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「ふぅ」

 やっと引いた汗に自然と深い息を吐いた。熱かったからじゃない、美味かったからだ。ここのトムヤムクンとガパオライスは最高だ。

「暑クナカッタデスカ?」

 にっこりと微笑みながらお冷を足してくれたのはオーナーの奥さん。タイ人の美人さんで、向こうでシェフをしていたのだとか。んで、日本に旅行に来た時に今の旦那さんと出会って国際結婚して、こっちでカフェを開いたんだそう。美人な上にカタコトな日本がとても可愛らしい。

「美味しかったです。熱い時に食べる暑い料理は格別で」

「フフ、ワカリマス。冬二コタツ二入リナガラ、アイスキャンディーヲ食ベタクナルノト一緒デスネ」

「分かりますか」

「ワカリマス」

 彼女はコクン、と頷きながらタピオカの入ったドリンクをサーブしてくれる。

「美味しい」

 甘くて美味しいミルクティと本格的なタイ料理が自慢のカフェには沢山のグリーンが飾られていて、さりげなくタイのインテリアも置かれていたりして女性なんかは特に好きそうなお店だ。そんな内装や外観のことは旦那さんの担当なんだとか。

「お店の前のお花、綺麗でしたね」

「ウチノオトサン、顔ノ割リニ可愛イモノガ好キダカラ」

「奥さんも可愛いしね」

 そう言うと彼女は照れたように笑って厨房へと帰って行った。

 交際結婚か・・・

 いつも、凄いなぁって思う。生まれも育ちも違う二人が結婚するなんて。同じ日本人同士でも難しいのに、文化や言葉の違う国の人同士が一緒になって生活を共にしているなんて。良く考えれば凄いことだと思う。きっと乗り越えなければいけない問題も沢山あっただろうし、道のりも険しかったんじゃないだろうか。どこの国だって“純血”を守りたがる人はいるだろうから。でも、だからこそ二人の絆は強いものなんだろうなぁと考える。

 それだけじゃなくて、この広い世界の大多数の人間の中から、運命の相手を見つられたことが本当に凄いと思う。世界中に人は何人いると思ってるの? ってね。

 だからこそ、なんだか羨ましいなって。双方が求め合ってこうして出会えたんだろうから。

「あ」

 窓の外で汗だくなって帰って来た旦那さんとタオルを持った奥さんが見えた。イタズラっぽく笑う奥さんが旦那さんの顔にタオルを押し付る。驚いたような旦那さんの顔。きっとそのタオルは冷たく冷やされていて、火照っていた旦那さんの表情を涼しげにやわらげていた。

「羨ましくないわけ、ないよな」

 穏やかに幸せな日々を送れる人に出会えることは、きっと人生で一番の喜ばしいことに違いない。

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