「ニャー」


「おう、チャコただいま。良い子にしてたか?」


「ニャン」


 玄関で高志を迎えてくれたのは、高志の母親とチャコだった。

 チャコは高志の足に体を擦りつけ、仕切りに鳴き声を上げていた。

 なんだかんだで、チャコは高志に一番懐いている様子だった。


「チャコちゃんは良い子だったわよ。この通り、高志に悪影響を及ぼす本を大量に見つけ出してくれたわ」


「俺のトップシークレット!!」


 高志の母親が見せてきたのは、高志が隠し持っていた十八禁の本。

 しかも気に入っていた物すべてが、高志の母親の手元にあった。


「ま、まさか! チャコお前!」


「にゃ~」


「チャコちゃんの後についていくと必ず見つかるのよね~、良い子なチャコちゃんにはおやつあげましょうね~」


「にゃー!!」


 チャコは直ぐさま高志の元を離れ、おやつの方に飛んで行く。


「チャコ……お前……」


 結局高志の本は紗弥に晒された挙げ句、ゴミと一緒に捨てられてしまった。

 紗弥は二度目とあってか、そこまで怒らなかった。

 海の帰りに高志が言った言葉のせいもあってか、すこしからかわれる程度で済んだ。

 高志の父親に至っては……。


「全く……誰ににたんだか……コレは父さんが責任を持って捨てて……」


「あなたの机からもこんなの見つかったけど?」


「………母さん、話せばわかるよね?」


「昔から趣味が変わらないわね……」


「やめて! 昔の事は言わないで!!」


 高志の巻き添えをくってしまい、隠していた本が見つかってしまった。

 

「「男ってつらい……」」


 親子揃って肩をがっくりと落として落ち込んだ、夏の夜であった。 

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