杖とローブ

バタン


2人が入ると、大きな音を立てて扉が閉まる

その音に、ユウは少しビクッとなる


コツコツコツ

トコトコトコ


廊下は薄暗く、ロウソクの明かりだけが頼りだ


「母さん…何処に向かってるの?」

「学長室よ~

 そうね~、向こうの世界で言う校長室ね~」

「そ、そうなんだ…」


ココに来るまで色々あり、混乱したままココまで来たユウ

まぁ、今も現在進行形で混乱中だが…少し落ち着いてきた

しかし、落ち着いてきたがために、今更緊張し始めた


(どうしよう…大丈夫かなぁ…)


ユウは落ち着かない様子で辺りをキョロキョロ見る


「着いたわよ~」

「へ?」


2人の目に前には1つのドアがあった


(あれ?ココに来るまで、曲がり角無かったんだけど…?

あのデッカイ扉…この部屋にしかつながって無いの?)


ユウが不思議に首を傾げている様子を見て、母親はニッコリ笑いドアに手をかける


「学長、失礼します」


母親は挨拶してから部屋に入る

ユウもそれに続き、母親のやや左後ろに立つ

ドアの向こうは、本棚に囲まれた広い空間

部屋の奥…唯一ある窓の前に大きな机…そして椅子に座っている老人がいた


「おぉ…久しぶりじゃのぅ…ルイ・フィーマよ」

「お久しぶりです、ハマンド学長」

「そちらの子が、娘かのぅ?」

「はい、娘のユウです」


いつもの雰囲気とは違う…真面目な母親に戸惑いながら、紹介されたためペコリと頭を下げた


「なるほどのぅ…ひとまず、その子にローブと杖をやらんとなぁ」


学長は立ち上がり、ゆっくりとした動作で2人のところまでやって来る

そして、何も無いところに手をかざすと、布と棒…ローブと杖が出てきた

それをユウに差し出す

ユウは戸惑いながら母親を見ると、母親はニコッと微笑む

その微笑を受け、ユウはローブと杖を受け取る


「?」


母親の微笑に安心し受け取ったが、何が何だか分からないユウ

布を広げてみる…形はポンチョに近いだろうか


「それを服の上から羽織っておきなさい。制服のようなものよ」


母親に言われるままに、ローブを羽織る

落ちないようにフードについているヒモをくくる

杖は、ローブの中にあるポケットに入れておく


(着てみると、ますますポンチョっぽいなぁ…フードまでついてる…)

「さて、準備は出来たようじゃのぉ

 ユウは1年生じゃ…ルーフェル、おるのじゃろ?」


そう言うと、先ほどユウ達が入ってきた、この部屋唯一のドアが開き一人の青年が入ってくる。

濃い青色の髪…雰囲気は真面目そうな感じだった


「あら、ルー君久しぶりねぇ~」

「ルイか…久しぶりだな

 なるほど…転入生は君の子どもか」


ルイに向けていた視線をユウに移す


(茶髪に短髪か…昔の彼女にソックリだな…)


ルーフェルは昔のルイを思い出しクスリと笑った

ユウは意味が分からず、ただ首を傾げた

そんなユウに気付き、ルーフェルはコホンと咳払いをしたのだった


「さて、ユウだったかな?

 君の教室まで案内しよう」

「あ、はい」

「ルー君、よろしくねぇ~

ユウ、頑張ってねぇ~♪」


ルイはいつも通りの気楽な空気を纏い、ヒラヒラ手を振ってルーフェルとユウを見送った

ユウが一度振り返ったが、それはドアが閉まり強制的に視界に入ってこなくなった


「それにしても、何故急に戻ってくる気になったんじゃ?」


学長の問いにルイはため息をついた

先ほどのようなお気楽な雰囲気は何処にも残っていなかった


「異世界も良いんだけどね~

 ユウが退屈してるみたいだし…

 それに、ユウの成長の遅さが…そろそろ目に見えて現れるだろうから…」

「そうじゃの…

 お前さんらが行っておった世界は『標準』というのが重視される所じゃったのぉ…」


そう、魔法使いの自分たちは、向こうの世界の人間と歳のとり方が違う

今はまだ良いが、数年経つと際立ってくる

すると、色々な疑問が浮かび上がってくるだろう

向こうの世界では、自分たちと違う人を排除しようという風潮が少なからずある

全ての人がそうとは言わないが、

そういう人と出会うと辛い思いをするのは、何も知らないユウ自身だ


「…それに、あの子魔力が強いのよ

 そろそろコントロールを覚えさせないと暴走してしまうわ」

「…あの魔力…さすがお前さんとあ奴の子じゃな…」

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