天才科学者と小さなロボット

紗斗

天才科学者と小さなロボット

一日目

 一日目。僕は起動した。


 視界がぼんやりとしたものから鮮明なものになっていく。次第に一室だと気づいた僕は辺りを見渡した。


 薄暗うすぐらい部屋に所々に大小や形状の異なる様々な機械が置かれている。窓一つないその部屋は機械に埋め込まれている液晶ディスプレイかられ出る光が唯一の光源こんげんなのだろう、道理どうりで薄暗い。ごうんごうんと音を発する機械や微動びどうだにしない機械は薄暗い部屋をより不気味ぶきみなものへと変えている。


 ここはどこだろう、と思考にひたっていると機械の裏方うらかたから何かが現れた。


「起動できたんだね、良かった。初めまして」


 それは現れたと思うと歩き出し、カプセル型の装置のふたを開け、僕の前にひざをついて座った。蓋が開いたことで、僕とそれの間をさえぎるものは何もない。


 約百七十五センチメートルの身長に白衣はくい姿のそれは形状や行動、言語、声の波長など様々な条件から演算した結果、人間の男性だと判断された。初めまして、というのは初めて見合う相手に対する挨拶だと記憶されていて、その言葉にどう返すかのプログラミングもある。僕はその結果に従うしかない。


「ハジメマシテ」


 プログラミング通りに事を終えると、人間は僕の頭をでた。


「私は科学者。君に"心"をあげたいんだ」


 正確には科学者という名前ではない、というのは理解したが、"ココロ"という単語がプログラムをどれだけ検索しても引っかからない。何度も試みるが出てくるのはErrorの文字。


「…"ココロ"?」


 どうしようもなく疑問形で復唱すると、科学者は小さく笑った。


「これから一緒に知ろう。さぁ、踏み出して」


 科学者はいびつな形をした鉄臭い僕の手を引いた。それに従うようにカプセル型の装置から一歩踏み出す。


 こうして、科学者と僕の日常は始まった。



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