君のいない夏と、最強の屍と

神崎 ひなた

① この丘から見下ろす町

 草木も眠る、午前三時。


 この街の全てを見下ろせる丘の上に、空架町の公葬地は存在する。


 私は一人、そんな丘の上から街を見下ろしていた。


「………………」


 都会というほど栄えている街ではない。田舎というほど寂れた街ではない。


 こんな時間だというのに車の往来はぼちぼちとあるし、街灯りだって目が眩むほどに明滅している。


 星の明かりなど、視えたものじゃない。


 とある宇宙飛行士が言っていたけれど、宇宙から夜の地球を見渡せば、人類は地上に張り付く害虫のようにしか見えないのだという。


 遠い遠い空から見るほど、ネオンの明かりは下品に見える。


 この丘から見渡しても下品だな、と思ってしまうくらいなのだから、その宇宙飛行士の感じた悲観は、想像を絶するものだったのだろう。私は、宇宙飛行士にだけはなりたいと思わない。かといって、他に何かなりたいものがあるわけではない。


 私はただ、穏やかに過ごせたらそれでいい。


 そう考えて、空を見上げてふと思う。


 彼もまた、遠い遠い空の上からこの街を見下ろしているのだろうかと。


 だとしたら、彼にこの街は、一体どんな風に見えているのだろうかと。


「……下らないセンチメンタルだ」


 私は街を背に向けて歩き出した。


 下らない。その通りだ。

 そして私はこれから、もっと下らないことをしようと思っている。


 蘇生術。


 死んだ人を蘇らせようと本気で思っているのだから、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。


 

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