第15話

「えっと……村上さんだっけ?」


「うん、覚えてくれてたんだ!」


「ま、まぁね……」


 相変わらずぐいぐい距離を詰めてくる夢に、高志は身を引く。

 どうやら友達と来ているらしく、後ろの方には同級生らしき人たちが見える。


「どこに泊まってるの? それとも日帰り?」


「あぁ……あそこのホテルに…」


「そうなんだ! 明日帰るの?」


「あ、あぁ…その予定だけど……」


「そうなんだ……残念」


「アハハ……じゃあ俺はこれで……」


 そう言って立ち去ろうとする高志だったが、夢に服の袖を引っ張られ、足を止められる。


「えっと……何かな?」


「あ、ごめん……つい……」


 こんなところを紗弥に見られたらまずいと高志は思いながら、なんとか夢を振り切る方法を考える。





 高志が外に行く数分前……。


「あれ? 高志は?」


「宮岡か……高志は歩いて来るって言って外に行ったぞ。まだその辺に居るんじゃないか?」


「そっか、ありがと」


 紗弥は優一から話しを聞き、高志達の部屋を出てホテル内を探す。

 紗弥は何となく高志と二人きりになりたかった。

 ただそれだけだった。


「いない……」


 ホテル内を一通り探し終えた紗弥は、もしかして外のコンビニにでも行ったのでは無いかと思い、ホテルの外に出る。

 目の前は海で、ホテルを出て左に真っ直ぐ歩いていくと、五分くらいのところにコンビニはあった。


「……いないなぁ……」


 コンビニにも高志はおらず、紗弥はとぼとぼとホテルに戻っていた。

 その途中、ふと海の方を見てみると、砂浜からホテルに帰る途中の高志が見えた。


「あ、高……し……」


 しかし、そこに居たのは高志だけでは無かった。

 

「あの子って……」


 高志の近くにはもう一人、この前カラオケで見た女の子が近くにいた。

 




「いや、俺もう部屋に帰って風呂に入ろうと……」


「あ、あのさ……私、高志君の連絡先教えてもらってるんだけど……」


(あぁ……確か優一が勝手に教えたんだったな……)


 高志はそういえばそうだったと思い出す。

 夢はそんな高志を他所に話しを続ける。


「こ、今度……電話しても良いかな?」


「あぁ……いや……その……」


 ここは、この子とこれ以上深く関わるのはこの先色々とまずいかもしれないと思い、はっきりと言うことにした。


「いや、あの……ごめん、悪いんだけど俺って彼女居るし……」


「うん、知ってるよ」


(知っててなんでグイグイくる……)


「いや……だから、そう言うのは彼女が不安になるから……極力……」


「たまに、本当にたまにで良いから!」


「え……あ、いや……」


 必死にそう頼んでくる夢に、高志は困ってしまった。

 なんでそんなにこの子は必死なのだろう?

 そんな疑問を抱きながら、高志はたまにならという条件で連絡を許可した。


「じゃあ、悪いけど友達まってるから……」


「うん、またね!」


 夢は高志にそう言って、友達の元に帰って行った。

 高志もこんなところを他の誰かに見られてはまずいと、早々とホテルの中に帰って行く。


「高志」


「え……」


 ホテルに入る直前、入り口前で高志は紗弥に呼び止められた。

 高志は背中から脂汗が噴き出すのを感じた。

 まさか見られた!?

 なんて事を思いながら、高志は緊張しながら紗弥の言葉を待つ。


「来て」


「え、ちょっと!!」


 紗弥は高志を連れて人気の無い砂浜に向かう。

 無言で黙々と歩いて行く。


「さ、紗弥……どうしたんだ!?」


「良いから……」


「いや、ホテルに戻って話しを……」


「高志!」


「は、はい!」


 紗弥は突然大声を出し、足を止める。


「もうやめたの私……」


「え? な、何を……ですか……」


「多分、私すっごいわがままを今から言う」


「は、はぁ……」


「私、高志とずっと一緒に居たい」


「えぇ!? あ、あの……そ、それはお、俺も……」


「だから、本気出す」


「はえ?!」


「私の力で高志を私のものにする」


「い、いや……あの……俺はもう紗弥のものって言うかあの……」


 紗弥の男らしい発言とは対照的に、高志は紗弥の言葉に顔を赤らめながら答える。

 

「高志……」


 紗弥は高志の顔をガシッと掴み、自分の顔の方に持ってくる。

 そして、紗弥は高志の唇を奪う。


「ん?!」


 高志は紗弥の突然の行動に驚き、思わず声を出してしまう。


「な、何を!?」


「だから言ったでしょ、私も本気出すって……」


「ほ、本気?」


「高志は誰にも渡さない……私が繋ぎ止める!」


 紗弥のテンションに高志はついていけない。

 しかし、高志にも一つだけわかった事があった。

 

「とりあえず、さっきのは見てたんですね……」


 高志は頬を赤らめたまま、真剣な表情の紗弥にぽつりと呟く。





「さ、紗弥さん?」


「何?」


「お、怒ってます?」


「怒ってない」


「いや、でもさっきから全然笑わないし……」


「怒ってない」


 紗弥と高志は、海辺の堤防に座っていた。

 紗弥からの突然のキスに、高志は驚き帰るに帰れなくなってしまった。

 紗弥は高志にがっしりとしがみつき離れない。


「本気出してるだけだもん……」


「いや、あんまりいつもと変わらないような……」


「え、ほんと?!」


「いや、こっちが何が違うか聞きたいよ……」


「う……だって……こうしないと高志が取られる……」


 不安そうな表情でそう言う紗弥に、高志は思わずドキッとした。


(いや、こんな顔されたら、絶対離れられないから……)


 なんて事を思いながら、高志は紗弥の手をそっと握る。


「また、不安にさせちまったな……」


「……高志が意外にモテて困る……」


「モテないし、紗弥からさえ好かれてれば、俺はそれで良いよ」


「でも……やっぱり不安になる……」


「大丈夫、俺は紗弥以外にはなびかない……絶対に」


「……うん」


 紗弥は高志が握ってきた手を握り返し、肩に頭を乗せて寄りかかる。

 

「花火……買ってくればよかったな……」


「うん……今度、二人でしよ」


「そうだな」

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