第3話
*
テスト最終日、高志はテストをすべて終えて、教室で優一と話しをしていた。
「文化祭のあの日から、秋村がしつこい」
「いきなり何だよ……」
溜息交じりに優一の話しを聞く高志。
教室の中は、テスト最終日の為、高志と優一以外は誰も残っておらず、みんなテストからの開放感で直ぐ教室を後にし遊びに行ってしまった。
そんな中、高志は職員室に用がある紗弥を待っていたのだが、優一に見つかり愚痴を聞かされていた。
「最近あの女がしつこいんだよ! 俺が行くとに必ず湧いて出て来やがる……」
「そんな虫みたいに言うなよ……」
文化祭の時、優一は調子に乗って芹那と賭けをし負けてしまった。
結果として賭けは無しになったのだが、優一と芹那の間に何かがあったらしく、最近の芹那は積極的に優一にアプローチを掛けていた。
「可愛くて優しいし、おまけに成績も優秀って聞いたぞ? 何が不満なんだ?」
「その良いところすべてを台無しにするほど、ドMなところだよ」
「ま、まぁ……確かにあの子は結構……ガチだよな……」
「あぁ……この前なんて俺に縛り方の希望まで出してきやがった……」
「お前も苦労してるのな……」
彼女が欲しいと良いながら、言い寄ってくる後輩の女の子からのアプローチをことごとく避けている優一。
相手の趣味が趣味なだけに少し同情してしまう高志。
「それより、テストも終わった事だしよ、クラス奴らに恋人を紹介しないとな」
「え、マジで紹介するのか?」
「当たり前だ、こんな事で俺の信用を落としてたまるか」
「噂の発信源である以上、信用なんて無いと思うんだけど……てか、全員に紹介なんてできるのか?」
「そんなの俺の人脈を使えば楽勝よ」
「その人脈で彼女を探そうとは思わなかったのかよ……」
強い日差しが教室の中を照らし、窓の外ではセミが大きな声で鳴いている。
そんな教室の中で雑談をしている高志達の元に、紗弥が用事を終えて戻ってきた。
「お待たせ高志」
「全然待ってないよ」
笑顔でそう言う高志。
優一はいつもの二人のやりとりを見て、相変わらずだなと笑みを浮かべる。
「じゃあ、お邪魔虫は帰りますわ~」
「え、お前も途中まで一緒に帰ろうぜ」
「いや、おまえらカップルと帰れとか、軽く罰ゲームだから」
優一はそう言って鞄をつかみ取り、教室を後にする。
教室には高志と紗弥の二人きりとなった。
「じゃあ、俺たちも帰ろうか」
「ん……その前に……ちょっとお願い」
「ん? どうかしたか?」
「誰も居ないよね?」
「うん」
「二人っきりだね」
「うん」
「……ちゅーしたい……」
「うん?」
紗弥の言葉に高志は一瞬考え、言葉を理解して顔を赤く染める。
言った本人の紗弥も高志同様に顔を赤くしていた。
「ダメ?」
「え…あ、いや……その……」
高志的にはむしろ大歓迎なのだが、正直わからない。
高志と紗弥が初めてキスという行為をしたのは、文化祭での一回だけ。
紗弥を大切にしようと心に決めている高志にとって、こんな頻繁にそう言う行為をしても良いのかと頭を悩ませる。
「ねぇ……だめ?」
「うっ……」
ワイシャツの裾をつまんで、俯き気味にそう言って来る紗弥。
そんな紗弥を高志は可愛いと思い、考えるのをやめた。
「えっと……い、いいよ……」
「じゃあ、ん……」
紗弥は高志を見上げ、目を瞑る。
高志はそんな紗弥の肩に手を置き、紗弥の唇に自分の唇を近づける。
時間にして数秒、高志と紗弥は唇を重ねていた。
その数秒が当人達には何時間にも感じられ、終わった後は一瞬にも感じた。
「ん……ありがと、わがまま聞いてくれて」
「い、いや……俺は全然……てか、急にどうしたんだ?」
「ん、さっき芹那ちゃんと会って、キスってどんな感じですか? って聞かれたから、もう一回して思い出したかったの」
「あ、そう言う事……ん? 秋村が居たって事は……優一は……」
「多分昇降口で捕まってるんじゃないかな?」
そう話しをしていた瞬間、昇降口の方から優一の絶叫と芹那の声が聞こえてきた。
「秋村も頑張るな……」
「私は応援してるけどな……なんでダメなんだろ?」
「まぁ……人によって好みは別れるからな……」
優一の絶叫を聞きがら、高志は紗弥に言う。
「帰るか」
「うん、久しぶりに遊べるね」
「クレープでも食べて行くか?」
「うん! じゃあ行こ!」
そう言って紗弥は高志の手を引いて歩いて行く。
しかし、この二人はまだ知らない。
この夏休みに起こる出来事を……。
*
「……で、あるからして。夏休みといえど、節度ある行動を……」
蒸し暑い体育館の中で、高志は学校の終業式に参加していた。
首筋に流れる汗をタオルで拭きながら、高志は前の優一に話し掛ける。
「なぁ、なんで校長の話しってこんな長いの?」
「俺に聞くなよ。年寄りは話し好きなんだよ……にしても暑いなぁ……」
「熱中症とかになったら洒落にならないぞ、早く終わらねーかな……」
ワイシャツの胸元をパタパタさせながら、高志と優一は言う。
周りの生徒も気持ちは同じようで、もう校長の話を聞いている生徒なんて居ない。
「それよりもお前はこの後どうするんだ?」
「ん? まぁ、普通に紗弥と帰るかな?」
学校は終業式で午前中で学校は終わり。
明日から夏休みと言う事もあり、生徒の多くはこの後遊びに行く算段を始めていた。
「今日は俺に付き合えよ」
「え、嫌だよ。紗弥と居たい」
「お前……すっかりべた惚れだな……」
数ヶ月前の高志と今の高志を比べ、優一は呆れた様子でそう言う。
「文化祭の時助けてやったろ? 少しで良いからよ」
「うーん……それを言われるとなぁ……」
「よし! 決定な! じゃあ、学校終わった直ぐに行くぞ」
「何所に?」
「行くぞ!」
「だから、ど……」
「行くぞ!!」
「う、うん……」
行き先を聞けないまま、終業式は終わり、あっという間に放課後になった。
高志は紗弥に、今日は一緒に帰れない事を話す。
「そういう訳なんだ、ごめん!」
「気にしないで、高志にも友達との付き合いってあるもんね」
「本当にごめんね、夜は俺の部屋に来なよ」
「うん、そうする」
そんな話しをしていると、クラスの女子数人がやってきた。
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