デートの始まり

ツンデレ in 遊園地

 とある休日の遊園地の中。


 「つ、ツンデレなんだからね……!」

 「そうですか?」

 「そ、そんなんだからね……!」

 「分かりました」


 手をバタバタさせ、不慣れなツンデレという属性を行う小柄のクール少女に対し、事務的に答える長身インテリ眼鏡。

 だが互いの目は、一の字に・をくっつけたような目になっており、一体何を考えているか周りからは全く分からない、そんな雰囲気が漂っていた。


 事の始まりは、自称恋愛マスターのジュンコが「日曜日、アオイとデートしないと不幸になるぞ〜!」と脅しをかけたのが始まりである。

 そして、龍徳寺は無言でコクリと首を上下に降り、デートを行う事になった。

 そんな自称恋愛マスターは前日、アオイに連絡用のトランシーバーと《実録、これさえやれば、男が落ちるモテ属性》と書かれた本を渡し、当日影からサポート?するつもりだったが、残念ながら当日、不良教師の高岡に捕獲され、あえなく前線離脱となった。


 その為、恋の疫病神無しでの二人でのデートとなったのだが……。


 キャーーキャーー。

 「じ、ジェットコースターなんだからね……!」

 「そうですね」

 「の、乗りたくなんかないんだからね……!」

 「分かりました」

 ワーーワーー。

 「こ、コーヒーカップなんだからね……!」

 「そうですね」

 「の、乗りたくなんかないんだからね……!」

 「分かりました」


 ずっとこの調子なのである。

 片方はツンデレ口調で手足をバタバタ。

 もう片方は同じトーンで同じ言葉を繰り返すだけ。

 その異様な光景に、他の観客から不思議そうな目線を集めながら、二人は歩き続ける。

 そんな二人の前に。


 「ハーイ、僕トラニャンコ! 君たち、記念撮影していかないかーい?」


 そう言ってトラのマークのパンツを履いたトラ猫のマスコットが二人の前に立ち塞がる。

 そんなマスコットにツネヤスは。


 「なんで猫がトラのパンツを履いているのですか?」


 と、大変答えづらいマスコットへの質問を容赦なくぶつける。

 だが相手もプロなのだろう。


 「そ、それはこのトラ柄パンツがお気に入りだからさ!」


 と、普通に見れば素晴らしい返し。

 だが、この返しはこの二人には不味かった。

 その言葉に反応したアオイは、トラニャンコに近づき、トラパンツの匂いをくんくん嗅ぐと、両手を慌ただしく振りながら。


 「あ、汗臭い匂いがする訳じゃないんだからね……!」


 と、ローテンションでの余計な一言。

 だがそれにもめげないトラニャンコは。


 「はっはっは……、お気に入りだからね、ついうっかり毎日履いちゃうんだ!」


 と、またもや模範解答的な答え。

 だが、この答えもこの二人には逆効果となってしまう。


 「毎日履き続けると、雑菌が繁殖し、皮膚病の恐れがあります。 また、皮膚病によっては人に感染する可能性が……」


 と真面目な解答をするツネヤス。

 おかげで周りはなんとも言えない空気が流れ出す。

 《感染》という言葉を気にしてか、先ほどまで目を輝かせていた子供達は、それぞれの保護者の後ろに隠れ、その保護者達は汚らわしい目でトラニャンコを見る。

 そして、そんな周りの空気など全く意に介せず、相変わらず一に・をつけたような目で見つめる高低差カップル。


 そして、そんな空気に耐えられなくなったのか。


 「う、うわぁぁぁぁ!」


 そんな情けない声を上げて、トラニャンコは走って逃げていくのであった。


 …………。


 その後、二人は近くにあったレストランへ立ち寄ると。


 「お腹すきましたね」

 「ご、ご飯を食べても良いんだからね……!」


 と言うやり取りを行い、レストランの中へ、なおこの時遊園地内では「コードネーム凸凹、レストランに接近、注意されたし!」と無線で連絡されていた事を捕捉しておく。


 二人が入ったレストランは《レストラン、風の憩い場》と言う名のお洒落なレストラン。

 内装は、木材を中心とした大人のレストランといった感じ。

 そして店内は、ほのかな木の香りに包まれ、それに混じって美味しそうな料理、特ににんにくの香ばしい匂いが食欲を刺激する。

 そんなレストランに二人が入るや否や。


 「いらっしゃいませ、お二人様ですね、こちらへどうぞ〜!」


 と若い店員が早口でそう述べると、手早く奥の個室へと案内される。

 中は畳が敷かれた和風の部屋、コサシと書かれた謎の掛け軸が印象的か?

 そんな個室に腰掛けた二人はメニューを開くと何を食べるか静かに選び始める。

 そして、互いに選ぶ内容が決まったのかほぼ同時にメニューを置き、それを見たツネヤスは口を開く。


 「何を食べますか?」

 「わ、和風ハンバーグセットを食べたい訳じゃないんだからね……!」

 「では、何を食べたいですか?」

 「わ、和風ハンバーグセットを食べたい訳じゃ……」

 「それは分かってますよ、何を食べたいですか?」

 「//////」


 流石にツンデレでは伝わらないと悟ったアオイは、顔を赤く染め、頭からシューっと蒸気を上げながらも、表情を変えず静かに和風ハンバーグセットを指差す。

 そして、それを確認すると、ツネヤスは店員を呼ぶ為、呼びベルを鳴らす、すると。


 「大変お待たせ致しました! ご注文は何でしょう!」

 「全く待たせてないですよ」


 間髪入れずやってくる先ほどの店員。

 それもそのはず、二人のいる個室の入り口横で待機していたのだから。


 「あ、あはははは! 一本取られたなぁお客さん! では注文をどうぞ!」


 早口なのをさらに早口で述べる店員。


 「和風ハンバーグセットを二つお願いします」


 そんな店員を見つめながら、淡々と注文するツネヤス。


 「和風ハンバーグセット二つですね〜分かりました、ハンバーグセット二つ入りました〜」

 「「「っあーい!」」」


 そして、早口の店員がそう言い終わると、体育会系の雰囲気漂う返事が店内を覆った。


 結局その後二人は、何かある訳でもなく、淡々と食事し、淡々と遊園地を歩き、淡々と解散したのであった。

 そして、その報告を聞いたジュンコは「あー、やっぱり私が行くべきだった」と悔しそうな声を上げるのであった。

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