第二章 『大迷宮』編
26話 高月まことは停滞期である
「くっ!」
『逃走』スキル!
『逃走』スキル!
『逃走』スキル!
ゴブリン、オーク、オーガの軍団が追ってくる。
皆、怒りの表情だ。
まあ、住処に火炎瓶を投げつければ誰だってキレるよな、うん。
だから、俺は逃げ続ける。
遠くにルーシーが立っている。
俺の役目は、ルーシーの射程距離に魔物を引き付けることだ。
「土魔法・岩石!」「火魔法・属性付与!」
ルーシーが杖を掲げる。
空中に巨大な、燃える大岩が現れる。
「「「「「!?」」」」」
魔物たちが異変に気づくが、もう遅い。
「
ルーシーさん、ノリノリである。
ちなみに、隕石落としなんて魔法は無い。
ルーシーが適当に名づけた。
『回避』スキル!
どががががががっ! と燃える大岩が魔物を巻き込んで吹き飛ばす。
土砂が舞い上がり、爆風がすべてを吹き飛ばす。
残ったのは、巨大なクレーターのみである。
「相変わらずの威力だな。隕石落とし」
「まことも、凄いじゃない。50匹くらい魔物を引き連れて来てたわよ?」
「……はは」
「じゃあ、ギルドに戻りましょう! 今日も報酬がっぽりね!」
「その前に、火を消さないと」
ルーシーの魔法の余波で、森火事を起さないように消火する。
最近の水魔法は、こういう場面の出番しかない。
精霊魔法のおかげで、水辺でなくても水が使える。
別に、火消しのために精霊魔法覚えたんじゃないけどなぁ。
◇
いつもの串焼き屋で、夕食をとる。
「大将、エールもう1つ」
「あいよ、最近はよく飲むな。まこと」
「最近、これの美味しさがわかってきたよ」
苦いのは相変わらずだけどさ。
エールは、のど越しだな。
「ははっ、エールの美味さがわかればいっぱしの冒険者だな」
「ふーん、私はそれ苦手」
ルーシーは、フルーツのカクテルを飲んでいる。
本当は、この店には置いてないメニューだが、常連のルーシー用に大将が作ってくれたようだ。
「おーい、ルーシーちゃん。こっちで飲もうよ」
「そんな魔法使い見習いはほっといてさ。明日は俺たちとパーティ組もうよ」
「今日も、魔法凄かったねー」
周りの冒険者が、ルーシーに声をかけている。
少し前は、どこのパーティーも敬遠していた問題児とは思えないな。
強力な魔法を使える魔法使いは、どこのパーティーでも需要が高いね。
「わたしは、まこと以外とパーティー組む気ないから!」
ルーシーは、こう言ってくれるのはありがたいけど。
「ふー」
エールを半分ほど飲み干したら、少しクラッときた。
「お、飲んでるな」
「ルーカスさんこそ」
昨日は、シメイ湖の漁師を襲っていたという水竜を退治してきたらしい。
竜は、まだこの世界に来て見たことがない。
強いんだろうなぁ。
俺もいつか、戦える日が来るんだろうか。
「おい、まこと。マッカレンの冒険者ギルドで、最速のアイアンランク到達記録を更新したってのに、ずいぶん暗い顔してるな」
そう。
俺とルーシーは、今はアイアンランク。
立派な中級冒険者だ。
「まことの野郎、ルーシーちゃんの魔法のおこぼれをもらってるくせに」
「うまいことやったもんだぜ」
「しっ、あんまり言うと本人に聞こえるわよ」
聞こえてるよ。
俺は『聞き耳』スキルがあるからな。
「ちょっと! まことは、凄いんだから! 変なこと言わないで!」
素で耳がいいルーシーが、陰口を叩いた冒険者に怒っている。
「いいから、ほっとけばいいよ」
「でも……」
「あいつらは、2年くらいブロンズランクで止まってるからな。まことが羨ましいんだろうが、こそこそ陰口とは、情けねーなぁ」と呆れ声のルーカスさん。
「まーことくん!」
マリーさんに抱きつかれる。
「最近は、一緒に飲んでくれてうれしいよー、お姉さんは」
「弱いんで、2、3杯だけですよ」
飲んでも全然、強くならないんだよな。
ルーシーは、結構強くなってるのに。
酒の強さもステータスが関係してるのだろうか?
というか酒はそもそも、そんな好きじゃない。
それでも、飲んでるのは……気分的な問題だ。
「何やら悩んでる顔してるわねー。ギルド職員のお姉さんに相談してみなさい」
「ちょっと、マリー! パーティー仲間の相談は、私が聞くから」
「ええー、こういうのは年上のほうが言いやすいのよ?」
「私もまことの年上だから!」
「あれ、そうだっけ。ところで、そろそろ中級者向けのダンジョンなんて良いんじゃない?」
「だーかーらー! そういうのは、二人で決めるから!」
「大将ー、エール追加ね!」
「私もおかわり!」
「おお、もててるな、まこと」
はっはっはっ、とルーカスさんが笑う。
人ごとだと思って。
最近の日課が、このルーシーとマリーさんの言い合いだ。
ケンカってほどじゃなく、マリーさんがルーシーをからかってる感じで。
「「「「「「「……っち!」」」」」」」
だから、なんで俺を目の敵にするんですかね、冒険者の皆さん。
はあ。
◇
「ルーカスさん、どうやったら強くなれますかね?」
ポツリと聞く。
最近の悩みを。
「ああ? まことは十分強いだろうが。グリフォンに1000年前のキメラを倒して、何言ってんだ」
あほかコイツ、って目で見られた。
「グリフォンはジャンが、キメラはニナさんが倒したんですよ」
「だが、お前がいなけりゃ倒せなかったんだろ? そう聞いてるぞ」
「俺はどうなんでしょうね。ルーシーの力は大きいと思いますが」
「パーティーってのは、そういうもんだぞ? サポートとアタッカーで役割は分かれてるもんだ」
「まあ、そうなんですけど……」
エールを飲み干す。
「大将、もう1つ……」
「あいよ、飲み過ぎるなよ」
「今日は、これで最後……」
本当は、かなり酔ってる。
駄目だな、ちょい自制が足りない。
ここ最近は、攻撃をルーシーに任せて俺は囮と事後処理(消火)ばっかりだ。
最後に、俺が独力で倒した強い魔物はオーガくらいか。
あれも、罠に嵌めたって感じだったな。
「まことのレベルは今、いくつだっけか?」
「20になりましたよ」
「冒険者になって、1年も経ってないのにアイアンランクでレベル20」
「何が不満なんだかな」
ルーカスさんと大将があきれ顔を見合わせている。
「不満ってほどじゃ無いですよ」
俺は自分の『
「お、まことくんの魂書?」
「マリーさん、勝手に覗くのはマナー違反ですよ」
「私はギルド職員だから、いいんだよー、へへへ」
駄目だ、完全に酔っ払いだ。
「うーむ……、しかしレベル20でこのステータスかぁ。たしかに、低すぎって、うえぇぇ!?」
「どーした、マリー」
「こ、ここ! 水魔法の熟練度!」
「んーどこだ……って、99!」
「熟練度を99にするやつっているんだな」
3人から変態を見る目でみられた。
「やっぱり、まことは凄いわよ!」
ルーシーは、既に知っている。
たださ。
「これが、悩みの種なんだよ」
「どーしてよ?」
「99にしても大して強くなかったんだよ」
そうなのだ。
魔力が低い俺でも、修行さえすれば上がる熟練度。
熟練度の最大値は、99。
これで打ち止めだ。
しかし、少々魔法の精度と発動速度が上がっただけで威力は低いまま。
折角、頑張って上げたんだけど、期待ハズレだった。
何かカンストボーナスが貰えると思ってたんだけど。
「そ、そうなんだ。じゃあ、精霊魔法は?」
「そっちも行き詰ってる」
巨神のおっさんに聞いた、精霊を見るってのが全然できない。
ほんとに、俺にできるのだろうか?
◇
「まこと! 久しぶりだな」
「ルーシー、相変わらず露出の多い服ねー」
「何よ、文句あるの?」
次に会ったのは、ジャンとエミリーだった。
その後ろに、見慣れない格闘家の男と、魔法使いの女の子がいる。
新たなパーティメンバーらしい。
これもちょっとショックだったんだよな。
てっきり、今後もちょくちょく一緒に冒険行けるかなって期待してたんだけど。
いや、こっちから声かけなかったのが悪いんだけどさ。
「よう、ジャン」
「できれば、一緒に飯でもと思ったけど。今日は満席みたいだな」
ジャンが残念そうに言う。
大将の串焼き屋は、小さなベンチが一個あるだけだ。
俺とルーシーとルーカスさんとマリーさんが座るとすでに空きスペースはない。
「最近も、派手に稼いでるみたいじゃないか」
ジャンが肩に手をかけて笑いかけてくる。
こんな爽やかなやつだっけ?
昔、俺に嫌味を言っていた剣士はもう居ないらしい。
「派手なのは、ルーシーだよ。俺は裏方」
「そんなことは……、まあ噂は聞くけど」
なんとも言えない顔のエミリー。
彼女は、空気読めるからなんとなく俺が元気ないのを察してるみたいだ。
「じゃあ、お互いシルバーランク目指して頑張ろうぜ!」
ジャンは、爽やかに笑って別の店に言った。
格闘家の男と、魔法使いの女には、ぺこりとお辞儀をされる。
なんでも、最近冒険者になったルーキーでジャンが世話してやったらなついてきた後輩冒険者らしい。
魔法剣士、格闘家、魔法使い、僧侶。
いいパーティだな。
「うーん、ジャンくんはまことくんとパーティー組みたがってると思ったのに」とマリーさん。
俺もそう思ってたんですよ。
「いやよ。私エミリーと仲悪いのしってるでしょう」と言うルーシー。
いや、それはどうだろう。
口ケンカばっかりしてるが、ちょくちょく一緒にランチ行ってるのを見ると実は仲良いのだろ?
まあ、ただ一緒に仕事するのは、また違うか。
「今日は、寝るよ。ルーシーお休み」
「え? う、うん。じゃあね……」
「明日は、休みにしよう。最近、かなり稼げたし」
「そ、そう。 じゃあ、一緒に町に買い物でも……」
「明日はふじやんの店に顔を出しにいくよ」
「そっか、わかった……」
とぼとぼとギルドの休憩室に向かった。
「振られちゃったわねー」
「うるさいわね、マリー!」
「よし、飲みなおすか!」
そんな声が聞こえてきた気がした。
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