迷子のワタシ
高嶺れいこ
第1話 今までのワタシ
20年前の秋。
ワタシが生まれました。鈴木千鶴。
父は私に長く生きてほしいそんな思いから千鶴と名ずけたといいます。
そして、ワタシが1歳の誕生日を迎える前に亡くなってしまいました。
ワタシが1歳になった時、母のお腹には弟がいて働くこともできなく母は苦労したそうです。
父の残したお金も底をつき母はワタシが2歳になると働きに行きました。
2歳でもしっかりしていたワタシは弟の面倒をよく見ていたそうです。
ワタシが小学生になると母も安定した職業につき日々の生活も安定していました。
弟の絵の才能が開花され始めたのはその頃からだった。
弟の絵は最初はうまい絵から才能のある絵に変わっていった。
中学に上がると弟は色んな賞をとるようになり、各メディアから注目を浴びていた。
それに比べてワタシには何も無い。
高校になると弟の才能が羨ましくなっていた。
何も無いワタシは見ているだけ。
ワタシは大学に行かず就職するこのになった。
弟は国立美大に入り、絵の才能だけでなく陶芸の才能まで開花させまのです。
ワタシは好きでもない仕事をただこなすだけ。
上司からはセクハラされ、同期からはバカにされる毎日。
苦痛でしかない毎日。
『いつになったら終わるの?』そんなお事を思っていた。
働き出して2年がすぎた秋、事件は起きた。
ずっと耐えてきたセクハラについに切れてしまい上司を殴ってしまった。
会社はもちろんクビになった。
せっかく母と弟が見つけてくれた職場だったのに。
母にも弟にも合わす顔がなく家を出た。
ワタシの人生はいつもそうだ。
誰かが決める。
ワタシじゃない誰かが。
ワタシにはなんの才能もない。
だから誰かが決めてくれないとワタシはまともな人生を送れない。
やりたい事も無ければ意欲もない。
きっとこういうのを出来損ないと言うんだろうか。
ワタシが今までした事で人に褒められたり、讃えられたことは無い。
目を瞑って何度も問いかける自分に『一体、ワタシは何をしているの?』と。
家を出てから数日が過ぎた。
ワタシはとある街に来ていた。
そこは父が生きていた時に住んでいた街。
電車を降りると海の音が聞こえてくる。
潮の香り、海鳥の鳴き声、バイク便の音、何もかもが懐かしい。
ここで、ワタシは生まれたんだ。
タクシーを拾い不動産会社に向かう。
着くとタクシーを降り店の中に入る。
「いらっしゃいませ」と出迎えたのは中年太りの眼鏡をかけたおじさんだった。
席に案内され椅子に座る。
「こちらに記入をお願いします」そう言って渡してきた紙とペンを受け取る。
書き終えると「申し遅れました今回担当させていただきます木山です」そう言って名刺を渡してきた。
私は自分の名を名乗り名刺を受け取った。
「今回はどういった物件をお探してですか?」木山が聞いてくる。
私はスマホの画面を木山に見せて「ここがいいです」と言う。
木山は「わかりました」と言ってカウンターの奥に入っていった。
数分後に戻ってきた木山の手には車のキーがあった。
「今から見に行ってみましょう」木山は笑顔でワタシを見る。
なかなかの行動力にワタシは少し圧倒された。
物件を見てはワタシはそこに決めた。
早くて明後日に入れるそうだ。
私は1度家に帰り荷物をまとめて約束の明後日の日に木山の待つ不動産会社に行った。
入居して一日目私は目を瞑って思い出す。
思い出すと言うよりも想像する。
父はここで生きていたのだと。
ここは父が母と暮らしたアパート。
父が亡くなったあと、都会の方へと引っ越したそうだ。
私には都会よりここがいい。
あそこは時間の流れが早く感じてしまう。
ここはあそこと違ってゆっくりだ。
家から持ってきた荷物を簡単に整理する。
アパートを出て近くのスーパーへと向かう。
30分歩いた所にスーパーはあった。
『田舎だ』と感心する。
スーパーの帰り道ふっと目に入ってきたチラシを手にする。
この街で大きい病院のアルバイト募集の文字だった。
ワタシはすぐに家に帰り電話をかけた。
明日、面接をすることに決まった。
初めてかもしれない。
自分で行動に移したのは。
翌日。
指定された場所に向う。
病院の近くの喫茶店だった。
カランカラン。
中に入るとすぐに女の人と目が合う。
女の人は私を見て手招きする。
「はじめまして、アルバイトの面接に来た子よね!田中です」痩せ型の笑顔が似合うおばちゃんだった。
席につき面接が始まる。
「最後に、ひとつだけ聞いていいかな?」
「はい」
さっきからの笑顔とは違い真剣な顔をする田中さん。
「どうしてここに来たの?」
「なんとなくです」
きっと疑問に思っていたのだろう都会からこんな田舎に来ることを。
それで面接が終わり私は家に帰った。
合否はその場で言われて明日から行くことになった。
少しワタシの中でヨシっと喜んでいた。
この街に来て何かが変わる予感がしていた。
目を瞑ってワタシに問いかける『大丈夫だよね?』と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます