2001年8月10日(金)
恐ろしいこと……。
おととい、とても怖い目に遭った……。
いま、こうして無事であることが不思議なくらい。
結論だけ書くと、私は男性に襲われた。異常な男だった。
おととい、M高校に向かっている最中、私は妙な男に出くわした。
「こんにちは」
焦点の合っていない瞳。
歪んだ口元、震えている全身、くすんだ肌。痩せぎすの両頬。
猛暑真っ盛りの8月だというのに、何年も洗っていないような薄汚れた上着。
そしてなによりも――明らかに男は、とてもおかしかった。
「あの、あのね。ボクじゃありませんからね。君はM高校の女子生徒だよね? あのね、今回のは、いやいつだって、ボクは違うんですからね? 信じてくださいね。その上でお願いなんだけど、ボクの頭、撫でてもらえませんか……?」
男は、そんなことを口走ってくる。
私はこの時点でずいぶん怖くなり、男を無視して、逃げようとした。
しかし男はそれでもなお、接近してきて、私の前に立ちふさがり、また「ねえ、違うからね!」と叫ぶ。また「信じてくれ。信じてくれないと、撫でてくれないとまた眠れないんだ! もうなにもかも怖いんだ!」と叫ぶ。私は腹が立ち、
「やめてください。警察と親を呼びますよ!」
と、突っぱねるように言って、思いっきり相手を指さした。
すると。……するとだ。
「指。……指。……両親に……?」
男の様子が変わった。ブツブツと妙なことを口走る。
顔を、なぜか真っ赤にして、プルプルと腕を震わせる。そして――
「貴様もか!!」
物凄い剣幕。
それまではひとまず下手だった物腰もどこへやら。
表情を豹変させて、唾を飛ばして青筋を浮かべ、
「貴様もそういうことを言うのか! ええ、貴様も! 全部それが始まりだったんだぞ! お前だって真剣だったくせに土壇場でボクらのことを親に言うって……! ああ、くそ、だけど……違う、なんでお前の指はあんなになってんだよ、ボクはなにもしてないだろ!?
女教師もボクじゃない。やめろよ、その指。気持ち悪いんだよ、なんでそんなもんがいつもぶら下がってんだよ! もう、うんざりだ! なんでみんなしてボクのことを疑うんだ! もう眠っていないんだぞ、何年も、何十年も、あの日から……怖くて、怖くて……。ボクは……ボクはぁあ!! ああああああああああぁぁぁ!!」
男は咆哮し、涙を流し、顔をくしゃくしゃにして――
そして私の首を、その両手で一気に締めてきたのだ。
力は、意外とあまりなかった。
子供につかまれたような感じだった。
だけどそれよりも、恐怖のほうが圧倒的に上だった。
私は必死に抵抗した。
思い切り、持っていたカバンを相手の顔面に叩きつけた。
すると男はひるんだので、私はその隙に相手を振り払って、全力で逃げ出した。
家に帰るなり、母親に相談し、警察を呼んでもらった。
警察は私から事情を聴いて、事態解決に乗り出してくれるという。
早く逮捕してほしい。……あんな男がM高校の近くにいると思うと、なるべくならもう、高校には近付きたくない。
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