第17話

*



「なぁ、高志」


「ん、なんだ?」


 高志が風呂の湯に浸かっていると、優一が隣に座り話し掛けてきた。


「夏だぞ」


「夏だな」


「海だぞ」


「海だな」


「泊まりだぞ」


「泊まりだな」


「なんで、俺に彼女が出来ない」


 優一の言葉に高志は溜息を吐く。

 

「作ろうと思えば、直ぐに作れるだろ?」


「出来ねーから言ってんだよ……」


「芹那ちゃんは?」


「あいつは対象外だ」


「わがままだなぁ……良い子だと思うぞ?」


「良い子は好きな人を縛ったりしないんだよ!」


 風呂場には高志達以外にも多くの人が居た。

 だからか、少し大きな声を出しても高志達の声はそこまで響かない。

 

「まぁ、可愛いのは認めるけどよ……」


「お、優一がデレた」


「デレてねーって! でも、流石にあの性癖にはついていけねーよ……」


「お前、ちゃんとそれ芹那ちゃんに言ったか?」


「は、そんなのずっと……」


「お前が否定して来たのは芹那ちゃん本人だろ?」


「……あ」


 優一は誠実に言われて考え、少ししてハッと気がついた。

 そんな優一に高志は得意げに言う。


「だろ? 意外に言ったらお前の為にやめてくれるんじゃね?」


「そ、そんな訳ないだろ、あいつは根っからのドMだっつの」


 優一はそう言って、自分の顔にお湯を掛ける。


「う~ん……そうかな?」


 程なくして、高志達は風呂から上がり部屋に帰って来ていた。

 時間もそこまで遅くないので、高志と優一はお茶を飲みながら話しをしていた。


「あぁ~やっぱりデカい風呂は良かったなぁ~」


「だな、足を伸ばせるのが良いよな」


 雑談をしながら、二人は椅子に座り、買ってきたお菓子を食べてくつろいでいた。


「……」


「……」


「暇だな……」


「あぁ……暇だ」


「トランプでもするか?」


「二人で何するんだよ」


「それもそうか……」


 数分で早くも飽きが来てしまった。

 テレビも面白い番組がないし、話題も切れてしまい、流石に飽きてしまった。


「女子のとこ行くか?」


「うーん……秋村がなぁ……」


「さっき縛られたしな」


「そうなんだよなぁ……」


「じゃあ、いくか」


「待て待て」


 高志の行動を優一が止める。

 そんな優一に高志は不思議な顔で尋ねる。


「どうした?」


「どうしたた? じゃねーよ、俺の話し聞いてたよな?!」


「俺は紗弥に会いたい」


「ホントお前らバカップルな! 俺は行かないぞ! 寝る!」


 優一はそう言うと、ベッドに入りそのまま布団を被って眠ってしまった。

 

「頑固だなぁ……」


 高志は布団を被る優一にそう言うと、部屋を出て隣の紗弥達の部屋に向かった。

 ドア横の呼び鈴をならし、高志は返事を待つ。


「はーい……あ、高志」


「よ! 暇で遊びきたぞ」


「八重先輩! 優一さんは!? 優一さんは!?」


「芹那ちゃん、残念ながら優一は部屋で寝てるよ」


「うぅ……残念です……」


 あからさまに寂しそうな表情の芹那に、高志は笑みを浮かべポケットからカードキーを取り出す。


「そう言う訳だから、優一に会いたかったら、コレを使って部屋に入るといいよ」


「え! 本当ですか!! ありがとうございます!」


「はい、静かに入るんだよ、あと変な事はしちゃダメだよ」


「わか……まかりました!!」


「うん、今の間は気にしないであげるね。じゃあ、行ってらっしゃい」


「はい!」


 芹那は嬉しそうにカードキーを握って隣の高志と優一の部屋に向かった。


「高志も入ったら? どうせ部屋に帰れないでしょ?」


「まぁね、じゃあお邪魔します」


 高志は紗弥達女子に部屋に入る。

 女子が泊まっているだけで、なんだか良い匂いがする気がした高志。

 風呂上がりの紗弥に少しドキッとしながら、部屋の椅子に座る。


「なんか夏休みって感じでいいな」


「そうね、みんなといっしょで楽しいし」


「お二人さん本当にそう思ってる~?」


「いきなり何よ、由美華」


 高志と紗弥の話しに由美華はニヤニヤしながら入っていく。


「本当は二人きりで来たかったんじゃな~い?」


「そ、そんな事……あるけど……」


「み、みんなで来た方が楽しいだろ? それに俺と紗弥の二人だと……」


「いつもと変わらないでしょうね」


「「はい……」」


「毎日楽しそうで良いわね、あんたら」


 顔を赤くしながら答える高志と紗弥に、由美華はニヤニヤしながら答える。


「ほんと……妬けちゃうくらいに仲良しね……」


 ニヤニヤした表情から、由美華は一瞬寂しそうな目をして二人から視線を外す。


「これじゃあ、いつか紗弥は私にかまってくれなくなるのかしら?」


「それは無いわよ?」


「え……」


「由美華が居なかったら、誰が私の恋愛相談を聞いてくれるのよ」


 紗弥にしてみればどうって事ない言葉だった。

 しかし、由美華にとってはこれ以上無いほど嬉しい言葉だった。


「紗弥~、ありがと~可愛いわね~」


「えっと……あの由美華……く、苦しいんだけど……」


 紗弥の言葉に、由美華は感激して抱きついた。

 紗弥の頬に自分の頬を擦りつけ、紗弥の頭を撫でる由美華。

 高志はそんな由美華と紗弥の様子をそわそわしながら見ていた。


「大丈夫よ、紗弥は取らないから」


「え?!」


 高志の視線に気がついたのか、由美華が高志に言った。


「ま、まぁそれはさておきだ……何かしないか、暇でさ」


「あぁ、それは私達も話してたのよ、何か持ってきた?」


「トランプとかあとはタブレットかな?」


「じゃあ、大富豪でもしましょう、あれなら三人でも出来るわ」


「おう、それじゃさっそ……」


「ぎゃぁぁぁ!!」


 高志がトランプを取り出した瞬間、隣の高志達の部屋から大きな悲鳴が聞こえてきた。


「やっぱりか……」


「芹那ちゃん、何もしないと良いけど」


「また縛ってたりして~」


「ま、あいつなら大丈夫だろ。トランプしようぜ」


 高志はそう言って、紗弥と由美華にトランプを配り始める。

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