第2話
「ふー、やっと終わりました〜」
葉っぱの小山の前で、箒片手に巫女装束の少女は伸びをすると腰をポンポンと叩く。
それに合わせてお尻で、もふもふの狐しっぽが小さくゆれる。
「さて、次は何をするのかな〜」
ここ常静神社はそんなに大きくはないけれど、かと言って小さくもない。
雑巾掛けをしようと思えばそれなりに時間はかかる。
まあ、そんなにしょっちゅうしなくてもいいけど。
ーー…だって誰もこないし…
本殿を回り込むと、社務所へと向かう。
「神主さーん、落ち葉集め終わりましたよ〜」
社務所の中では狩衣を着た男がなにやら黙々と作業をしていた。
「おお、ありがとう。助かるよ。」
「いえいえ〜。…何してるんですか?」
「ん?これか?お守り作りだよ。…やってみるかい?」
「やります〜!!」
「んじゃ、ここにおいで。」
ぽんぽんっ
神主さんは少し椅子を引くと膝の上を叩く。
「……」
「……」
「……本気ですか?」
「……本気だけど?」
「……通報します?」
「……やめてほしいな」
結局少女は隣の椅子に座りました。
「……」
「何ですか?」
「…いや、何でもないよ。…それじゃ作り方を教えるからよく見てて。まずここに町で安く作って貰った袋があるからーーどうかしたかい?」
「……いえ、別に」
「…そうか。で、ここにこれを入れて、」
神主さんは自分自ら書いたお札をつまむと袋の中に入れる。
「念を込めて…」
神主さんが目を閉じると、一瞬柔らかな光がその体を包み、指を伝ってお守りの中へ吸い込まれる。
「口を縛って完成!簡単でしょ?」
「…1ヶ所よくわからないところがあったんですけど」
「ほんと?…じゃあ、もう一回するからよく見てるんだよ?」
「見ても意味ないと思いますけど…」
「これを入れて〜、念を込めて〜、口を閉じて完成!…分かった?」
「…念を込めるんですか?」
「込めるよ?」
「…ひょっとして神主さんすごい人ですか?」
「そうかも?」
2人の間に流れる微妙な沈黙。
「……じゃあ私もやって見ますね」
少女は机の上に手を伸ばすと、袋を取りその中にお札を入れる。
そして、祈る様に組んだ掌の間にお守りを挟んでー
「んん〜!」
できないとは分かってるけど、健気に念じてます。
「……」
ーーあれ?目を閉じてる今ならもふもふしてもバレないんじゃ…
尻尾に向かって神主さんの手が伸びてー
「口を縛ってかんせーああっ!?神主さん!!今もふもふしようとしてましたよね!?もうっ!神主さんのばかっ!!へんたいっ!!」
「わっ!?やめろ!分かった、悪かったから、謝るから!」
「ばかばかばか〜〜!!」
神主さんに向かって飛んでいく無数のお守りの材料たち。
そしてその手がさっき神主さんが作ったお守りを投げようとした時。
しっかり閉じられてなかったのかその口が開いてー
「!?」
漏れた念が少女を包んだ。
「……大丈夫か?」
「……」
「……おーい?」
「……もふもふ…」
「ん?」
「もふもふ…もふもふしたい…もふもふぅ!!」
「おおっ!?ちょっ!?ちょっとまてっ!やめっ!僕はもふもふしてないぞっ!?」
追いかける少女に逃げる神主。
追いかけっこはしばし続いてー
「もふもふ…もふもふ…もふーはっ!?」
少女が正気に戻った様です。
「私は一体…って神主さん!!」
「はいっ!?」
「何ですかこれは!てかなんですか!!雑念こもりまくりじゃないですか!!雑念しか入ってないじゃないですか!?」
「いや、僕の本望だけど?」
キリッ
「キリッ、じゃないですぅ!!ちゃんとしてください!!…これ交通安全じゃないですか!!もしドライバーさんが運転中にもふもふ言い出して事故しちゃったらどうするんですか!?」
「大丈夫、誰も買う人なんていないさ!」
グッ!
「グッ、じゃないですよぉぉぉ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます