第13話

「そ、それにしても熱いな……」


 高志はチラチラと隣の紗弥を見ながらそう切り出した。

 他の三人は、既にどこかに行ってしまった。


「じゃあ、海入る?」


「こ、この年になって海で目一杯泳ぐってのもな……」


「良いじゃ無い、それとも泳げないの?」


「人並みには泳げるよ」


「じゃあ、行こ!」


「え、ちょっと!?」


 高志は紗弥に手を引かれ、海の中に入っていく。

 紗弥はパレオとパーカーを脱ぎ、高志を海の中に誘う。


「うわ! 意外に冷たいな……」


「気持ちよくて良いじゃ無い、それ!」


「うわ! 冷たっ! 紗弥、やめろって」


「アハハハ!!」


 楽しそうにはしゃぐ高志と紗弥。

 そんな二人を焼きそばを食べながら、鼻血を出して見守る女子が居た。


「はぁ……ビーチではしゃぐ紗弥……可愛すぎ!!」


「由美華先輩も好きですね~」


 二人の様子を見ながら、由美華と芹那は焼きそばを食べる。


「仲良いですね~あの二人は」


「そうね~羨ましいわ~」


「……由美華さんは、好きな人に恋人がいても良いんですか?」


「ん? まぁ私の場合は絶対に実らない恋だから……」


「す、すいません! そんなつもりでは!」


「良いのよ、私が一番良く知ってるから……」


 悲しそうな顔をしながら答える由美華。

 そんな由美華を見て、芹那はこんなことを言うべきでは無かったと後悔する。


「ご、ごめんなさい。せっかく海に来たのに……こんな話しを……」


「良いのよ、変なのは私だし……女の子が好きなんて、自分でだっておかしいと思ってるわ、でも最近気がついたの……」


「え?」


「紗弥が幸せなら、私も幸せだって……だから、このままで良いのよ」


「……先輩は強いですね」


「そうでないとやってけないわよ~、早く食べましょ」


「……そうですね」


 芹那はいつもの調子で話す由美華を見て、自分も笑みを浮かべる。

 恋は人それぞれなのだと、このとき芹那は学んだ。

 一方で、海の中で戯れていた二人は……。


「高志」


「はい……」


「なんで、鼻血出してるの?」


「なんでもございません」


「さっき私を支えてくれた時に、どこかに鼻ぶつけた?」


「違います」


「じゃあ、なんで?」


「察して下さい」


「?」


 不思議そうに高志を見ながら、紗弥は首を傾げる。

 なぜ高志が鼻血を出しているのか、それはすこしだけ前に遡る。

 足を滑らせ、転びそうになった紗弥を高志が支えたのだが、その体勢に問題があった。

 紗弥を正面から受け止める形で支えた高志の腹部に、非常に柔らかい感触が二つ当たってしまった。

 いつもより布の面積が少ない上に、着ている物は布一枚だけ。

 そんな事を考えてしまった高志は、自然と体が反応してしまった。


「大丈夫? 熱中症? 一回上がろうか」


「あ、あぁ……その方がよさそうだ。そして紗弥は早くパーカーを着るんだ」


「? なんでパーカー?」


「良いから……あとパレオも……」


 高志は沖に上がる間、ずっと紗弥を直視出来なかった。

 




「………」


「まぁ……アレだ……人間誰しも向き不向きがある」


「同情するなら女をくれ!!」


「やらねーよ」


 戻ってきた優一は、ナンパに失敗し精神的にダメージを負って帰ってきた。

 喧嘩は強いのに、メンタルは豆腐みたいな奴だなと高志は思いながら、呆れた表情で優一を見ていた。


「くそ!! なんで俺はモテないんだ!!」


「ガツガツしてるからじゃないか?」


 ちなみに紗弥達女性陣は、皆でかき氷を食べに行っている。

 高志と優一は、ビニールシートに座りながら、飲み物を飲み話しをしていた。


「大体、お前には芹那ちゃんが居るだろ?」


「ふざけるな、俺とあいつが付き合う可能性は無い!」


「おまえ、そんな事言ってると一生彼女なんて出来ないぞ?」


「居るわ! 頑張れば、俺だって彼女の一人や二人……」


「無いって」


「そんな顔で言うな!!」


 高志の可愛そうな人を見るような視線に、優一は青筋を立てて高志を怒鳴る。

 そんな事をしていると、紗弥達女性陣が帰ってきた。


「ただいま~」


「おかえり、食べてきた?」


「うん、はいラムネ飲む?」


「うん、ありがと」


 高志は紗弥からラムネを受け取りそれを飲む。 

 しかし、それを見た優一は……。


「爆発しろリア充が! 何自然と間接キスとかかましてくれてんだ!!」


「「あ」」


 優一の言葉で二人は気がつき顔を赤らめる。

 それを見た優一は再び……。


「初恋か!!」


 紗弥と高志にツッコミを入れる。

 

「なんなんだ! この悲しい夏は!! 俺にも青春させろ!」


「勝手にしろよ……なにキレてんだよ」


「うるさい!」


「じゃあ優一さん! 是非私と青春を!!」


「そんな汚れた青春は嫌だ!」


「酷い!!」


 そんなこんなで、一同は海から上がり。

 今夜止まる場所に向かい始める。


「ところで今日はどこに泊まるんだ?」


「近くのホテルだよ、そこの割引券貰ったからな」


「だから、宿泊費が安かったのか……」


 一同は荷物を持ってホテルに向かう。

 到着したホテルは、真新しい綺麗なホテルだった。

 夏だからか、他にも沢山のお客さんが居た。

 フロントで鍵を貰い、高志達は部屋に向かう。


「えっと、女子の三人はこっち。俺と優一はこっちだな」


「わかったわ」


「優一さんと部屋は別ですか……」


「普通だろ」


「今から部屋取るか? 俺は一人部屋でも良いし」


「私、フロントに聞いて来る?」


「なんで皆してノリノリなんだよ!! おかしいだろが!!」


 結局部屋は男女で別々とし、夕飯まで体を休めることになった。

 高志と優一は部屋に荷物を置き、ベッドに横たわる。


「あぁ……なんか色々疲れたな……」


「俺はなんか精神的に疲れたよ……」


「スポドリ飲むか?」


「飲む」


 高志は優一にスポーツドリンクを渡す。

 渡されたスポーツドリンクを優一は勢いよく飲み干し、深く息を吐く。


「はぁぁぁ~……美味い」


「それは良かったな」


「美味いついでに聞いていいか?」


「なんのついでだよ……」


 

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