2001年7月15日(日)

 今日は予定通り、みんなで海に行きました~。

 高校の裏にある砂浜に、朝10時に集合っ。ハセガワくんだけ5分くらい遅刻したけど、このひとはいつも遅れるからもうみんな慣れてる!


 海は、7月ど真ん中の日曜日なのに人はほとんどいなくてすいてた。

 気持ちいいし、気楽でいいけれど、ちょっとだけさみしかったかな。

 やっぱり夏の海って、人がワイワイいたほうが賑やかで楽しいし。

 佑ちゃんは、こういう静かな海のほうが好きみたいだけど。


 それにしても、キキラちゃんとみなもちゃんの水着姿、本当にすてき。

 みなもちゃんはスタイル抜群だし、ワンピースの水着も似合ってた!

 キキラちゃんは、すっごく大胆な水着姿……。あんなかっこう、人前でよくできるなって正直思っちゃった(ごめんね、キキラちゃん!)。でもああいう水着が着られるウエストの細さが、う、うらやましいッス。


 そして、わたし……

 わたしは……スクール水着でした……。

 だって、だって、去年佑ちゃんと、家族みんなで来たときはこれだったし。

 どうして昨日、姪浜に行ったときに可愛い水着を買ってこなかったんだろう。


 自分の子供っぽさに嫌になります。高校生になって中学時代の水着はないよね。

 佑ちゃんだって、キキラちゃんとスタイルの話で盛り上がっていたし。みなもちゃんみたいなスタイルの良い女の子について、熱心に語っていたし。


 でもでも、佑ちゃんはやっぱり優しかったよ!


「佑ちゃんも、みなもちゃんみたいな感じのが好き?」


 って聞いたら、


「そんなことないって。水着だって買うとけっこうかかるしさ。中学時代の水着がまだ使えるなら、そのままでいいと思うぞ。――っていうかさ、どうせ俺らしかいない海水浴なんだ。細かいこと気にすんなって。少なくとも俺は気にしてねえよ。若菜が楽しけりゃ、それでいいのさ!」


 こんなふうに言ってくれた。

 それでわたしは、ちょっとほっとした。

 キキラちゃんも「天ヶ瀬の言う通り、ここにいるのはウチらだけだしね」って言ったけど、これも嬉しかった。わたしはいい友達をもてたなって思ったよ!


 そこからみんなでスイカ割りをしたり写真を撮ったり、大はしゃぎ。

 お昼には、ごはんを食べようってことになったけれど、この近くには売店なんかない。

 日曜日だから学校の売店も閉まっているしね。だからこんなこともあろうかと、わたしはサンドイッチを作ってきたのです! みんな、喜んで食べてくれたよ!


「若菜、お前、相変わらずお弁当作るのうまいな!」


「ほんと。……私には無理だわ、こういうの……」


 佑ちゃんとみなもちゃんは、特に褒めてくれた!

 嬉しい! 嬉しい嬉しい!!




 で、午後になって――

 午前中遊びまわったから、みんなちょっと疲れて、砂浜に座り込んで休憩していたんだけど、そのときクラスメイトの安愚楽士弦あぐらしづるくんがわたしたちの前に登場した。


「やあ、天ヶ瀬くん。御堂さんたちも。こんなところでなにをしてるの?」


 安愚楽くんは、同じクラスの男子で、イケメンってことでけっこう女の子に人気のひと。

 確かに顔はちょっとカッコいい……。でもわたしは佑ちゃんみたいなひとのほうが好き。

 それに、そもそもほとんど話したことなかったし。わたしたちのメンバーで安愚楽くんとよく話すのは、キキラちゃんくらいかな。まあキキラちゃんはそもそもクラスの誰とでもよく話すんだけど。


 で、その安愚楽くん。

 なんだかとんでもないことをやっているらしいのです。


「僕はこのM高校の秘密をいま、調べているんだよ。……M高校で昔、人が死んだって知ってるかい?」


 いきなり……。

 安愚楽くんは、そんなことを語りだしました。

 昔……。日本がまだ戦争をやっていたころ、このM高校があった場所には病院があって、その地下室ではたくさんの人が殺されたって話。病院はもう壊されちゃったけど、地下室だけはまだ残っているという話です。――しかもその地下では、戦争に反対していたひとたちを集めて、拷問みたいなことをやっていたらしくて……。


 安愚楽くんのしゃべりかたは怖かった。

 キキラちゃんなんか、途中で「やめて!」って泣き叫んじゃった。

 わたしだって怖かった。普段通っている学校の地下で、そんなことがあったなんて。しかもまだ、その地下室が、存在しているかもしれないなんて。


「僕はその地下室を探しているんだ。噂では、学校のどこかに、その地下室への入り口がまだあるって話だからね」


 安愚楽くんはそんなことを言った。

 地下室への入り口。本当にあるのかな。

 あったとしても、そんなところ、どうして入りたいと思うのかな?


 人がたくさん死んだところなんでしょ? やだなあ。なにもそんなところ、自分から好んで行かなくても。


「怖がらせて、本当に悪かった。海水浴を続けてくれ。僕は地下室探しを続けるから。……それじゃまたね、みんな。バイバイ」


 安愚楽くんは帰っていった。

 あとに残されたわたしたちは、ちょっとブルー。

 せっかくみんなで楽しんでいたのに、ホラーな話なんかされちゃって。キキラちゃんなんか泣いちゃって、かわいそう。


「安愚楽のやつ、つまんねえ話しやがって。怪談話もいいけどよ、空気読んでやってくれよな」


 帰り道、ハセガワくんは、ぷりぷり怒ってた。みなもちゃんも、


「私はああいう話、嫌いじゃないけど、なにもいきなりやらなくてもね……」


 と、なんだか複雑そう。

 わたしは純粋に、怖い話が好きじゃないから、安愚楽くんのことがちょっとニガテになりました。

 せっかくの海水浴だったのに、最後はちょっと雰囲気壊れちゃったな。ざんねん。

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