第2話



私の夫に隠し子が居る。

奈帆子は夕飯の支度をして居る。

肉と野菜を炒めてと。


昨夜の件を陽二に言おうか言うまいかと夕飯を作りながら考えていた。


奈帆子と陽二には子供は居ない。


結婚当初から奈帆子は仕事をして居たので子供を作る時期を逃してしまったのだ。

二人は4歳離れているだけの陽二が54歳奈帆子は50歳。

もう人生の折り返し地点はとっくに過ぎて居る。


さぁ。カレーが出来た。

後は陽二に聞くしか無い。

奈帆子はそんなアイデアしか浮かばなかった。

あの声の主の声が今夜また聞こえるのだろうか。

高校一年生と言ってた。


後1時間位で陽二が仕事から帰る。

帰ったらいつも陽二はコーヒーを淹れるのが日課だ。その時に言ってみようか。

奈帆子は食器棚のドアに手を置いて考えていた。

居間の時計は17時35分。


「ただいまー。あー腹ペコ。奈帆子今日の夕飯何?」


「陽ちゃんの好きなチキンカレー!」


「カレーが食べたかった!直ぐ手洗ってくるか。」


二人で台所側にあるカウンターで食べるカレーは格別だ。

陽二はカレーに目が無いのだ。


そして食べ終わり、


「あー食った。先にシャワー浴びてくるよ。コーヒーはその後に。今日も汗かいたなぁ!」


本当にこの人に隠し子なんて居るのか疑問だった。

結婚して20年が経つふたりには考えられ無かった。

それに何故隠し子が幽霊か幻聴か。


私はついに精神科行き?


そんな事も陽二に話をしたかった。


「あー。転職した先の店の店長の仕事なかなか慣れないなぁ。」

陽二は、レストランの店長をしている。

明るい性格で誰からも頼られる夫に奈帆子は嬉しい。


「慣れる迄は大変ね。」


奈帆子が陽二に笑う。陽二もつられて笑った。


そして陽二はコーヒーを淹れる。奈帆子はじっと陽二の手を見つめていた。


「さあ、入ったよ。いつもの。」


陽二が一口コーヒーを飲んだ時、奈帆子が言った。


「あのね、陽ちゃん、私昨夜寝る時に若い女性の声を聞いたの。」


「若い?女性?何、それ?」


「だからね、それで。」


私は昨夜あった事を話した。


「俺に隠し子? えっ? それはー?!」


「本当に陽ちゃんの子?」


「うん。多分そうだった。過去に一回だけ…。あの〜。」


「陽ちゃん。」


奈帆子は陽二の話をじっと聞いていた。


今から16年前の出来事だった。

陽二がまだ39歳の頃だった。

陽二はその時ガソリンスタンドで働いて居た。


あれは16年前の雨が降るガソリンスタンドにバイクに乗る、二十代後半位の女性が雨に濡れてやって来た。


駅前のコンビニの駐車場で、ヘルメットを盗まれた、と陽二に話をしたそうだ。


陽二はその女性にタオルを差し出すと泣き出したと言った。


スタンドの椅子に座りなよ、と陽二は椅子を差し出した。

季節は1月真冬で凍えそうな女性を放って置けなかった。


「どうしたの? もう直ぐ仕事終わるからその時に何があったか話を聞かせて!」


女性に温かい缶コーヒーを渡して中の電気ストーブで暖をとる事にした女性の顔は少しだけ頬が緩み始めた。


この日の夜ふたりは一夜を共にした。


そしてその女性が何回かバイクの給油に来る様になった。

何回か来るうちに元気を取り戻した。


そしていつもの女性は来なくなった。

ぱったりと、連絡も途絶えた。


「陽ちゃんその事ずっと黙って居たわね、酷い!」


「悪かったよな、俺も。でもほっては置けなかったんだ。。」


「何であの女の子私に話をしに来たのかしら。」


「分からん。何がなんだか。俺にも分からないよ。」


「陽ちゃんずっと黙ってたから明日からのお夕飯私知らないからね。」


陽二は黙ってコーヒーを手に持ち、寝室に入って行った。


本当に男は勝手なんだから〜!

奈帆子は怒るのをやめ一言、


「あっー!明日マッーサージ行こう!」


そしてその夜は何も謎の女の子からの声は無かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る