甘え上手な彼女2 夏編
Joker
プロローグ八重家の日常
第1話
私には息子が一人居る。
言ってしまえば、学力、体力、性格、すべてが普通な優しい息子だと私は思っていた。
しかし、最近もの凄く可愛い彼女が出来た。
裏手の家の同じ高校の女の子なのだが、良く出来た子で性格も凄く良い。
息子も彼女を大切にしているようなのだが、私は一つ心配な事があった。
「あの子……やることはやってるのかしら?」
「いきなりどうしたんだい?」
リビングで新聞を読む旦那が、不思議そう顔で尋ねてくる。
「高志と紗弥ちゃんの事よ、もう付き合って、三ヶ月になるわ、そろそろやっちゃうんじゃ無いかと思って……」
「何をだい?」
「子作り的な?」
「………」
旦那は新聞を畳み、溜息を吐くと私を見て呆れた様子で話す。
「母さん、高志はそれなりに誠実な子だと僕は思ってる。いくら何でもそれは……」
「でも、お父さんが私としたのも今の高志くら……」
「とにかく! そう言うのは本人達の問題だ! 口を出さない! あと、昔の話しはしない!」
旦那は無理矢理会話を断ち切り、新聞を持ってどこかに行ってしまった。
「もう、お父さんは! 子供が出来たらどうするのよ!!」
私はそう言いながら、お菓子と飲み物を準備して、息子の高志の部屋に向かう。
今日は二人で遅くまでテスト勉強をしており、今も部屋で二人で勉強している。
文化祭が終わったばかりなのに、学生も案外大変なんだなと私は思いながら、お菓子とお茶を持って二階に行く。
すると、ドアの前に立って、ノックしようとすると、何やら変な声が部屋から聞こえてきた。
「た、高志……ちょっと痛いよ……」
「あ、いやごめん……俺こう言うの女子にした事なくて……」
「ん……はぁ…もう少し上の方……」
「こ、こうか?」
「やん!」
「あ、い、痛かったか?!」
「そ、そうじゃないの……急に強くされてビックリしただけ……」
「そ、そうか……じゃあ、続けるぞ?」
「う、うん……はぁ、あ……あう……はぁ……」
「気持ちいか?」
「う、うん…あ……高志、上手だね……はぁ……」
私はドアに耳をあて、そのまま硬直する。
恐れていたことが、いままさに、ドアの向こうで起こってしまっていた。
まさかあの奥手な高志が、こんな時間から、しかも親が下に居るのにも関わらず!!
声を聞く度、こちらの方がドキドキしてきてしまう。
最近の高校生は大人びていると聞くが、まさかこれほどとは!
これは親として止めるべきなのか、私は悩む。
しかし、私も今の旦那とのはじめては高校生の時!
自分の事を棚に上げて、息子の人生の一大イベントに口を出しても良いものだろうか?
いや! それとこれとは話しが別だ!
息子に間違った人生を歩ませない為にも、ここは心を鬼にして言わなければならない!
私はドアノブに手を掛け、高志の部屋の扉を開けた。
「な、何をしてるの!! アンタた……ち?」
「「え?」」
部屋の中に居た、息子と息子の彼女の宮岡沙耶は、別にベッドに居た訳でも裸だった訳でも無かった。
「あ、あんた達……一体何をしてるの?」
「え? いや、紗弥が肩がこったっていうから、肩をもんでたんだけど?」
息子は彼女の背後に座り、肩を掴んでいた。
「勉強してると肩こっちゃって、ありがと高志」
「別にいいよ、こってるって言ったけど、肩プニプニだったぞ?」
「そう? てか、その言い方はやめてよ、太った見たいじゃない」
「ごめんごめん。それで母さんはどうかしたの?」
私は勝手に想像していた自分が恥ずかしくなり、無言でお茶とお菓子を置く。
そしてドアノブに手を掛け、再び二人を見て言う。
「高志、紗弥ちゃん……」
「どうした?」
「なんですか?」
私はエプロンから、高志に前々から渡そうと思っていた物を取り出し、高志に渡して言う。
「避妊するなら、私は良いと思うわ」
「なんの話しだよ……ってかこれって! コン……」
「さようなら!」
「おいコラ! この空気どうしてくれんるんだよ! ババア!!」
私は息子にいわゆる、避妊しないようにする魔法のゴムを手渡し、その場をダッシュで後にした。
今日も私の息子と将来の娘は、仲が良くて私は安心した。
「ふぅ~……これで大丈夫ね!」
「な、なにがだい?」
リビングに戻ると、旦那が驚いたような表情で私にそう言って来る。
「お父さん……やっぱり当人同士の問題よね、恋愛って…」
「……君は何を言っているんだい?」
旦那は不思議そうな顔で私に尋ねる。
今日も八重家は平和であった。
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