2001年7月12日(木)
「なんとかあの更衣室、のぞけねえかなあ。カメラをしかけとくとか、無理かね?」
10分休みのときに長谷川のバカが言った。
こいつはまだあきらめていないらしい。
「カメラとかガチ犯罪だろ。もう言い訳できねえじゃん」
「そうだけどよー、見たくね? 女の裸。着替え。見たいだろ」
「見たいけど、さすがにカメラはやりすぎだわ。だいたいお前、カメラ持ってんの?」
「持ってねえ。なあ天ヶ瀬、ふたりで夏休みバイトしようぜ。金稼いでカメラ買おう」
「丁重にお断りする」
「なんでや」
「高1の夏休みの思い出が、、のぞきのために野郎とバイトをしまくりました、で終わるなんてまっぴらごめんだ」
「……まあそりゃそうだけどな。どうすっかな、父親の古いカメラでもいいからセルフで仕掛けておくか? ……あーくそ、だめだ、彼女欲しい」
会話がなんの脈絡もなく、変な方向へ飛んだ。
いや脈絡はあるのか。女の裸が見たい→見たいけどみられない→彼女を作れば見せてもらえる→彼女が欲しい。こういう思考回路なんだろう、たぶん。
「天ヶ瀬よ、彼女作ろうぜ、彼女」
「俺だって作りたい」
「てかぶっちゃけお前、どうなん。……御堂と付き合う気あるん?」
ドキッとした。
「なに言ってんだお前、いきなり」
「いやだって、お前ら仲いいじゃん」
「まあ、幼なじみだからな」
「それだけか? 普通、幼なじみって高校生にもなったらだいたい話さなくなるだろ。オレもそうよ。幼なじみの女子いるけど、道で会ってももうアイサツもしねえ。てかお前ら普通に付き合っちゃえよ、もう」
「それは……」
「てかお前、御堂のことどう思ってるん」
長谷川のくせに、今日はやけに鋭くてしつこい。
「まあなんつーか、少しでもその気があるならさっさと付き合え。あいつけっこう人気あるから」
「え、マジで?」
俺はビックリした声をあげた。
若菜が、人気? 本当に?
「だって御堂、顔は可愛いし、天然気味だけど優しいし、そりゃモテるよ。当たり前だろ」
確かに若菜は可愛いけど……。
でも、みなもとかキキラだって結構可愛いだろ、と俺が言うと、
「袴田はお嬢様すぎるし、山本はちょっとギャルっつうかヤンキーっぽいからな。そのへん御堂ってけっこうあれだぞ、王道的に可愛いから、やっぱりモテるわな」
じつは俺もそこは気づいていた。
若菜ってけっこう男子に人気あるよなって。
じっさい中学のころ、何度か告白されたって話も聞いた。誰かと付き合ったとは聞いてないけれど。
「天ヶ瀬、お前、御堂が好きならさっさといっちゃったほうがいいぜ。これ真面目な忠告」
長谷川がマジな顔で言った。
俺は内心、その通りだと思ったんだが、恥ずかしかったからウンともスンとも言わずにうつむいていた。
長谷川はもう、それ以上、なにも言わなかったが……。だけど休み時間の最後に言った。
「けどお前、付き合うならもう少しあとにしろ」
「なんでだ?」
「オレより先に彼女持ちになるとか許せねえからだよ。御堂であれ誰であれ、お前が本当にオンナ持ちになったら、殺すからな」
長谷川はニヤニヤ笑いながら言った。
俺も、負けじとばかり笑って返した。
「こっちのセリフだ。俺も、お前が彼女なんか作ったら許せんわ。そんときゃ、お前を殺す」
げらげらげら。
俺たちは、馬鹿みたいに笑い合った。
げらげらげらげら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます