9:芸術 宇宙船
【発掘レンガ】
7000201 DNA技術による肉体改造技術の現在
医科大学助教授 ダイアナ・ポインター
700年代に突入しましたが、我々の技術はまだ未熟です。
古代文明の文献には超人的な力を持つヒューマンが記録されています。
しかし超人的な力を持つビースターの作成という課題は、ハードルが高いのが現状です。
ミュータントの作成方法も謎のままです。突然変異を待つしかないのでしょうか。
ここ20年の我々のDNAの改変技術は、放射線耐性の微小の強化、数種の病気の抑制、それによる6年ほどの平均寿命の伸びにとどめています。
人類の残した植物のDNA改造の再現は成功しました。
草食系の食料は生産量が大幅に改善されました。
最近は備蓄量も増大しています。
未だ、超文明に存在したヒーローと呼ばれる超人は、我々の中には一人も生まれていません。
未だ、DNA改変による超能力の開化も成功を見いだせていません。
ヒューマンの肉体だけに可能な能力なのではないか。
我々の肉体ではヒーローは作れないのではないか。
多くの研究者はそう見ているようです。
世界各地から見つかったヒューマンのイラスト資料があります。
そこには、空を飛ぶヒューマンなどが書かれています。
超能力を使えるものがごく少数いたとか多数いたとか推測されています。
DNA改造による兵器人間が存在したとか推測されています。
また、宇宙船の資料や巨大ロボットの資料なども発見されています。
ですが、その実物はまだ発見されていません。
それがDNA技術の秘密を握っている可能性があります。
分厚い氷河の下に秘密基地が隠されているという学説もあります。
月に宇宙基地があるという学説もあります。
地上から巨大望遠鏡で月を見る限りでは、月面には宇宙基地を発見できていません。
しかし、月の裏側に作られたという説と、やはりこれも地下の秘密基地タイプであるという説が、新しく有力な学説として出てきました。
ヒューマンは、宇宙人とコミュニケーションしていたという記録もあります。
我々は月に行く技術の発掘と解明を進めます。
同時に、ヒューマンがコンタクトを取ったであろう宇宙人の訪問を待っています。
《芸術》
「なぜビースターは、ヒューマンの絵や小説に書かれていることを、そのまま信じたんだろう。」オオタが言った。
今日は宿舎のロビーで暇をつぶしている。
「彼らは無能だとか低能だとか、そんな言葉を言った時点で学者として失格だな。」ツキモトが最初に方向性を示す。
「もっと論理的な分析をしないとな。」オオタが答える。
「ビースターはヒューマンの残した遺物に書かれている事の、嘘と真実を見抜いていないな。」ツキモトが言う。
「なぜ見抜くことが出来ないのか、ってことだな。」
「根底にあるのは想像力の欠落だと思うんだ。」ツキモトが言う。
「いい視点だな。」
「フィクションとノンフィクションを理解していない。」
「もっと言えば、フィクションという概念が分からない。」オオタが言う。「そんなことってあるか?」
「そうだな、彼らには芸術がない。」ツキモトが言う。「芸術というのは想像力の1点突破だとも言えるし、その想像したものを作るために技術開発が発展するという側面も持つ。」
「レンガに刻まれた小説や絵はヒューマンの物ばかりだ。」オオタが言う。
「ビースターの姿を写した絵は、精密画だ。写真なのかもしれない。」ツキモトが言う。
「ビースターの物語らしきものはあるが、報告書じみている。」オオタが言う。
「おそらく実際にあった出来事を忠実に書き残したものだな。」ツキモトが言う。
「ひとつ面白いのがあってさ、ビースターの警察と探偵が手を組んで凶悪犯を捕まえるやつなんだけどさ、最後に探偵が名推理で解決するんだよね。」オオタが興奮して話す。
「名推理はいいとして、問題は彼らになぜ芸術が無いのか。」ツキモトが話を戻す。
「名推理の話はさせてもらえないのかよぉ。」オオタが悲しそうに言う。「では切り替えて、なぜビースターには想像力が無いのか。」
「ヒューマンは文明の初期に神を想像し、創造した。」ツキモトが言う。
「ビースターは創造せずに、ヒューマンを神と崇めた。」オオタが返す。
「ビースターは文明の初期に想像力を必要としなかったのか。」ツキモトが言う。
「新しい物を創造せず、ヒューマンの物を発掘するだけで大丈夫なのかな。」オオタが言う。
「大丈夫だったんだろう。」ツキモトが言う。
「芸術が無くても大丈夫だった。」オオタが言う。
「文明は発展した。」ツキモトが言う。
「芸術が無くても文明は発展する?」オオタが聞いた。
「芸術を作り出すってことはさ、最初は衝動に駆られて作るもんだ。」ツキモトがどこかで聞いたようなことを言った。「絵でも小説でも音楽でも映像でも、才能のある者は生み出したい物が心の中にある。それを外に出したいって衝動に押されて絵を描く、小説を書く、音楽を作る、映画を撮る。建築でもオブジェでもデザインでも何でも。その生み出した物に共感、関心をしてくれる者が多ければ有名になって歴史に残る。生み出す奴の情熱の強さなんかどうでもいい。情熱さえあれば、なんてのは嘘だ、肝心なのは生み出した物に共感する人数だ。誰も共感してくれなかったら、無名のまま消えるだけだ。」
「終わった?」オオタが聞いた。
「終わった?」ツキモトが聞き返した。
「質問は、芸術が無くても文明は発展するか、であって、芸術論じゃないの。」オオタが言った。
「あ、ごめん。」ツキモトが言った。
ビースターはヒューマンの作った映像を見ることは出来なかった。
磁気で記録するテープやハードディスクは1万年は残らない。
さらにCDやDVDは金属部分の劣化が問題になる。
やはりこれも1万年はデータを維持できない。
彼らに読み取れたのは紙だけだった。彼らビースターは壁に描かれた自分たちのイラストを発見し、それを書いたヒューマンを神と崇めた。
だが、文明が行き詰まる度に、科学が行き詰まる度に、ヒューマンを恨んだ。
なぜ高度な技術を隠ぺいしたのか、なぜ私たちにもっと壊れない方法で記録を残してくれなかったのか、なぜ重要なことを隠して私たちに見せないのか。
彼らビースターはヒューマンを恨んだ。
八つ当たりってやつだ。
《宇宙船》
「今日のニュースでやってたんだけど、新しい宇宙船が完成したらしいよ。」オオタがモコソを操作して画面をツキモトに見せた。
「これ何階建て?」モコソに表示された画像には、同じデザインの宇宙船が2隻並んで写っていたが、宇宙空間に浮かぶ映像では大きさがまったく想像できない。
「80階ぐらいじゃなかったかな、記事読めば書いてある。」オオタが言った。
「大きいね、長距離用かな。」ツキモトが画面をスクロールさせて記事を読みながら言った。「土星衛星調査用長距離探査船ピカード、だそうだ。」
「そろそろ宇宙船の形をさ、かっこよくしてもらいたいんだけど。」オオタが言った。
「ピカードなら・・・」少し考えてツキモトは言った。「いや、あの形はかっこいいとは思えない。」
「この形なら、ヒルズとかトチョウとかに名前変えたほうがいいと思うよ。」オオタが言った。
我々の宇宙船は、ヒューマンのビルに似ている。
実際、月の地表に宇宙船が停泊している姿は、ヒューマンの映画に出てくる高層ビルが、月面に建っているように見える。
宇宙船の内部もビルと同じく何層構造にもなっている。
下のフロアが推進機関と燃料タンク、真ん中のフロアが居住区画、上のフロアは生命維持施設と貯蔵スペースだ。
外壁に並べられた太陽光発電パネルが、ヒューマンのビルの窓のように見える。
我々の宇宙船は、航行するとき基本的に1G加速を続ける。
シンプルに言えば、目的地までの道のりの半分を約1Gで加速し、途中で宇宙船を反転させ前後を入れ替え、残りの半分を約1Gで減速する。宇宙船の中は反転の時以外、常に1Gに保たれる。
だが1G加速を続けすぎると光速に近づいてしまう問題が発生する。
生物は無重力でも問題が出てくるが、光速に近づいてもいろいろと問題が出てくる。
土星のような、長距離の移動に時間がかかる目的地の場合は2隻で行く。片方が故障した時の保険という意味もある。
長距離の場合、ある程度加速した後、2隻を屋上部分で連結させ回転させ、遠心力で重力を作る。
回転の中心に近い上のフロアが重力が弱く、下のエンジン部分が重力が強くなる。回転スピードで居住区を約1Gに調整する。
残念ながら、人工重力発生装置のような物は完成していない。ヒューマンが人口重力発生装置を映画などで多用していたのは、撮影が簡単になるからだ。
本当の人口重力発生装置が完成した時、それは科学で重力を自在に操れるようになった時であり、空間を自在に操れるようになった時であり、その時が来れば我々は待望のワープ技術を手に入れるだろう。
我々は現在、長旅の場合には交代で船内冬眠をする。
ヒューマンには無かった身体機能だが、我々には生まれつき備わっている。
冬眠だ。
我々の宇宙船が、ヒューマンの空想したような宇宙船の形はしていないのは、技術力やデザインセンスの問題ではない。
我々は彼らの空想した宇宙SFの映画やアニメを見て思うのだ。
「この重力に縛られた猿め、無重力空間の表現が間違いだらけだ。」
悪態をついたが、ヒューマンのSF映画は我々にも人気だよ。本当に。
無重力の正確な表現って大変だ。
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